「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

武器貿易条約(ATT)交渉結果:条約採択なし

ニューヨークの国連本部で本日まで4週間開催されていた武器貿易条約(ATT)交渉会議に、ずっと参加しておりました。

現在、会議最終日7月27日(金)午後5時半頃です。
結局、ATTは採択に至りませんでした。
今、各国の「がっかり」という趣旨の声明などが続いているところです。


とりあえずの速報でおゆるしください。
明日までに、このブログで、現在に至るまでの経緯を掲載いたします。

【7/31追記】(お詫び)アメリカ出国までに時間がなくなり、掲載が遅れてしまい申し訳ありません。以下、決裂までの経緯を簡単に述べます。

----------------------------------------------------
1. 26日草案をめぐって

26日草案の抜け道に関する記事や、24日草案から26日草案に至るまでの交渉状況に関する記事、あるいはオーウェン・グリーン(Owen Greene)による7月27日(金)の記事に記されているように、今回のATT交渉会議においては、モリタン議長原共同提案国(イギリス、オーストラリア、日本など)グループフランスなどを中心にした国々は、アメリカ、ロシア、中国、インドなどの取り込みを狙い、これら国々を説得しつつ、最終的には様々な抜け道を許容するなどした。一方で、20日(金)の有志国74か国声明の中心になったメキシコ、ノルウェー、ニュージーランド、CARICOMなどの国々は、7月交渉の決裂も視野に入れつつ、NGOと連携し、なんとか24日草案の文言を強化しようとした。

実際に、26日草案は、24日草案よりも文言が強まった部分もあった。例えば弾薬は、24日草案と同様に、26日草案も条約の規制対象にはならなかったものの、第6条の輸出規制の項目のなかで、弾薬の輸出に限って一定の規制を行う旨が書き込まれた。そしてこの第6条における弾薬輸出規制は、アメリカができる限り譲歩した結果なのだろうと言われていた。その一方で、アメリカは、24日草案の「コンセンサス」が無理な場合は3分の2による表決で条約改正が可能になっていたものを、26日草案では条約改正は「コンセンサス」でのみ可能にすることをはじめ、様々な要求を通そうとした。実際に、26日草案のなかにはアメリカが書き込んだ部分がかなりあり、「モリタン議長の文書」であるとともに「アメリカの文書」である、とも言われていた。

中国も、小型武器を規制対象にすることや、人権や人道などの移転許可基準を設けることを許容する姿勢を示しつつ、26日草案では、武器の贈与(譲渡)などを規制対象外と解釈できる書き方にすることや、地域統合組織による条約署名・批准を可能にする文言を削る(中国に武器禁輸措置を行っているEUが署名・批准できなくなる)ことを勝ち取った。また、26日草案後の議論では、人権や人道に関して中国は「柔軟性」を示したのだから、内政不干渉に関する文言を盛り込むべきだと主張した。

上述のように、26日草案は24日草案よりも若干規制が強くなった部分もあり(弾薬の部分的規制など)、27日(金)までにさらに若干規制を強くした場合、74か国声明に賛成した国々の一部は納得する可能性も噂された。しかし、26日草案にも曖昧な文言や「抜け道」が盛り込まれることになったため、20日(金)の74か国声明に賛成した国々の側からも、様々な批判がみられた。例えば、26日草案について、同日の本会議で、アイスランド、アルゼンチン、ウルグアイ、エルサルバドル、CARICOM、ギリシャ、グアテマラ、コスタリカ、コロンビア、コンゴ民主共和国、ジャマイカ、チリ、ドイツ、トリニダード・トバゴ、バハマ、ペルー、ボツワナ、メキシコ、モロッコなどは、弾薬を規制対象のカテゴリーに含めることを要求した。しかし、イギリスなどは、弾薬を規制対象リストに入れたかったが、26日草案における弾薬の扱いを受容する、という旨の発言をした。

また、26日(木)には、20日(金)の74か国声明の中心となった国々(ノルウェー、メキシコ、ニュージーランド、トリニダード・トバゴなど)やNGOが働きかけ、約80か国による有志国声明が作成され、会議場で配布された。声明には、弾薬が規制対象に入らず、規制対象の解釈が各国の裁量となり、贈与(譲渡)などを規制対象としないような条約は弱すぎる、移転許可基準は強い文言にするべきだ、といった見解が盛り込まれていた。しかし、20日(金)の74か国声明に賛成しなかった原共同提案国(イギリス、オーストラリア、日本など)グループは、この声明にも署名しなかった。

26日(木)深夜の本会議の段階でも議論がまとまっておらず、モリタン議長は特に論争が多い7エリアを特定し、小さいグループに分けた上で、各グループのとりまとめ役をつけて交渉することにした。それぞれの論点と、とりまとめ役の国は、以下のとおりである。
1)弾薬(ammunition/mutnitions): オランダ
2)非国家主体: トリニダード・トバゴ
3)ジェンダーに基づく暴力: フィンランド
4)地域統合組織: ニュージーランド
5)輸出国と輸入国の権利バランス: ウルグアイ
6)エンド・ユース(end use)かエンド・ユーザー(end-user)か: メキシコ
7)実施: スウェーデン
このうち、1(弾薬)と6(エンドユース)については26日(木)夜の本会議と同時進行で協議して、その他は27日(金)朝に協議することになった。

2. 27日(金)午前の本会議

27日(金)午前の本会議では、中国は地域統合組織の署名・批准には反対する一方で、ユーモア交じりに若干譲歩する姿勢を見せた。しかし、アメリカは、条約には不適切な点がいくつかあり、「さらに時間が必要である」と述べた。このアメリカの発言が引き金となった形で、ロシアに加えて、その他のATTの形成に反対していた国々が同調した。ロシアは、交渉にはもう2週間か3週間必要であるとした。ベネズエラは、草案はバランスを欠いていると述べ、キューバシリアが同意した。27日(金)12時代に、筆者がこの記事をアップロードを済ませた頃には、会議場の内外でも、NGO関係者のメールのやりとりでも、条約採択を不安視する声が高まっていた。
*なお、一部メディアの報道では「米中ロが反対」等と報じられているが、中国は上述の国々に同調してはおらず、むしろ上記のように譲歩するような(採択をブロックしなさそうな)姿勢を見せていた。

また、前日に論争が多いとされた7エリアのうち、実施に関しては9時から、輸出国と輸入国の権利のバランスについては10時から、小さい会議室で協議が行われた。地域統合組織、非国家主体とジェンダーについては、10時半過ぎに協議をするとのアナウンスが会場に流れていた。12時半、7グループのまとめ役が、協議の状況を報告した。エンド・ユースかユーザーかについてのグループは、コンセンサス形成に向かって議論をしていたが、その他の6エリアについては、それぞれの小さいグループにおいてすらコンセンサス形成に至っていないとの報告が続いた。
午後1時すぎ、モリタン議長は午前の本会議の終わりを告げた。この時点では、もうこの会議は決裂だろうという認識が多くの参加者に広まっていた。

2. 27日(金)午後の本会議

午後の本会議で配布されるかもしれないと言われていた新草案は、結局配布されなかった。会議は午後5時頃に始まり、モリタン大使は、今回の会議での条約採択を諦める旨を述べた。

20日(金)の74か国声明や、26日(木)の80か国声明の中心となったメキシコ、ノルウェー、ニュージーランド、CARICOM等の国々は、これら声明に署名を拒否した原共同提案国グループなどにも働きかけ、共同の声明を作成した。そして、今回の会議について落胆はしているが挫けてはおらず、今後のATTの形成を望むといった内容にしたうえで、会議場をまわって各国に署名を促した。
20日声明や26日声明に署名しなかった原共同提案国7か国とフランスも加わり、約90か国がこの声明に署名したが、ATT推進派のなかでも署名を拒否した国々も数十か国あった。この背景には、今回の声明の作成段階で原共同提案国が加わったことを受けて、26日草案に関して「国際社会の圧倒的な支持を受けている」旨の表現が声明に含まれたことがあった。26日草案に対して批判的であった国々のなかでも、とりわけアフリカ地域の20か国前後は、弾薬が規制対象になっていない条約案に「圧倒的な支持を受けている」などという文書に合意できない、として署名を拒否した。ただし、細かい文言には納得できなくても、大枠のところで(つまり、落胆しているが、ATTを形成していきたいという部分で)合意できるものであるとして、署名した国々もあった。

モリタン議長は、この会議に関する簡単な報告書(リンクからScribdでダウンロード可能)がコンセンサスで採択されたことを告げた。26日草案は、この報告書に附属されることになった。
----------------------------------------------------

交渉は決裂いたしましたが、8月7日(火)の帰国後報告会は開催いたします。
アメリカの要求の多くを呑んだ結果の文書を、アメリカはなぜ自ら否定したのか?
この交渉の決裂は、どのように評価できるものなのか?
今後の見通しはどうなるのか?

8月7日の報告会では、これらの点についても言及しつつ、ブログに書ききれない様々な側面について、お話できましたらと思っております。


ご都合にあいましたら、ぜひいらしてくださいませ。

-------------------------------------------------------------------------
【武器貿易条約(ATT)交渉会議・報告会(8/7)】
【テーマ】武器貿易条約(ATT):7月交渉会議の経緯と結果
【報告者】夏木碧(オックスファム・ジャパン ポリシーオフィサー)
【討論者】佐藤丙午(拓殖大学海外事情研究所)
【日時】2012年8月7日(火)19時00分から(18:30開場)
【場所】拓殖大学海外事情研究所 F館301教室 
【主催】「武器と市民社会」研究会
【参加費】無料

概要や会場についての詳細は研究会ブログでご確認ください。

【参加方法】事前登録制
8月6日(月)迄に、下記の宛先にEメールでお申込ください。
宛先:「武器と市民社会」研究会事務局 aacs_seminar@oxfam.jp
メール件名を「研究会参加申込」とし、メール本文に①お名前②ご所属をご記入のうえ、
当研究会からの登録確認のメールを受信いただけるメールアドレスからお送りください。
※定員(80人)に達した時点で締め切りとさせていただきます。
------------------------------------------------------------------------

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。4週間のATT交渉会議に参加している。)

関連記事

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://aacs.blog44.fc2.com/tb.php/95-62d0cad3
該当の記事は見つかりませんでした。