「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

ATT交渉会議:条約草案の分析

2012年7月ATT国連交渉会議第四週24日(火)午前、初めて条約草案が配布されました。会議は27日(金)までです。

24日昼、早めに情報共有をと思い、Scribdにアップロードいたしました。
後で解説記事を書くことができればと思いますが、ご関心おありのかたは、直接にご覧になってください。
24日条約草案のダウンロードはこちら(Scribd)です。

追記:7月24日夜、以下の解説を加筆いたしました。なお、当面の情報共有のために急いで作成しましたので、文章が整っていない等の問題や、後で気づいた点については、後ほど修正・追加できましたらと思っております。

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[7月24日夜加筆]
以下、この草案の主な特徴を紹介する。
★ 全体的には、短時間で大雑把に読むと比較的包括的なように見えるが、細かい文言を検証すると、規制対象外になる兵器や行為が多く、裁量や解釈の余地が大きく、相互に矛盾する文言もみられる。

【前文】
  以前の文書に比べて、通常兵器の非合法取引や規制なき取引の帰結に関する文言が短くなっている。
BEFORE 例:7月17日前文・原則非公式文書(Scribd)
9. Recognizing that the absence of commonly agreed international standards for the transfer of conventional arms that address, inter alia, the problems relating to the unregulated trade of conventional arms and their diversion to the illicit market is a contributory factor to armed
conflict, serious violations of international humanitarian and human rights law, the displacement of people, armed violence, gender based violence, organized crime and terrorism, thereby undermining peace, reconciliation, safety, security, stability and sustainable social and economic development;
AFTER 7月24日草案前文
10. Recognizing the security, social, economic and humanitarian consequences of the illicit trade in and unregulated trade of conventional arms;
 汚職行為を伴う武器移転による悪影響に関連する文言が消えている
BEFORE 例:7月17日前文・原則非公式文書(Scribd)
10. Mindful of the concerns regarding the potential impact of unregulated trade of conventional arms on sustainable development and the possibility of furthering corrupt practices;
AFTER 無し

【第1条: 目標・目的】
 7月19日(木)非公式協議を通じての目標・目的文書(以前の記事に少し解説あり)と同様に、通常兵器の非合法取引の防止や根絶、非合法市場への流出/迂回といった側面に焦点が当たっている。
  国際人権法、国際人道法、開発といった目的は一切明記されておらず、「人的被害(human suffering)」という文言が入っているのみである。
 「移転(transfer)」ではなく「貿易(trade)」という文言が全面的に使用されている。前文でも「貿易(trade)」という文言が多い。中国は、贈与(gift)やリース(leases)などを規制対象にすることに反対していた。「貿易」という文言にすると、贈与やリースなどは規制対象ではないという解釈も可能である。

【第2条A: 規制対象(品目)】
★ 以下のとおり、以前の非公式文書に比して全体的に非常に限定的であり、限られた範囲の兵器しか規制対象にしておらず、書き方も曖昧で解釈の余地がある。
 重兵器は、国連軍備登録制度の7カテゴリー(以前の記事で解説したように、重兵器のなかでも非常に狭い範囲の兵器しか対象にしていない)に準じた書き方であり、それに小型武器・軽兵器が加わったのみ(3頁目第2条A1(a)-(h))
 国連軍備登録制度に準じた7カテゴリーと小型武器・軽兵器を羅列した部分の上に、以下の文言が挿入されている。
「A. 対象品目(Covered Items)1. 本条約は、以下のカテゴリーの範囲内の全ての通常兵器に適用する(1. This Treaty shall apply to all conventional arms within the following categories )」(3頁目第2条A1)
よって、7月3日非公式文書のように、「各国の裁量で狭く解釈して7カテゴリーに限定してしまうことも可能である」というレベルではなく、明らかに国連軍備登録制度の7カテゴリーの範囲内となる書き方である。
 第2条A4には、各締約国は第2条A1(上記の7カテゴリーと小型武器・軽兵器)に当てはまる(fall within)品目を含む規制リストを適切に(as approptiate)作成・維持するとして、その規制リストは各国で定義する(as defined on a national basis)ものとしている。よって、例えば、各締約国のレベルで、「小型武器・軽兵器」には猟銃やスポーツ用ライフルは含まれない、といった解釈をすることも可能である。
 弾薬(munitions)や部品・構成部分については、第2条A2とA3に別途記述されている。しかし、「第2条A1に書かれた兵器の輸出(export)に関する各国の管理が、弾薬や部品・構成部分の輸出(export)によって回避されない(are not circumvented)ために必要な程度の管理システムを形成・維持する」という表現であり、締約国が具体的にどのような規制をすることを意味するのか明確ではない
 上記のように、各締約国は規制リストを適切に(as approptiate)作成・維持し、その規制リストは各国で定義するものとしている。ただし、規制リストについては、各締約国は「国内法で認められた程度(限り)において(to the extent permitted by national law)公開する、としている(第2条A4)。よって、この条約にもとづいて各国が何を規制するのかについて、公開されるという保証はない
 武器の開発・製造・維持のための技術や設備等は規制対象外である。汎用品や催涙ガスなども規制対象外である。
 上記の7カテゴリーと小型武器・軽兵器の箇所について、「パラグラフA1(a)-(h)」(第二条A2)、「パラグラフA1」(第二条A3)、「パラグラフ1」(第二条A4)と表現がバラバラである。

【第2条B: 規制対象(行為)】
★ 以下のとおり、以前の非公式文書に比して、限定的に解釈することができる書き方になっている
 第1条と同様に、第2条B1でも、まず「貿易(trade)」という文言が使用されており、贈与やリースなどは規制対象ではないという解釈も可能である。
 輸出、輸入、ブリ―カリング(仲介)、通過・積替の定義は、第2条Bにも、第6条から第10条にも一切書かれていない。ゆえに、各国の裁量で非常に狭く解釈することが可能である(例えば、仲介の定義を非常に狭く解釈して、売り契約と買い契約の片方だけに関わる場合は除外したり、口利きを除外したり、輸送業者を除外するなど)。
※これについては、先週の記事のとおり、7月会議中、日本などが行為の定義の削除を求めていた。

【第3~5条: 移転許可基準】
★以下の通り、一見強い規制に見えて、規制対象を狭める文言や、強い規制を打ち消すような文言が散在している。
 国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる行為は、「輸出(export)」に限定されており、ブローカリング(仲介)などについては、そうした評価が必要ない。
 国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる品目は「この条約の規制対象の範囲内の通常兵器」とされており、上述の国連軍備登録制度7カテゴリーと小型武器・軽兵器のみという解釈が可能である。よって、例えば、弾薬や部品・構成部分の輸出については、国際人権法の重大な違反に使用されるかどうかといった評価する義務はない
 ジェノサイド、人道に対する罪や戦争犯罪についての文言は、これらの行為の遂行を助長する意図で(for the purpose of facilitating the comission of...)この条約の規制対象の兵器を移転を許可してはならない(shall not)、としている。これらの行為の遂行を助長する明確な意図をもって行うことはしない、という限定的な文言であり、「リスクがある」という程度は含まれなくなる。
 「国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される」といった基準の前に、「Whether the proposed export of conventional arms would」という言葉が入っているが、この最後の「would」という文言によって、かなりの確実性をもって予見できる場合に限定されるという解釈が可能である。
 「国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される」、「国際人道法の重大な違反の遂行や助長に使用される」といった基準とともに、「平和や安全保障に寄与する」という基準が並んでいる(第4条)。よって、国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される可能性が大きくとも、「安全保障に寄与するため」ということで輸出する行為を正当化することも想定しうる。
 大きなリスクがある場合は移転許可をしない(shall not) という文言になっており(第4条5)、一見して文言が強いが、その前に「許可をする締約国の視点から見て(in the view of the authorizing State Party)」という文言が入っている。もちろん、この文言が入らなくとも、移転許可に基づく判断は許可をする締約国が行うことになる。ただし、この文言が入ることで、許可をする締約国の視点で判断することを、条約上正当化することになる。これは、主観的判断を条約で明確に認めることにもなりうる。しかし、同条3では、評価する国は、一貫した(consistently)、客観的で差別的でない方法(in an objective and non-discriminatoru manner)で移転許可基準を適用する、としており、整合性に疑問が残る。
 第4条の人権等に関する移転許可基準を適用する行為を輸出(export)としつつも、同じ第4条の後半は、輸出(export)、移転(transfer)といった言葉が混ざっている。単純な推敲上の問題かもしれない。
 第5条では、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、といった文言がある。しかし、これらの文言の上には、締約国は、輸出を許可する際にこうした状況を「回避するために、移転に関わる他の国(輸入国を想定?)と共同での行動を含めて、適切な措置をとることを検討する」旨の文言が書かれている。よって、武器の輸出が非合法市場へ流出/迂回する可能性等があったとしても、輸出を許可しても構わないのであり、非合法市場に流出/迂回することを回避するための「措置をとることを検討」すれば良いことになる

【第6~15条:実施関連の規定】
 第6条2では、この条約は締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、とされている。よって、国際人権法の重大な違反の遂行に使用されることが分かっていたとしても、締約国の防衛協力合意上の契約義務であれば、武器を移転できるという解釈も可能である
 上述のように、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替など、全く定義されていない。よって、行為の対象を狭く解釈することも可能である。
 ブローカリング(仲介)規制については、第9条の2行半の文章で、この条約の規制対象の通常兵器(=国連軍備登録制度7カテゴリーと小型武器・軽兵器)について、国家の管轄内で行われる仲介について、「各国の法規制の範囲内で適切な措置をとる」とされているのみである。具体的な規制の義務を課すものとは言い難い
 報告義務の対象となる兵器は、第2条A1(=国連軍備登録制度の7カテゴリーと小型武器・軽兵器)に限られる(第11条5)。その他の、弾薬や部品・構成部分の移転などについては報告の対象になっていない。
 ATTの実施支援ユニットに報告する報告書に含める情報の種類は、国連軍備登録制度などに提出する情報と同じにしてもよい(may)とされている(第11条5)。以前の記事でも解説したとおり、国連軍備登録制度では、各国の輸出や輸入に関する報告書が公開されるが、報告書に含める情報は非常に大雑把であるため、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しい。草案では、履行支援ユニットが報告書を公開する旨の文言が入っている(第11条5)が、既に国連軍備登録制度を通じて公開されている情報と同じ内容であれば、一般公開される情報の内容は現状と変わらないだろう。国連軍備登録制度は、小型武器についても任意での報告を促しているため、ATTによって小型武器についての移転情報が公開されても、報告・公開される情報内容が国連軍備登録制度のものと同じであれば、現状から大きく変わらないであろう。また、報告書は国家安全保障上の機密性(national security sensitivities)や商業的な機密(commercially sensitive)と一貫性をもつ、とされている(第11条5)。何が機密であるかは各国の裁量に委ねられるため、「機密である」として報告しないことも可能である。

【第16~25条:最終規定関連】
 発効条件は65か国の批准等である。
 条約の改正は、コンセンサスが無理な場合は出席かつ投票する締約国の3分の2による改正が可能となっている。
 締約国会議と履行検討会議が、一つに統合されている。
 紛争解決(dispute settlement)に、第三者による仲裁という選択肢が含まれている。

以上。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。4週間のATT交渉会議に参加している。)

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