「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

ATT交渉:7月16日実施非公式文書の分析(&国連での活動)

武器貿易条約(ATT)交渉会議も、残り実質8日間を切りましたが、まだ正式な条約案がでていない状況です。

ATTに関するブログ記事の作成者(夏木)は、会議中に作成・配布された非公式文書の分析、このブログでの日本語の分析解説や資料作成の他に、ATTの交渉状況やテクニカルで分かりにくい論点に関して、メディアなどの方々への説明をしております。

加えて、全ての国について、公開・非公開の全ての会合のノートや、NGOと各国政府のインフォーマルな会合のノート、カフェでの会話の記録などをとりまとめる作業をしております。主要委員会のうち半分は非公開になりましたが、メキシコなどNGOに協力的な国々の政府代表団にNGOのメンバーが入っているため、様々な記録や資料を入手できます。

また、国連ATT交渉では、過去の準備委員会も今回の会合でも、基本的に地域のNGO単位で調整をしています。アジアのNGOには、会議第3週目からの1週間か2週間だけ参加するメンバーも多いため、会議前半2週間のアジア地域の各国の発言を1つの資料にまとめ、アジア地域からのNGOに配布しております。書類は、アジア地域の各国との会合や会議場・カフェなどでのロビイングの準備に使われています。ロビイングの結果について、アジア地域のNGOの方々が私に送付した情報は、随時資料に反映して共有しております。

たまには面白いことをしようと思い、こんなアクションもしてみましたが、主には情報分析や解説の仕事と言えるかと思います。

情報分析系以外のNGO関係者(メディア対応関連や、全体のマネジメント関連など)は、各国の細かい立場を必ずしも把握していないため、たまにメディア・一般向けの発信にミスがあるのが悩みの種です。ともあれ、日本に帰国後に開催する報告会(8月7日)では、各国の立場を細かく説明することができるのではと思います。

★前置きが長くなりましたが、以下では、前の記事に資料のアップだけした非公式文書のうち、実施セクションに関する文書(7月16日配布。こちらからScribdでダウンロード可能)の解説をいたします。このセクションは、一見地味ですが、規制対象と移転許可基準と並んでATTの基幹部分と言えます。

※ 以下では、この文書の内容(以下、7月16日実施文書)についての分析を述べます。なお、以下の記録や分析は作成者(夏木碧)の個人的なものであり、所属団体の公式なものではありません。また、当面の情報共有のために急いで作成しましたので、文章が整っていない等の問題や、後で気づいた点については、後ほど修正・追加できましたらと思っております。7月19日、説明を加筆しました(青い文字の部分)。

★7月16日実施文書について★
 7月16日(月)の主要委員会で、条約の「実施」セクションに関する条文についての、主要委員会の非公式文書が配布された。なお、「実施」セクションのうちの、ISU(実施支援ユニット)や国際協力・支援に関しては、別途非公式文書が作成されている。

全体的には、7月16日実施文書は、"shall"(注:強い義務を示す)という文言を使用するなどした強い文言がある一方で、"where necessary"(必要な場合は)、"when appropriate"(適切な場合は)、"may"(注:任意であり、義務ではないことを示す)といった文言が多用されている。

【1. 国家の許可制度(National Authorization Systems)】
 1頁目パラグラフ5は、以下のように書かれており、この条約を実施するなかで、例えば国際人権法の重大な違反等に使用される可能性等の移転許可基準に基づいて判断した時に、大きなリスクがあり、移転すべきではない場合であっても、既に契約済みの通常兵器の移転を無効にする理由にしてはならない旨が書かれている。

5. Each State Party, when appropriate, shall honour its contractual obligations on transfers. This treaty shall not be cited as grounds for voiding contractual obligations undertaken under bilateral or multilateral defence cooperation agreements.

 想定される事例としては、最近のロシアからシリアへの移転のように、既に契約済みの兵器については、シリアでその兵器がどのように使われる可能性があろうとも、契約を履行することになりうる。

【2. ブローカリング(仲介)】
 2頁目パラグラフ11のブローカリング(仲介)に関しては、国際人権法、国際人道法等に関する移転許可基準に照らし合わせた規制をする義務は一切盛り込まれていない。このパラグラフには「管理のために必要な措置をとる」旨が書かれたのみであり、締約国が行う規制の内容についても"may"という文言が使用されており、どのような管理にするか各国の裁量に委ねられている。
現在、仲介については、規制があまりにも弱すぎると、NGOからの強い批判を受けている。

では、各国はどのような規制を主張しているのか?以下では、ブローカリング(仲介)についての日本の見解を分析する。
◆ブローカリングについての、ATT交渉会議での日本の見解分析◆
◆A. 7月10日:国際人権法や国際人道法等に関する移転許可基準に照らし合わせて規制する義務を課すのは、輸出のみにする。輸入、ブローカリング、通過・積替には、そうした移転許可基準に照らしあわせた規制義務はなくして、「実施」のセクションなどで扱うべき(下のDがその「実施」セクションでのブローカリングに関しての提案)
◆B. 7月16日:ブローカリングの定義は、「輸出あるいは輸入の仲介(Brokering of exports or imports)」とすべき。
◆C. [7月18日規制対象非公式文書(7月19日18時現在の議論のベースになっている文書)におけるブローカリングの定義:bringing together relevant parties and arranging or facilitating a potential transaction of conventional arms in return for some form of benefit, whether financial or otherwise・・・これだと、Bで日本が支持した定義より幅広い行為が規制対象となる。]・・・7月18日の日本の見解:行為の定義は削除すべき。
◆D. 7月12日:「実施」セクションのブローカリングの部分に関する日本の提案
"Each State Party shall, where necessary and practicable, take all appropriate legal, administrative and other measures to regulate the brokering of exports or imports of conventional arms covered by this Treaty by persons in territory under its jurisdiction."
この提案の趣旨:締約国は、自国の管轄の下にある領域内の人による、この条約で規制される通常兵器の輸出あるいは輸入の仲介の規制のために、必要であり、なおかつ実施可能な場合は、法的・行政、的その他の全ての適切な(appropriate)措置をとる。
➤2011年文書の実施のセクション(7頁A:Aurhorization Systems-5)に書かれていたような、ブローカーが、仲介行為を行う前に国に登録するようにする制度は無し
➤2011年文書には、仲介に関して、他国に居住する自国民による仲介行為も規制するという意味合いの文言("brokering activities taking place within its territories or by its nationals")があり、ベルギーなどが支持し、日本を含めた国々が反対していたが、上記の日本の提案では、明確に規制対象外
➤仲介の定義も、Bと同じ「輸出あるいは輸入の仲介」であり、規制対象の行為の範囲は現在の議論のベースになっている文書(C)よりも狭い。
➤「必要であり、なおかつ実施可能な場合は」、「適切な」など、規制を行うかどうかの判断が各国の裁量に任される
全体的に、日本は、7月19日18時現在の議論のベースになっているブローカリング規制の文言よりも、さらに弱いレベルの規制を主張していると言える。ブローカリングの定義も狭く、移転許可基準に基づいて規制をする義務はなく、何らかの規制を行うかどうかも各国の裁量に任される。


【3. 通過・積替】
 2頁目パラグラフ12-14の通過・積替に関しては、仲介と同様に、通過・積替についても、国際人権法、国際人道法等に関する移転許可基準に照らし合わせた規制をする義務は盛り込まれていない。また、"where necessary", "may", "where feasible and upon request", "where necessary and feasible"などの文言が多く使用されており、具体的な規制義務はあまり無い

◆通過・積替についての、ATT交渉会議での日本の見解分析◆
◆A. 7月10日:国際人権法や国際人道法等に関する移転許可基準に照らし合わせて規制する義務を課すのは、輸出のみにする。輸入、ブローカリング、通過・積替には、そうした移転許可基準に照らしあわせた規制義務はなくして、「実施」のセクションなどで扱うべき(下のCがその「実施」セクションでの通過・積替に関しての提案)
◆B. [7月18日規制対象非公式文書(7月19日18時現在の議論のベースになっている文書)における通過・積替の定義:physical passage across the territory of a State with or without warehousing or change in mode of transportation, as part of a complete journey)・・・7月18日の日本の見解:行為の定義は削除すべき。
◆D. 7月12日:「実施」セクションの通過・積替の部分に関する日本の提案
Each State Party shall, where necessary and practicable, take all appropriate legal, administrative and other measures to monitor and control conventional arms covered by this Treaty that transit or tranship through territory under its jurisdiction, consistent with international law.
➤「必要であり、なおかつ実施可能な場合は」、「適切な」など、規制を行うかどうかの判断が各国の裁量に任される。
➤通過・積替の定義も、各国の裁量に任されることになりうる。


【4. 記録、報告、透明性】
 3頁目から4頁目にかけての記録、報告、透明性の部分については、輸出に関しては報告書を履行支援ユニットに提出することになっているが、輸入、仲介、通過・積替については報告することになっていない(パラグラフ25)。また実施支援ユニットに提出したものと同じ報告書を国連軍備登録制度に提出することになっている(パラグラフ26)。

 2011年7月文書とは異なり、7月16日実施文書では、記録する、輸出について報告する、といった義務("shall")は書かれているが、具体的にどのような内容(数、価格、契約数、輸出先、最終使用者など)を記録し報告するのかは一切明記されていない。報告書に盛り込む内容については、締約国会議で決定するといった選択肢も可能であろう。そして、交渉会議もあと7日間しかなく、しかも公式な条約案がないことに鑑みると、7月交渉において、報告書に盛り込む内容にまで合意することは困難であろう。ただし、その結果として、報告内容を非常に大雑把なものにして、具体的にどのような兵器が輸出されたのか分からないような報告制度にすることも可能である。

 2012年7月3日文書では、報告は重兵器と小型武器・軽兵器の移転に限られ、弾薬や部品・構成部分の移転については報告しないことになっていたが、7月16日実施文書には、弾薬等を報告義務の対象外とする文言はない。

 報告書は締約国に共有されることになっている(パラグラフ25)になっているが、公開されるという文言は書かれていない。国連軍備登録制度では、提出された報告内容が公開されるため、この制度を通じて間接的に公開されるという解釈も可能である。確実に公開されるようにすべく、EU、CARICOM、日本などは、実施支援ユニット(Implementation Support Unit: ISU)が報告書を一般公開することを支持しているが、パキスタンなどは、公開するかどうかの決定は各国に委ねるべきと主張している。 ただし、輸出のみについて、ATTと同じ報告書を国連軍備登録制度に提出することになっている(パラグラフ25)ため、締約国は、各国独自の判断で、あるいは締約国会議で合意するなどして、ATTの報告書のフォーマットや報告内容を、国連軍備登録制度に提出する報告書と同じものにすることも想定しうるしかし、国連軍備登録制度の報告内容は非常に粗く、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しいという難点がある。その場合、条文に「各締約国ないし履行支援ユニットが報告書を公開する」旨の文言が入る場合も、国連軍備登録制度を通じて間接的に公開される場合も、一般に入手可能な情報は現状とあまり変わらなくなる可能性もありうる。

● 情報の公開は、過去の移転規制においても大きな問題であった。移転を規制し、移転情報を公開することについては、「透明性確保」、「信頼醸成」といった目的が掲げられる。しかし、武器の調達を輸入に頼る国々の軍備情報のみが公開され、自国内で武器を一定程度以上製造・調達できる国々の軍備情報はあまり公開されないという、不平等な性質を持つことは否定しがたい。また、移転情報の公開は、必ずしも信頼醸成にはつながらず、不信感や軍拡競争につながる(例:隣国が武器を大量に輸入した情報が公開された場合など)といった指摘もある。

以上。また分析して、報告いたします。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。4週間のATT交渉会議に参加している。)

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