「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

安全保障輸出管理 概論③

安全保障輸出管理 概論③

5.リスト規制とキャッチオール規制
大量破壊兵器等の拡散の防止と通常兵器の過剰蓄積の防止という目的に合意する諸国は、安全保障輸出管理についての紳士的な申し合わせに基づく多国間の枠組みを組織しています。こうした枠組みとしては、①核兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制する「原子力供給国グループ(NSG)」、②生物・化学兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制する「オーストラリア・グループ(AG)」、③大量破壊兵器の運搬手段に関連する貨物の輸出や技術の提供を規制するMTCR、④通常兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制するWA、の四つがあります。
これら四つの枠組みは、条約に基づくものではないので法的拘束力を有していませんし、参加国数もそれぞれ数十カ国と決して多くはないため、普遍的でもありません。しかし、これら四つの枠組みでは、輸出や提供が規制されるべき貨物や技術の種類やその詳細な仕様などについて検討され、参加国の合意を踏まえたリストが作成されています。四つの枠組みのそれぞれで作成されたリストに基づき、参加国は国内法を整備し、輸出管理を実施するということになっており、リストに掲載されている貨物を輸出したり技術を提供したりする際には、政府当局(日本の場合は経産省)の許可を受けることが必要となります。これが安全保障輸出管理における「リスト規制」と呼ばれているものです。リスト規制を実施する上での具体的な運用の基盤となっているという意味では、これら四つの枠組みは安全保障輸出管理において不可欠なレジームであると評価できます。なお、これら四つの枠組みについては後で引き続き詳しく説明します。
一方、1991年の湾岸戦争終結後、国連の査察団がイラクに査察に入った際、リスト規制の対象外となっていた貨物や技術を活用し、イラクが生物・化学兵器や核兵器を開発しようとしていたことが判明したため、リスト規制対象外の貨物や技術も含めた輸出規制が、欧米諸国を中心に導入されるようになりました。これにより食料や木材などを除いたほぼすべての品目が輸出規制の対象となるため、新たに導入された輸出規制は「キャッチオール規制」と呼ばれています。「キャッチオール規制」においては、貨物や技術を入手する需要者が兵器の拡散に関与している者であるのかどうか、また、需要者が貨物や技術を入手する目的が兵器の開発であるのかどうかを確認することが重要となります。つまり「キャッチオール規制」は、貨物の輸出や技術の提供をする際の「需要者」と「用途」のチェックに基づいた輸出規制であると言えます。安全保障輸出管理は、大きく「リスト規制」と「キャッチオール規制」の二本柱で成り立っています。

<メモ8>
日本は四つの枠組みすべてに参加しています。四つの枠組みで作成されたリストを国内法制に反映し、貨物については「輸出貿易管理令別表第1」で、技術については「外国為替令別表」で輸出許可を要する貨物と技術の種類を定めています。また、輸出許可を要する貨物と技術の具体的な仕様については「輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づく貨物又は技術を定める省令」で規定されています。

<メモ9>
キャッチオール規制では、たとえ需要者が疑わしい者であっても、用途の方は兵器開発とまったく関係がないということが明らかになれば、貨物の輸出や技術の提供が許可されることがあり、需要者が疑わしいということだけを理由に、不許可となるということはありません。

<メモ10>
大量破壊兵器などの拡散への関与が懸念される需要者については、日本の場合、経産省が作成した「外国ユーザーリスト」(PDFファイル)に掲載されています。なお、「外国ユーザーリスト」に掲載されているというだけで、貨物の輸出や技術の提供が不許可になるわけではありません。また、米政府が作成しているリストも、懸念される需要者の確認のため目を通す必要があります。具体的には、①米国商務省発行の「米国輸出管理規則違反禁止顧客リスト(Denied Persons List)」で、同規則の違反により取引が禁止されている企業と個人のリスト、②同じく商務省発行の「大量破壊兵器拡散懸念顧客リスト(Entity List)」(PDFファイル)、③財務省発行の「特別指定国民及び資格停止者リスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons, SDN)」で、国連制裁国、米国禁輸国、テロ支援国の政府関係機関や関連企業などの個人と法人のリスト(PDFファイル)などです。

6.拡散に対する安全保障構想(PSI)の位置付け
日本を含む各国が自国の領域にとどまらず、自国の領域を越えて他国と協力し、大量破壊兵器やミサイルなどの関連貨物を密輸している疑いのある船舶などに対して立ち入り検査などを実施し、密輸を阻止する「拡散に対する安全保障構想(Proliferation Security Initiative, PSI)」と呼ばれる取り組みがあります。PSIの詳細についてはこちらを参照して下さい。PSIは、輸出管理そのものではありませんが、大量破壊兵器等の拡散に関与していると懸念される船舶などを対象に立ち入り検査を行う際、軍と連係して強制的に実施することも想定されていることから、PSIを「強制的輸出管理(coercive export control)」と位置付ける専門家もいます。例えば、米国のシンクタンク、外交問題評議会の研究員であるマイケル・レビ氏とブルッキングス研究所の研究員であるマイケル・オハンロン氏の共著“The Future of Arms Control”のp.70でこのことが指摘されています。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

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