FC2ブログ

「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

安全保障輸出管理 概論①

安全保障輸出管理 概論①

1.安全保障輸出管理とは
安全保障輸出管理とは、国際の平和と安全の維持が妨げられるような事態を防ぐため、大量破壊兵器等の拡散防止と通常兵器の過剰蓄積の防止を目的に、これらの兵器の開発や製造を企図する国や非国家主体(企業や個人、武装勢力やテロリストなど)に対して、必要な貨物の輸出や技術の提供を規制し、入手を困難にさせることを言います。例えば、ある貨物が輸出先で核兵器の開発に使われるおそれがある場合には、輸出申請を許可しないことで、核兵器の開発にその貨物が使われてしまうことを未然に防止しようとするものです。ただ、安全保障輸出管理においては、審査の結果、輸出申請が許可されれば輸出は可能であるため、禁輸措置とは異なるという点にも注意が必要です。なお、日本では公式には安全保障貿易管理と言われていますが、売買取引とは関係のない国外への物の持ち出し行為も規制の対象となっているため、ここでは安全保障輸出管理という言葉を用いて説明することとします。

<メモ1>
日本の経済産業省は「安全保障貿易管理」という言葉を用いています(こちらを参照)。なお、経産省は「安全保障貿易管理」という言葉に該当する英語については、Export Controlという語を用いているようです。

<メモ2>
安全保障輸出管理については、日本では「外国為替及び外国貿易法(外為法)」で規定されていますが、外為法において「輸出」がはっきりと定義されているわけではありません。ただ、外国に物を出すという行為は、その形態や手段がどんなものであれ輸出に当たると解釈されているため、商取引における製品の輸出だけでなく、例えば、①海外で開催される展示会への出品、②外国から輸入した製品に不具合がある場合の修理のための返却、③製品の評価を外国で行うための試作品の送付、④自分が使用し、持ち帰るノートパソコンなどを携行しての出国、なども輸出に該当し、管理の対象となっています。安全保障輸出管理についての外為法の規定の具体的な運用について定めた輸出貿易管理令第4条や、貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条などを参照して下さい。安全保障輸出管理に関する外為法やその他の関係法令の規定については、経産省のこちらのサイトで確認できます。

2.貨物と技術について
安全保障輸出管理における「貨物」とは資機材も含めた物品一般を指しており、完成品か部品かを問わず、およそ物として化体していれば、ほとんどが「貨物」に該当します。また、「技術」とは、貨物の設計や製造、使用に必要な特定の情報のことを指します。そして、こうした情報は「技術データ」もしくは「技術支援」の二つの形態により提供されると考えられており、これら二つの形態による兵器の開発・製造が疑われる者への技術提供が規制されています。「技術データ」とは、文書、ディスク、テープ、ROM、USBメモリなどの媒体もしくは装置に記録されたものであって、写真、設計図、線図、モデル、数式、設計仕様書、マニュアル、指示書などの形態をとるもの、またはコンピュータプログラムのことを言います。「技術支援」とは、技術指導、技術訓練、作業知識の提供、コンサルティング・サービスなどの形態を取るものであり、技術支援においては、技術データの提供が含まれることもあります。技術提供の手段としては、情報を記録したものの提供と、記録を伴わない口頭による提供があります。情報を記録したものの提供としては、技術データの直接の引き渡し、電子メールやFaxによる送信などがあります。情報を記録したものの提供と口頭による技術提供の双方が規制対象となっています。
なお、貨物の輸出については物を外国に出すという行為が問題になりますが、技術提供の場合は、例えば日本に住む居住者が日本にいながら外国人(日本の安全保障輸出管理においては「非居住者」という語を用いています。なお「非居住者」は外国人だけではありません)とやり取りする場合も管理の対象となっています。現在では一般に使われている多くの民生用の貨物と技術を軍事用途にも転用することが可能であり、ほとんどの貨物と技術は民生用・軍事用の双方に利用可能な汎用(dual-use)品・汎用技術であると言っても過言ではありません。その結果、意図的であるかどうかにかかわらず、軍事とは無関係な民間企業や個人が、いつの間にか兵器の開発に結果的に関与してしまう危険性があるという点に、安全保障輸出管理における問題の難しさがあります。

<メモ3>
安全保障輸出管理における「居住者」と「非居住者」の概念については、一般財団法人安全保障貿易情報センターのこちらのサイトのA.1-12を参照のこと。なお、米国の場合、「居住者」と「非居住者」という概念を用いておらず、安全保障輸出管理上の規制は国籍によります。英文になりますが、米国輸出管理規則(PDFファイル)の§734.2の(b)の(5)を参照のこと。同じく英文ですが、米国輸出管理規則の全文については、米国商務省・産業安全保障局のこちらのサイトで確認できます。

<メモ4>
大学や研究機関が外国から留学生を受け入れたり、外国の大学や研究機関と共同研究を実施したりする場合に技術提供がなされる場合も、原子力のような特定の分野に限らず、広く工学系や医学・薬学系、理学系などの分野であっても兵器の開発に利用されるおそれがあるため、安全保障輸出管理のルールを遵守することが重要であるとの認識が強まっています。例えばこちらの経産省のサイトを参照のこと。

<メモ5>
違法な核兵器関連貨物・技術の調達ネットワークである「カーンネットワーク」(パキスタンの核兵器開発に従事したアブドゥル・カディール・カーン博士が中心人物であったためその名に因んでいる)を通じて、リビアに核兵器開発に必要な遠心分離器の部品が提供される際、原子力産業とは何の関係もなく、大量破壊兵器の拡散につながる行為とも無関係な合法な取引を行っていると考えられていたマレーシアの自動車部品や精密機械を扱う企業が巻き込まれていました。英文ですが2004年2月に出されたマレーシア警察の捜査報告書(PDFファイル)を参照。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

関連記事

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://aacs.blog44.fc2.com/tb.php/63-61ad14e9
該当の記事は見つかりませんでした。