「武器と市民社会」研究会

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武器貿易条約(ATT)3月22日条約草案の分析:その2

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案は、Scribdにアップロードしました。

基本的に、3月22日草案は、7月26日草案や3月20日草案と比べて、構成は変わったものの、規制内容が大幅に変わったとは言えません。ただし、構成が変わったことで、前の草案と比較をしようとしたところ、かなりの作業が必要でした。今後の備忘録を兼ねて、3月22日草案の分析を、3つの記事に分けて掲載しております。以下の第2弾は、実施、移転の禁止、輸出の評価に関する条項を扱います。

【第5条:実施】
 以前の記事で指摘したように、7月26日草案では第3条(移転禁止)・第4条(輸出評価)の直後にあった第5条(実施)は、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、第4条(移転禁止)の直前の第3条に移されていた。3月22日草案でも、第6条(移転禁止)の直前の第5条として置かれている。

 7月26日草案の第5条2の第1センテンスは、この条約の実施は、他の文書(other instruments)によって負う義務に影響を及ぼすものではない旨を述べていた。これは曖昧な表現ではあるが、ATTよりも他の合意のほうが優先されると解釈される可能性があった。さらに、7月26日草案の第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としていた。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されていた。
この文言が削除されたことにより、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能になってしまう可能性が指摘できた。また、ここでの「防衛協力合意」は特に定義されていないため、武器の移転の際に「防衛協力合意に基づく契約義務である」として、条約の規制をのがれることができる可能性も指摘できた。※2012年7月の交渉会議中、最近のロシアからシリアへの移転(参考資料1参考資料2)も、これにあたると解釈される可能性が指摘されていた。また、インドは、アメリカからインドへの移転(参考資料3)などへの影響を懸念したと言われていた。
この問題は、3月22日草案第5条2でも同様である。ただし、3月24日の時点で、アメリカとインドを中心にした国々で、この問題に関する妥協案を検討しているという噂があった。今後の3月27日(水)草案でどうなるかが注目される。
 7月26日草案の第5条にも、草案の他の部分にも、この条約を実施するための国内法への違反について処罰する義務は明記されていなかった。この問題は、3月22日草案でも同様である。

【第6条:移転の禁止】
7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条1から3においては、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読むこともできる。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾が指摘できる。

 7月26日草案の第3条2では、武器の国際移転について、各締約国が加盟している条約上の義務に反するような移転をしない(shall not)と書かれていたが、国際慣習法に反する移転については禁止されていなかった。この点については、2013年2月半ばにノルウェーが各国に配布した非公式見解書で、「国際慣習法に反する移転は禁止されないことを含意しうる」と指摘されていた。この問題は、3月22日草案第6条2でも同様である。

 7月24日草案と同様に、7月26日草案の第3条3においても、ジェノサイド、人道に対する罪や戦争犯罪についての文言は、これらの行為の遂行を助長する意図で(for the purpose of facilitating the comission of...)この条約の規制対象の兵器を移転を許可してはならない(shall not)、としていた。つまり、これらの行為の遂行を助長する明確な意図をもって行うことはしない、という限定的な文言であり、「大きなリスクがあることを認識している」という程度の場合はあてはまらないものであった。
【この問題については、7月26日草案に関する分析記事をご覧ください。】
3月22日草案第6条3では、移転の許可の時点で、上記の行為の遂行に使用されることが分かっていれば(if it has knowledge at the time of authorization that the arms or items would be used....)という文言になっており、「意図」の問題は解決されたと言える。ただし、3月22日草案第6条3では、「移転の許可の時点で」とされているという点では限定的である。

 7月26日草案の第3条3は、戦争犯罪(war crimes)に関して、「war crimes constituting grave breaches of the Geneva Conventions of 1949, or serious violations of Common Article 3 of the Geneva Conventions of 1949.(1949年のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為や1949年のジュネーヴ諸条約の共通第三条の著しい違反を構成する戦争犯罪)」と限定する文言になっていた。この書き方では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書や、国際刑事裁判所規定、国際慣習法にみられる、その他の戦争犯罪――例えば、文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃することなど――は、含まれないことになる。これについては、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「戦争犯罪」とのみ記載すること(限定的な文言を削除すること)を求めていた。3月22日草案第6条3では、この部分は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party, including grave breaches of the Geneva Conventions of 1949」という文言に置き換えられている。このように、3月22日草案において、「including.....Geneva Conventions of 1949」になったことで、ジュネーブ諸条約に限らないと解釈できる。ただし、「internaitonal agreements to which it is a Party」という文言により、ATTの各締約国が加盟している国際合意上のものに限られ、加盟していない条約や国際慣習法に含まれるものは、除外されることになる。また、今回の表現は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party」となっているが、「as defined by...」という限定的な文言が、戦争犯罪だけにかかるのではなく、ジェノサイドと人道に対する罪にもかかってくるという解釈もありうる。どこまでかかるのか不明確という問題であれば、各締約国による解釈の余地があるのに加えて、他言語に翻訳する場合の問題も発生するのではと思われる。

【第7条:輸出の評価】
 7月26日草案では、国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる行為は、「輸出(export)」に限定されており、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などについては、そうした評価をする義務は一切無かった。3月22日草案第7条でも同様である。
 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日の草案の段階で、3月20日草案第4条(移転の禁止)の後の第5条(輸出の評価)の冒頭に、「その輸出が第4条で禁止されない場合(If the export is not prohibited under Article 4)」という表現が入ったため、禁止と輸出評価との関係がより明確になっていた。3月22日草案第7条3にも、この表現が挿入されている。

 7月26日草案の第4条1は、この条約の規制対象の通常兵器の輸出許可の審査にあたって、各締約国は、その輸出が平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価する旨が書かれていた(In considering whether to authorize an export of conventional arms within the scope of this Treaty, each State Party shall assess whether the proposed export would contribute to or undermine peace and security.)。しかし、平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価した後、どうするのかは書かれていなかった。3月22日草案第7条3でも同様である。

 7月26日草案の第4条2には、「国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」、「国際人道法の重大な(著しい)違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」といった基準が設けられており、これらに照らし合わせて輸出申請について評価することになっていた。しかし、同草案の第4条5は、第4条1と2の評価などの後に、第4条2に挙げられた帰結をもたらす「overriding risk(圧倒的/決定的/優越的なリスク)」がある場合は、武器輸出を許可してはならない、としている。この表現は、これ以前の非公式文書や草案にはない、初めて使用された表現であったが、このoverriding risk」の意味が曖昧であった。
この表現は、アメリカの主張で盛り込まれたものであった。会議中の7月26日に、アメリカ政府関係者は、この表現は「この兵器を輸出することによる、国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される可能性が、この兵器の輸出によって平和と安定に貢献するレベルを凌駕するほど圧倒的なリスクと言えるかどうか」といった、「兵器の輸出による平和と安定への貢献」とリスクを天秤にかけることを意味すると解釈している、とNGOに伝えていた。そして、この「(平和と安定)peace and security」とは何の平和と安定なのかについては、明記されていなかった
したがって、7月26日草案は、例えば、「この兵器を輸出した場合、第4条2に挙げられたような帰結をもたらす(輸出先で国際人権法の重大な違反の遂行に使用される等)リスクが高い。しかし、この兵器の輸出は、輸入国のsecurityへの貢献度も非常に高い。第4条2に挙げられたような帰結をもたらすリスクは、輸入国のsecurityへの貢献度を凌駕するほど圧倒的な(overriding)リスクとは言えないため、輸出しても良い。」といった判断の仕方を正当化するものになる可能性があった。3月22日草案第7条7でも同様である。

 7月26日草案の第4条6には、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、といった文言があった。しかし、7月24日草案と同様に、7月26日草案においても、これらの文言の上には、締約国は、輸出を許可する際にこうした状況を「回避するために・・・・適切な措置をとることを検討する」旨の文言が書かれていた。この場合、武器の輸出が非合法市場へ流出/迂回する可能性等があったり、武器の輸出によって組織犯罪に使用される大きなリスクがあったりしたとしても、そうした状況を回避するための「何らかの適切な措置をとることを検討」すれば良いだけ(武器を輸出しても構わない)ということになる。

この点について、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、7月26日草案の第4条6に含まれる項目のうち、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、という3つの項目を、第4条2に移動させるべきと論じていた。これに対して、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、非合法市場へ流出/迂回する、という項目のみを、第4条2に移動させるべきと論じた。

3月22日草案第7条8では、この項から組織犯罪に関する(c)が削除され、その代わりに第7条4(d)として、国境を越えた組織犯罪に関する国際条約のうちで輸出国が加盟している条約に反する行為の遂行や助長に使用される可能性がある場合、という項目が挿入され、国際人権法や国際人道法の重大な違反に関する項目と並んでいる。ただし、その他の項目は移動していない

 7月26日草案の第6条3で、締約国は、武器の輸出を許可をした後に、新しい情報に基づいて、第4条の1から5の圧倒的リスク(overriding risk)があると評価した際には、その許可を取り消したりできることになっていた。ただし、ここで使われているのは”the State Party may suspend or revoke the authorization”という表現であり、取り消す等の行為は義務ではなかった。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合に、許可を取り消しても取り消さなくても良いことになる
これについて、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「may」ではなく「shall」(義務を意味する)に変えるべきと述べた。また、ノルウェーは、許可をした後の再評価の際に、第4条1から5しか適用されず、第4条6(流出/迂回、汚職等)が適用されないことも問題視した。
3月22日草案第7条10でも、再評価の際には第7条4(国際人権法の重大な違反など)しか適用されず、第7条8(流出/迂回、汚職等)が適用されない。また、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、上記の「may」は削除されたが、その代わりに挿入されたのは「is encouraged to」(許可を取り消すこと等が奨励される)という表現であり、義務ではなく任意であることには変わらない
加えて、7月26日草案の第6条3が、この条約の規制対象(第2条)に含まれない弾薬、部品・構成部分にも適用されるのかについては、明記されていなかった。3月22日草案の第7条10でも、これは明記されていない

以上。
分析の第3弾では、第8条の輸入規制以降の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

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