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「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

武器貿易条約(ATT)3月22日条約草案の分析:その1

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案は、Scribdにアップロードしました。

基本的に、3月22日草案は、7月26日草案や3月20日草案と比べて、構成は変わったものの、規制内容が大幅に変わったとは言えません。ただし、構成が変わったことで、前の草案と比較をしようとしたところ、かなりの作業が必要でした。今後の備忘録を兼ねて、3月22日草案の分析を、3つの記事に分けて掲載いたします。以下の第1弾は、前文・原則、規制対象、弾薬や部品・構成部分に関する条項を扱います。

【前文(Preamble)・原則(Principles)】
 前文(Preamble)という見出しが消えている。また、3月20日草案では、前文と原則が分かれていたが、3月22日草案では統合されている。
 2頁目の最後から2つめのパラグラフ(原則5 )では、国際人道法を尊重する旨がかかれている部分に「1949年ジュネーブ条約に則って(in accordance with the Geneva Conventions of 1949)」とされており、国際人権法を尊重する旨がかかれている部分に「国連憲章と世界人権宣言に則って(in accordance with the Charter of the United Nations, the Universal Declaration on Human Rights and the Geneva Conventions)」とされている。これは、3月20日草案で同様の表現が追加されたものを、挿入箇所を変えただけである。他の国際人道法や国際人権法には言及していないため、限定的な意味を持つことになる。
 その他の項目については、7月26日草案から大きな変化はないため、7月26日草案の分析をご覧ください。

【第1条:趣旨及び目的(Object and Purpose)】
 7月26日草案から大きな変化はないため、7月26日草案の分析をご覧ください。

【第2条:規制対象】
 7月26日草案は、基本的に、重兵器は国連軍備登録制度の7カテゴリー(以前の記事で解説したように、重兵器のなかでも狭い範囲の兵器しか対象にしていない)を想起させる書き方であり、それに小型武器・軽兵器が加わったのみであった。これは、3月22日草案でも同様である。
 7月26日草案は、重兵器(国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方)と小型武器・軽兵器を羅列した部分の上に、「本条約は、最低限でも、以下のカテゴリーの範囲内の全ての通常兵器に適用する(This Treaty shall apply to all conventional arms within the following categories at a minimum)」とされていた。3月22日草案では、「最低限でも(at a minimum)という文言が削除されており、より限定的な表現になったと言える7月26日草案の分析記事でも解説した通り、国連軍備登録制度の7カテゴリーは、全ての重兵器が規制対象になるわけではない。軍用の輸送用や偵察用の航空機・ヘリコプターをはじめ、規制対象外になる兵器も多い。

  7月26日草案の兵器の規制対象は、重兵器については、国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方になっていたが、「国連軍備登録制度の7カテゴリー」と明確に書かれているわけではなかった。また、7月26日草案では、各締約国は重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に当てはまる(fall within)品目を含む規制リストを適切に(as approptiate)作成・維持するとして、その規制リストは各国で定義する(as defined on a national basis)ものとしていた。したがって、各締約国の裁量によって、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら、規制対象外にすることも可能であった。3月22日草案の第5条(実施)の第4項では、各締約国はこの条約の規制を幅広い通常兵器に適用することを奨励される(is encouraged to)としたうえで、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義は、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としている。これは、各締約国の裁量で、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら規制対象外にする、といったことはできない表現である。しかしながら、3月22日草案は、「この条約の発効時において」国連軍備登録制度でカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、という文言になっている。国連軍備登録制度の兵器カテゴリーは冷戦終結の頃に作成されたものであり、その後の新兵器開発に追いついていないことや、アップデートが必要であることが指摘されている。「この条約の発効時において」という文言を挿入すると、ATTで規制される兵器の範囲を発効時で凍結してしまうことになる。したがって、ATTの発効後に、国連軍備登録制度の枠組みで、新兵器をカバーすべく対象兵器をアップデートしたとしても、そうした新兵器はATTで規制できなくなる。さらに、3月22日草案は、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義について、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としているが、国連軍備登録制度には小型武器・軽兵器の定義は一切無い

【第3条:部品・構成部分/第4条:弾薬】
 7月26日草案では、弾薬(ammunition)や部品・構成部分(parts and components)については、第2条(規制対象)に含まれておらず、第6条において輸出規制の一部が適用されるのみであり、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替を規制する義務は一切無く、弾薬、部品・構成部分の移転について、各国が記録したり報告書に記載したりする義務も一切無かった。3月22日草案では、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」が設けられているが、それらに書かれている規制は7月26日草案のものと大きな変化はない

 7月26日草案では、重兵器や小型武器について、何を規制対象にするかが各国の裁量に任されていたため、例えば、各国の判断で、特定の大口径火砲や小型武器を規制対象から外すことによって、同時にそれらに使用する弾薬や、それらの部品を輸出規制から外す、といった規制回避も可能であった(この点については、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書においても指摘されていた)。加えて、部品・構成部分の輸出規制には、「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言が挿入されており、その「必要であるか」の判断は各締約国の裁量に任されることになるため、義務のレベルが低いものになっていた。3月22日草案では、最低限でも「この条約の発効時点での」国連軍備登録制度の兵器は規制対象にしなければいけないが、上記のような、ATTの発効時点に国連軍備登録制度の兵器カテゴリーに含まれない兵器や、小型武器・軽兵器の定義の問題が発生する。また、3月22日草案では、部品・構成部分に関する「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言は削除されている。ただし、第2条(規制対象の重兵器と小型武器・軽兵器)の通常兵器を組み立てることができるようにするような形態の(that are in a form which provides the capability to assemble…)部品・構成部分に限定する表現になっているため、既にある通常兵器を維持したりアップグレードしたりするための部品・構成部分は含まれないという解釈も可能である。

7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条においては、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読める。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾が指摘できる。

 7月26日草案でも3月22日草案でも、この条約の目的と矛盾しない限りにおいて、留保が認められている。何をもって「この条約の目的と矛盾しない」と捉えるかは判断が難しいが、弾薬や部品・構成部分が、第2条の「規制対象」に含まれていないために、これらについて留保をしても構わないと論じて、弾薬や部品・構成部分の規制を行わない国もでてくる可能性も否定できない。

 7月26日草案でも3月22日草案でも、手榴弾などの爆発物(explosives)は規制対象外である。
 7月26日草案でも3月22日草案でも、武器の開発・製造・維持のための技術や設備等は規制対象外である。
 7月26日草案でも3月22日草案でも、軍用に転用可能な汎用品も規制対象外である。

 7月26日草案では、第2条の規制対象(重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器)の兵器に関する各締約国の規制リストについて、各締約国は「国内法で認められた程度(限り)において(to the extent permitted by national law)公開する、としていた(第2条A4)。したがって、この条約にもとづいて各国が何を規制するのかについてすら、公開されるという保証はなかった。これについて、ニュージーランドは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「WTOのGATT第10条第1項(貿易規則の公表)に反するものである」と論じていた。3月22日草案では、第7条(輸出評価)の部分の冒頭で各国の規制リストについて扱っており、各締約国は、第2条の規制対象だけでなく、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」の規制リストを作成して条約事務局に提出し、事務局はそれを他の締約国に知らせることになっている。ただし、その規制リストを公開するか否かについては、公開することが奨励される(States Parties are encouraged to)という表現であり、この条約にもとづいて各国が何を規制するかについては、公開される保証はない

 行為の規制対象については、7月26日草案でも3月22日草案でも「貿易(trade)」という文言が使用されており、贈与(譲渡)やリースなどは規制対象ではないという解釈も可能である。例えば、締約国が他国に武器を売却する場合はATTの規制の対象になるが、同じ兵器を贈与(譲渡)する場合は規制対象にならない可能性や、軍事支援プログラムなどの際は規制対象にならない可能性もある。

 2011年文書の行為の規制対象含まれていたもののうち、ライセンス生産(manufacture under foreign license)と技術移転(technology transfer)は、7月26日草案でも3月22日草案にも見られない。これらの行為は規制されないことになる。

 締約国が、海外に駐留する自国軍などに向けて、通常兵器を国境を超えて移動させる行為を含めるかどうかについては、2011年文書では明確に記述されていなかったが、7月3日文書では明確に規制対象から外され、7月24日草案、7月26日草案、3月20日草案、そして3月22日草案でも規制対象外になっている。ただし、自国軍がPKO等で他国の領土に行った後に、その国に兵器を譲渡する場合など、海外に駐留する自国軍が所持する通常兵器について、国境を超えて移動しないが管轄又は管理下にある国が変わる場合に条約の規制対象となるのかについては、何も書かれていない。この問題は、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書でも指摘されていた。しかし、この点については、3月20日草案でも3月22日草案でも明記されていない。

 7月26日草案にも3月22日草案にも、輸出、輸入、ブロ―カリング(仲介)、通過・積替の定義は書かれていない。これについては、7月19日の当ブログ記事のとおり、7月会議中、日本などが行為の定義の削除を求めていた。したがって、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替について、各国の裁量で非常に狭く解釈することも可能である。例えば、仲介の定義を非常に狭く解釈して、口利きを除外したり、輸送業者を除外したりすることも可能である。

 7月26日草案でも、3月22日草案でも、国際人権法等に関する許可基準に基づいて判断するのは輸出だけになっており、輸入、通過、積替、ブローカリング(仲介)については、国際人権法等の移転許可基準に照らし合わせた規制をする義務は全く課されない

以上。
分析の第2弾では、移転の禁止や輸出評価等の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

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