「武器と市民社会」研究会

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武器貿易条約(ATT)7月26日条約草案の分析:その3

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

2012年7月に開催された武器貿易条約(ATT)交渉会議終盤にの7月26日に作成された条約草案(以下、7月26日草案)については、7月交渉会議後に、このブログに当面の分析を掲載いたしましたが、この草案は、今回の3月交渉会議の冒頭数日の議論のベースになる予定ですので、あらためて、より詳細な分析を掲載いたします。なお、分析は作成者(夏木碧)の個人的なものであり、所属団体の公式なものではありません。

★昨日までの第1弾第2弾に続いて、今日は第3弾として、7月26日草案のなかの第3条(移転禁止)、第4条(国家による評価)についての分析を記載します。★

分析のなかで言及されている「7月24日草案」とは、7月24日に配布された条約草案(7月26日草案とは異なる)を意味します。その他、7月交渉会議中には、様々な非公式文書が作成されました。以下の分析は、そうした文書との比較を交えています。「7月24日草案」文書とその分析は、こちらのページからご覧いただけます(草案もダウンロードいただけます)。会議中の非公式文書については、このブログの武器貿易条約コーナーのなかで、2012年7月会議中に作成されたブログ記事から、各文書とそれらの分析をご覧いただけます。7月26日草案の入手方法は、先日のブログ記事に掲載しています。

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【第5条:実施】
 7月26日草案の第5条2の第1センテンスは、この条約の実施は、他の文書(other instruments)によって負う義務に影響を及ぼすものではない旨を述べている。これは曖昧な表現ではあるが、ATTよりも他の合意のほうが優先されると解釈される可能性がある。さらに、7月26日草案の第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としている。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されている。
この文言が削除されたことにより、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能になってしまう可能性も指摘できる。また、ここでの「防衛協力合意」は特に定義されていないため、武器の移転の際に「防衛協力合意に基づく契約義務である」という形にすれば、条約の規制をのがれることができる可能性が指摘できる。
※ 交渉会議中、最近のロシアからシリアへの移転(参考資料1参考資料2)も、これにあたると解釈される可能性が指摘されていた。また、インドは、アメリカからインドへの移転(参考資料3)などへの影響を懸念したと言われていた。
ただし、下で述べるとおり、第24条との関係を検討する必要がある。
 7月26日草案の第5条にも、草案の他の部分にも、この条約を実施するための国内法への違反について処罰する義務は明記されていない。

【第6条:輸出規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などの用語が定義されていない。
 7月26日草案の第6条3で、締約国は、武器の輸出を許可をした後に、新しい情報に基づいて、第4条の1から5の圧倒的リスク(overriding risk)があると評価した際には、その許可を取り消したりできることになっている。ただし、ここで使われているのは”the State Party may suspend or revoke the authorization”という表現であり、取り消す等の行為は義務ではない。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合に、許可を取り消しても取り消さなくても良いことになる
これについて、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「may」ではなく「shall」(義務を意味する)に変えるべきと述べた。また、ノルウェーは、許可をした後の評価の際に、第4条6(国際組織犯罪に使用される等)が適用されないことも問題視した。
加えて、第6条3が、この条約の規制対象(第2条)に含まれない弾薬、部品・構成部分にも適用されるのかについては、明記されていない。

 7月26日草案の第6条4と5で、締約国は、弾薬と部品・構成部分の輸出規制のためのシステムを設置・維持し、輸出の許可の前に第3条と第4条の1から5を適用することになっている。ただし、部品・構成部分に関する第6条5には、「必要な限り(to the extent necessary)」という言葉が挿入されており、弾薬より義務のレベルが低くなっている
これにより、弾薬と部品・構成部分は、規制対象には含まれないものの、7月24日草案に比べて、締約国に実質的に課される規制義務は若干強いものとなったと言える。ただし、第4条の6(非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、等の帰結の回避のための措置を検討する)は弾薬や部品・構成部分には適用しなくても良いことになる
また、第7条以降では、弾薬と部品・構成部分の輸入、仲介、通過・積替については規制する義務が一切無く、各国が記録をする義務もなく、報告書に記載する義務もない
弾薬について規制対象にはせずに、この輸出の条項において取扱い、輸出規制以外の義務を課さず、輸出規制にあたっても第4条6は適用しない、というのは、2012年7月交渉会議におけるアメリカの主張であった。例えばアメリカは、弾薬は性質上、流出/迂回(diversion)のリスクが高いものであると主張して、弾薬について非合法市場への流出/迂回のリスクを評価しないような文言にしようとした。この主張に基づき、上述のように、7月26日草案においては、非合法市場の流出/迂回のリスクに関する移転許可基準は第4条6の「回避のための措置を検討する」という項目に入れられ、その上で、弾薬については第4条6全体を適用しない書き方になった。

【第8条:仲介規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替など、全く定義されていないため、仲介として規制する行為を狭く解釈することも可能である。
 7月26日草案の第8条は、仲介について、締約国はその規制のために「各国の国内法の範囲内で(within its national laws)」、「適切な措置をとる(shall take the appropriate measures)」とされているが、その「適切な措置」の内容は各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難い
 2012年7月ATT交渉会議の議論においては、仲介の定義を、2011年文書に書かれていた、他国に居住する自国民による仲介行為も規制する(域外管轄権を認める)という意味合いの文言(「brokering activities taking place within its territories or by its nationals」)にすることについて、ベルギーなどが支持し、日本を含めた国々が反対していた。7月26日草案では、「brokering taking place under its jurisdiction」という文言になっており、他国に居住する自国民による仲介行為を規制するか否かは各国の裁量に任されると解釈しうる
 2011年文書に書かれていた、締約国は全てのブローカーが仲介行為を行う前に国に登録するようにする、という旨の記述は、7月3日文書にも7月24日草案にもみられなかった。7月26日草案では、この事前登録について、各国の裁量で行う(may)という表現で復活している。しかし、これは義務であることを意味しないため、ブローカーの事前登録制度を設けなくても構わないことになる

【第9条:通過・積替規制】
 上述のように、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替など、全く定義されていない。よって、通過・積替の行為の対象を狭く解釈することも可能である。
 通過・積替については、締約国はその規制のために、「必要でありかつ実施可能な場合に(where necessary and feasible)」、「適切な(appropriate)」法的・行政的・その他の措置をとる、とされている。何をもって「適切な措置」とみなすのか、そもそもの規制を「必要であり実施可能」とみなすのかは、各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難い

【第10条:報告・記録】
 2011年文書や7月3日文書と同様に、7月24日草案も26日草案も、移転した武器について何を記録するのか(数、モデル・タイプ、輸入国、最終使用者等)を各国が適当に決められる表現になっている。また、2011年文書は、記録内容の候補として、移転を拒否したケース("denials")も記録することが挙げられていた(8頁B-1)が、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案では、この文言は削除されている。また、輸出の記録は義務となっているが、輸入や通過・積替えの記録に関しては「where feasible」という文言が入っており、義務とは言い難い。
 記録を保持する年数は、2011年文書は最低10年としており、7月3日文書では最低20年になっていたが、7月24日草案でも7月26日草案でも最低10年に戻っている(第10条2)。「コントロール・アームズ」キャンペーンは、武器のライフサイクルを考えれば10年は短すぎるため、最低20年にすべきと主張している。
 7月26日草案では、弾薬や部品・構成部分の移転について記録し報告する義務はない
 2011年文書は、各国が記録した内容を報告する旨が書かれていたが、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案は、「各国が報告書のなかに何を具体的に記入するのか」(数?モデル・タイプ?輸入国?価格?など)は全く書かれていない。よって、具体的にどのようなものを移転したのか曖昧な書き方の報告書にすることも可能になる。

 7月26日草案において、ATTの事務局に報告する報告書に含める情報の種類は、「国連軍備登録制度を含めた、関連の国連の枠組みに提出する情報と同じにしてもよい(may)とされている(第10条5)。したがって、締約国は、ATTの事務局に報告する内容を、国連軍備登録制度に提出する報告書と同じものにすることも想定しうる。しかし、国連軍備登録制度の報告書に含める情報は非常に大雑把であるため、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しい
また、7月24日草案では、報告書は公開されることになっていたが、7月26日文書ではその文言が削除されている。ただし、上記の国連軍備登録制度では、提出された報告内容が公開されている。したがって、ATTにおいて「公開する」という文言がなくとも、国連軍備登録制度でいずれにせよ公開される、という捉え方もできる。また、ATTの枠組みで各締約国が提出する報告書が、国連軍備登録制度のものと同様の大雑把なものでも良いとされている限りは、条文に「報告書を公開する」旨の文言が入ったとしても、現状と比べて武器移転に関する透明性が向上することは、あまり期待できないかもしれない。
加えて、国連軍備登録制度設立時の合意文書には、報告書を公開するとは書かれていないが、実際の運用においては公開されている。したがって、ATTに「報告書を公開する」旨の文言が入らなくとも、後の段階で報告書が公開されることも想定できる。
さらに、7月26日草案は、締約国が提出する報告書から、商業的な機密(commercially sensitive)や国家安全保障に関わる情報を除外することができる、としている(第11条5)。何が機密であるか等は各国の裁量に委ねられるため、どのような情報であれ、「機密である」「安全保障に関わる」ということにして報告しないことも可能である。

 情報の公開は、過去の移転規制においても大きな問題であった。移転を規制し、移転情報を公開することについては、「透明性確保」、「信頼醸成」といった目的が掲げられる。しかし、武器の調達を輸入に頼る国々の軍備情報のみが公開され、自国内で武器を一定程度以上製造・調達できる国々の軍備情報はあまり公開されないという、不平等な性質を持つことは否定しがたい。また、移転情報の公開は、必ずしも信頼醸成にはつながらず、不信感や軍拡競争につながる(例:隣国が武器を大量に輸入した情報が公開された場合など)といった指摘もある。

【第12条:事務局】
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書では「実施支援ユニット(Implementation Support Unit: ISU)であったが、7月26日文書では「事務局(Secretariat)」という言葉に変えられている。この事務局の資金源に関する記述はない。
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書と同様に、7月26日草案でも、事務局には各国の報告書を検証する権限はない
※ ただし、元来ATTは検証制度等になじまない性質があるとも言える。

【第14条:国際支援】
 7月24日草案と同様に、7月26日草案にも、犠牲者支援の項目はない。また、7月24日草案には、ATTの実施のための国内措置の違反に関する捜査や訴追に関する支援が含まれていたが、これは7月26日草案では削除されている

【第15条:署名、批准、受諾、承認又は加入】
 7月24日文書では、国家だけでなく地域統合組織も署名、批准、受諾、承認又は加入が可能になっていたが、7月26日文書からは削除された。
※ 2012年7月交渉会議において、EU諸国などは、地域統合組織も署名等が可能にすべきと主張したが、中国は、条約交渉最終日の7月27日(金)までにEUによる対中武器禁輸が解除されないのならば、地域統合組織の署名等には賛成できないと主張した。

【第16条:発効条件】
 2011年文書で具体的な批准国数等が書かれていなかった発効条件は、7月3日文書では、65か国による批准等の30日後あるいは30か国による批准等の3年後とされ、7月24日草案では、65か国による批准等の30日後とされていた。7月26日草案では、65か国による批准等の90日後になっている。

【第20条:改正】
 7月24日草案では、コンセンサスが無理な場合は出席かつ投票する締約国の3分の2による条約改正が可能となっていた。7月26日草案では、コンセンサス(by consensus)でのみ改正が可能である。

【第21条:締約国会議】
 7月26日草案は、締約国会議の役割の一つとして、この条約の履行等に関する勧告(recommendations)を検討し採択することを挙げている。ただし、締約国会議には、条約の履行状況を検討するといった役割は与えられていないため、そうした検討なしに、どのように勧告の作成に至るのかは明らかではない。

【第23条:非締約国との関係】
 7月26日草案の第23条では、「締約国は、非締約国に向けた、本条約の規制対象の通常兵器の全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」としている。これは、「本条約の規制対象(第2条)」に含まれない弾薬、部品・構成部について、非締約国向けの輸出であれば、第3条と第4条は適用されないと解釈できる。しかしながら、第6条4では、「弾薬のどのような輸出も、その許可の前に、第3条と第4条1から5を適用する」とされており、矛盾すると考えられる。部品・構成部分(第6条5)についても、同じ矛盾が指摘できる。さらに、「・・・・全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」とされているため、非締約国向けの移転であれば、この条約の輸入規制、ブローカリング(仲介)規制、通過・積替え規制は適用されないという解釈もありうる。

【第24条:他の条約との関係】
 上述のように、第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としている。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されており、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能と解釈することもできる。第24条は、締約国は、本条約の義務と矛盾がなく、本条約の目的を損なわない限り、通常兵器の国際貿易に関する合意を結ぶ権利がある、としているが、第6条2との関係は曖昧である。

以上。まだ指摘するべき細かいポイントはあるのですが、とりあえず7月26日草案の分析はここで終わりにします。現在、会議2日目の3月19日(火)夕方です。明日の午後には、議長より新しい条約草案が提示される見込みです。新しい草案についても、なるべく早く分析記事を掲載できればと思っております。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

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