「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

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国連安保理決議1540 ②

国連安保理決議1540 ②

4.12の主文パラグラフ(Operative Paragraph, OP)
国連安保理決議1540の決定と要請の具体的な内容は、12のOPで示されています。中でもOP1、OP2、OP3の三つは、決議の主要な義務を定めたOPであると言われています。まずOP1は、すべての国連加盟国に対し、大量破壊兵器と運搬手段の開発、取得、製造、所持、輸送、移転または使用を企てる非国家主体へのいかなる形態の支援も差し控えるよう要請しています。続いてOP2は、すべての国連加盟国に、大量破壊兵器と運搬手段を製造、取得、所持、開発、輸送、移転、または使用する非国家主体を刑事罰の対象として処罰することを視野に入れて、国内法を制定・執行するよう求めています。さらにOP3は、大量破壊兵器とそれらの運搬手段、および関連物資を適切に管理し、拡散を防止するための国内管理の実施を国連加盟国に要請しています。具体的には、大量破壊兵器等の関連品目の不正取引と不正仲介を探知・抑止・防止し、対処するための適切で効果的な国境管理の実施や、輸出、通過、積替、および再輸出を管理する適切な法令の制定などを求めています。

以下、国連安保理決議1540のOPの文言です。

OP1:すべての国は、核兵器、化学兵器又は生物兵器及びそれらの運搬手段の開発、取得、製造、所持、輸送、移転又は使用を企てる非国家主体に対し、いかなる形態の支援も提供することを差し控えることを決定する。

OP2:また、すべての国は、自らの国内手続に従って、いかなる非国家主体も、特にテロリストの目的のために、核兵器、化学兵器又は生物兵器及びそれらの運搬手段の製造、取得、所持、開発、輸送、移転又は使用並びにこれらの活動に従事することを企てること、共犯としてこれらの活動に参加すること、これらの活動を援助又はこれらの活動に資金を供することを禁ずる適切で効果的な法律を採択し執行することを決定する。

OP3:また、すべての国は、関連物資に対する適切な管理を確立することを含め、核兵器、化学兵器又は生物兵器及びそれらの運搬手段の拡散を防止する国内管理を確立するための効果的な措置を採用し実施することを決定し、この目的のため、すべての国が、以下を行うことを決定する。
(a)生産、使用、貯蔵又は輸送において、そのような品目の使途を明らかにし、安全を確保するための適切かつ効果的な措置を策定し維持すること。
(b)適切で効果的な防護措置を策定し維持すること。
(c)自らの国内法的権限及び法律に従って、並びに、国際法に合致して、必要なときは国際的な協力を通ずることを含め、そのような品目の不正取引及び不正仲介を探知し、抑止し、防止し及び対処するための適切で効果的な国境管理及び法執行の努力を策定し維持すること。
(d)輸出、通過、積替及び再輸出を管理する適切な法令、資金供与及び拡散に貢献する輸送といったそのような輸出及び積替に関連する資金及び役務の提供に対する管理並びに最終需要者管理の確立を含め、そのような品目に対する適切で効果的な国内的輸出及び積替管理を確立し、発展させ、再検討し及び維持すること。また、そのような輸出管理に関する法令の違反に対する適切な刑事上又は民事上の罰則を確立し及び執行すること。

OP4:安全保障理事会の仮手続規則28に従って、2年を超えない期間の間、すべての同理事会理事国により構成される同理事会の委員会を設置し、この委員会が、適当な場合には他の専門的意見も求めつつ、この決議の実施状況について、安全保障理事会の検討のため同理事会に対して報告することを決定するとともに、この目的のため、国に対し、この決議の採択から6カ月以内に、この決議の実施のためにとった又はとろうとする措置に関する最初の報告を委員会に提出するよう要請する。

OP5:この決議に規定するいかなる義務も、核兵器不拡散条約(NPT)、化学兵器禁止条約(CWC)及び生物兵器禁止条約(BWC)の締結国の権利及び義務と抵触する若しくはこれらを変更するものとして解してはならず、又は、国際原子力機関(IAEA)若しくは化学兵器禁止機関(OPCW)の責任を変更するものとして解してはならないことを決定する。

OP6:この決議を実施するにあたり、効果的な国内管理表が有用であることを認識し、すべての加盟国に対して、必要なときは、そのような表をできる限り早い機会に策定することを追及するよう要請する。

OP7:一部の国はこの決議の規定をその領域内において実施するにあたり支援を必要とすることを認識し、国に対し、可能なときは、個々の要請に応じて、上記の規定を履行するための法令上の基盤、実施の経験または資源を欠く国に対して適当な援助を提供するよう招請する。

OP8:すべての国に対して以下を要請する。
(a)核兵器、化学兵器又は生物兵器の拡散を防止することを目的とし、自らが締約国となっている多数国間条約の普遍的な採択、完全な実施及び必要な場合には強化を促進すること。
(b)不拡散に関する主要な多数国間条約の下での約束の遵守を確保するための国内法令を採択してない場合には、これを行うこと。
(c)不拡散の分野における共通の目的を追求し達成するため及び平和的目的のための国際協力を促進するための重要な手段として、特に国際原子力機関(IAEA)、化学兵器禁止機関(OPCW)及び生物兵器禁止条約(BWC)の枠内において、多国間の協力への約束を新たにし、これを満たすこと。
(d)そのような法律の下での義務について産業界や公衆に通報し、これらとともに作業する適当な方法を策定すること。

OP9:すべての国に対し、核兵器、化学兵器又は生物兵器及びそれらの運搬手段の拡散による脅威に対応するよう不拡散に関する対話及び協力を促進するよう要請する。

OP10:さらにその脅威に対処するため、すべての国に対し、自らの国内法的権限及び法律に従って、並びに、国際法に合致して、核兵器、化学兵器又は生物兵器、それらの運搬手段及び関連物資の不正取引を防止するための協力行動をとるよう要請する。

OP11:この決議の実施を緊密に監視し、適当な段階で、この目的のために必要とされる更なる決定を行う意図を表明する。

OP12:この問題に引き続き関与することを決定する。

<メモ5>
例えばオリビア・ボッシュ(英王立国際問題研究所)とピーター・バン・ハム(クリンゲンタール国際関係研究所)は、国連安保理決議1540の第一義的な義務は、OP1、OP2、OP3の三つで定められていると解説しています。”Global Non-Proliferation and Counter-Terrorism: The Impact of UNSCR 1540”のp.4を参照のこと。

<メモ6>
OP3(c)で言及されている「仲介(brokering)」とは仲介貿易取引のことで、例えば海外の輸出者と海外の輸入者との貿易を日本が仲介する場合、仲介貿易となります。売買契約は輸出者対仲介者、もしくは輸入者対仲介者で取り交わされ、実際の商品のやり取りは仲介者以外の二者間で行われます。仲介貿易取引においては売買契約だけでなく、貸借や贈与契約も含まれます。また、OP3(d)では「通過(transit)」「積替(trans-shipment)」「再輸出(re-export)」について触れています。まず「通過」とは、例えば貨物を輸送する船舶がある国の領海内を通過するだけ、もしくは港に寄港するが貨物の積み卸しなどはしないことを言います。次に「積替」とは、外国から到着した貨物を一時的に空港や港湾の保税地域に積み降ろし、再び外国向けの船舶や航空機に積み込む場合を言います。なお外務省による国連安保理決議1540の邦訳では「積換」となっていますが、ここでは「積替」としています。こちらの経産省による解説を参照して下さい。最後に「再輸出」とは、いったん輸入した貨物を再び外国に輸出することを言います。米国原産の技術などを組み込んだ製品などを米国以外の国から輸出する場合、米国政府の輸出許可が必要となる米国が実施する再輸出規制とは意味が異なるため注意が必要です。

<メモ7>
国連安保理決議1540の採択を受けて、日本も大量破壊兵器等の拡散防止を目的とした仲介貿易規制と積替規制を新たに導入しています。積替規制については、日本の場合、「仮陸揚げ貨物」として規制しています。例えば輸出貿易管理令第4条第1項の一などを参照のこと。また、日本においては、通過については、日本の領海を通過するだけ、もしくは港に寄港するだけでは輸出に該当しないという判断により、外為法上は規制されていません。再輸出は通常の輸出と同じ扱いで規制されています。

5.決議の履行確保
①国連加盟国の1540委員会への報告
OP4で要請されている通り、国連加盟国は決議1540委員会に、国連安保理決議1540を履行するために実施している、もしくは実施しようとしている措置についての報告書を提出しなければなりません。2011年10月現在、166カ国が報告書を提出しており、未提出は26カ国ということになっています。1540委員会に国連加盟国が提出した報告書については、こちら(英語)で確認できます。

1540委員会が国連加盟国から報告書を受け取った時点で、専門家が集まりその報告内容を分析し、決議の実施状況を見極めます。このプロセスを効率的に行えるよう、現在、決議の要請事項に照らして報告書を提出した国の決議の履行に関する達成度を記録できるマトリックスが作成されています。マトリックスについては、こちら(英語)で確認できます。

1540委員会による各国の達成度分析は公表されませんが、1540委員会の専門家メンバーであるリチャード・キューピット氏によると、多くの国が決議の要請をわずかしか遵守できていないといいます。キューピット氏の指摘については、こちら(英語PDFファイル)を参照して下さい。

②決議を履行するための資源や能力が乏しい国への支援とアウトリーチ
OP7は、国連安保理決議1540を履行する上で、決議の要請事項を実施するための資源や能力に乏しい国を支援するよう求めています。実際、1540委員会は決議の履行が難しい国からの支援要請を募っており、支援の要請があった場合は、例えば1540委員会が国連軍縮部(UNODA)や支援要請国の政府と協力し、決議の履行に向けた意識向上のためのセミナーやワークショップなどを開催しています。1540委員会に寄せられている支援要請については、こちら(英語)で確認できます。また、これまで行われてきたアウトリーチ活動については、こちら(英語)で確認できます。

※安保理決議1540に関する基本的な情報については、当ブログの前の記事をご覧ください。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

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国連安保理決議1540 ①

国連安保理決議1540 ①

1.はじめに:国連加盟国を拘束する大量破壊兵器拡散防止決議
国際輸出管理レジームにおける合意事項に基づき、レジーム参加国が輸出管理を実施することで、大量破壊兵器等の拡散と通常兵器の過度の蓄積を防止しようにも、レジームに参加しない国から兵器の開発や製造に必要な貨物や技術の調達が可能であれば、そうした国を通じて兵器の開発や製造に必要な貨物や技術を入手することができるということになります。そのため、レジームに参加せず、輸出管理を厳格に実施していない国が抜け穴となることを防ぐには、できるだけ多くの国が国際的に調和の取れた輸出管理を行うことが必要です。

2004年4月28日に国連安全保障理事会が全会一致で採択した決議1540は「核兵器、化学兵器及び生物兵器並びにそれらの運搬手段の拡散が国際の平和及び安全に対する脅威を構成することを確認」した上で、「国連憲章第7章の下で」大量破壊兵器等の開発や製造などに必要な貨物の輸出や技術の提供を規制する輸出管理を実施することなどを国連加盟国に要請しています。つまり、国連安保理決議1540の採択により、特に大量破壊兵器等の拡散防止を目的とした輸出管理の実施はすべての国連加盟国の義務となったと言え、大量破壊兵器の拡散を防止する国際的に調和の取れた輸出管理が行われるようになるのではないかと期待されています。

なお、国連安保理決議1540の履行状況を把握・検討するため、安保理に1540委員会が設置され、その権限の期限は2年間とされていましたが、国連安保理決議1673の採択(2006年4月27日)で権限の期限をさらに2年間延長。これ以降も、国連安保理決議1810の採択(2008年4月25日)により、引き続き3年間延長されるとともに、2011年4月20日には国連安保理決議1977が採択され、1540委員会の権限の期限は、最終的に10年間延長(2021年4月20日まで)されることになりました。

<メモ1>
決議の文言は以下で確認できます。
決議1540委員会の国連公式サイトから、国連安保理決議1540、1673、1810、1977にアクセスいただけます(英語等)
②国連安保理決議1540、1673、1810については、以下で日本語訳がご覧いただけます。
決議1540(PDFファイル)
決議1673
決議1810

2.採択の経緯
ブッシュ前米大統領が2003年9月に国連総会で行った演説の中での提案が、国連安保理決議1540の採択の直接的な契機となっています。英文になりますが、こちら(PDFファイル)で演説の内容を確認できます。この中で、ブッシュ前米大統領は、ならず者国家(outlaw regimes)やテロリスト・ネットワークが大量破壊兵器を入手してしまうことが、国際の平和を脅かす重大な脅威となると強調。その上で、国連安全保障理事会が、国連加盟国に、①大量破壊兵器の拡散を犯罪とすること、②国際基準に合致した厳格な輸出管理を実施すること、③軍事転用されやすい機微な物資の安全を確保すること、を要請する「新しい大量破壊兵器反拡散決議」を採択すべきだと訴えています。ここでの提案は、国連安保理決議1540の主文パラグラフ(Operative Paragraph, OP)の中でも、主要な義務について定めたOPに反映されています。OPについては後ほど詳しく触れます。

3.決議の特徴
国連安保理決議1540は、国家レベルでの大量破壊兵器等の拡散よりも、むしろ非国家主体に重点を置いたものとなっています。実際、タリバンやアルカイダのメンバーやそれらの関連団体に対し、資産凍結などの制裁を科すことを目的とした国連安保理決議1267と、テロリスト・テロ組織への資金供与の防止を目指す国連安保理決議1373の二つの非国家主体を対象とした決議が、国連安保理決議1540を起草する際の参考になっています。国連安保理決議1540の文言は、とりわけ、国連安保理決議1373の規定を摸倣した形になっており、決議1373における国連加盟国の国内措置を促進することで決議の履行を確保するというアプローチや、国連加盟国の決議の履行の進捗状況の確認と情報共有のための委員会を設置するというアプローチが、国連安保理決議1540でも採用されています。

<メモ2>
①国連安保理決議1267(英語)は、1999年の国連安保理決議リストからご覧ください。
日本語訳はこちらです。
②国連安保理決議1373(英語)は、2001年の国連安保理決議リストからご覧ください。
日本語訳はこちら(PDFファイル)です。

<メモ3>
国連安保理決議1540は、決議の対象となる非国家主体を「いかなる国の法律に基づく権限の下でも行動していない個人又は団体」と規定しています。

<メモ4>
国連安保理決議1267により設置された対タリバン・アルカイダ制裁委員会、国連安保理決議1373により設置されたテロ対策委員会(Counter-Terrorism Committee, CTC)、国連安保理決議1540により設置された1540委員会の三つの委員会の議長は、国連安保理公開会合において共同でブリーフィングを行っており、ここでのブリーフィングを受けて、国連安保理は三つの委員会が緊密に情報を共有し、協力関係を強化していくよう要請しています。例えば2005年4月25日に行われた三つの委員会の議長による共同ブリーフィング(英語)を参照して下さい。

※決議の主文パラグラフ(Operative Paragraph, OP)の説明や、決議の履行確保については、当ブログの次の記事をご覧ください。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

安全保障輸出管理 国際輸出管理レジーム

安全保障輸出管理 国際輸出管理レジーム

1.国際輸出管理レジームの変遷
冷戦期の輸出管理は、共産圏諸国に対し、軍事能力の向上に資する可能性の高い貨物や技術を戦略物資として規制し、主に西側諸国から共産圏諸国へのハイテク技術の流出防止を目的として1949年に設立されたココム(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls, COCOM=対共産圏輸出統制委員会)を基本としていました。ココムは国際条約に基づくものではなく、ココムでの合意事項は参加各国の国内法で実施されるという形を取っていました。また、ココムで規制されている品目を参加各国が個別に輸出する場合の輸出の可否については、ココム参加国の全会一致で決めていたため、ある参加国の輸出を他の参加国が拒否するということも可能でした。

他方で1970年代以降、大量破壊兵器等の拡散防止を目的とした輸出管理レジームが逐次発足していきます。まず、1974年のインドの核実験を契機に核兵器関連の貨物と技術の輸出管理の枠組みである「原子力供給国グループ(Nuclear Suppliers Group, NSG)」が設立。そして、1984年にイラン・イラク戦争においてイラクが化学兵器を用いたことが明らかになったことを受けて、化学兵器の原材料や製造設備、関連技術に関する輸出管理を目的とした「オーストラリア・グループ(Australia Group, AG)」が1985年に結成。なお、AGは1990年に生物兵器関連の貨物や技術の品目も規制対象に追加し、生物・化学兵器関連の輸出管理レジームに発展しています。さらに1987年には大量破壊兵器の運搬手段となるミサイルなどの開発に使われる貨物や技術に対する輸出管理の枠組みである「大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制(Missile Technology Control Regime, MTCR)」が創設されました。ココムが共産圏諸国に限定した輸出管理レジームであるのに対して、これらの大量破壊兵器等に関連する輸出管理レジームは、原則、すべての国に対する輸出を規制しています。ココムとは異なり、大量破壊兵器等に関連する輸出管理レジームのように、すべての国を対象に輸出を規制するやり方を「不拡散型輸出管理」と呼びます。

冷戦終結後は、ココムの規制対象国であったソ連の崩壊と東側諸国の変化により、ココムの必要性が低下します。最終的にココムは1994年に解消。一方、冷戦終結後も頻発する地域紛争で使われる通常兵器の不透明な移転と過剰な蓄積の防止を目的としたワッセナー・アレンジメント(Wassenaar Arrangement, WA)が1996年に発足し、これにはロシアも参加しています。WAは、大量破壊兵器等に関する輸出管理レジームと同様、「不拡散型輸出管理」の枠組みとなっています。

2.国際輸出管理レジームの特徴と課題
先にも述べた通り、ココムと同様、NSG、AG、MTCR、WAの四つの輸出管理レジームは条約に基づくものではなく、紳士的な申し合わせにより組織化された枠組みであるため、法的拘束力はありません。NSG、AG、MTCR、WAの四つの輸出管理レジームでは、規制される貨物や技術のリストや、リストに基づいて輸出管理を実施する際のガイドラインの内容については、レジーム参加国の全会一致の合意に基づき決定されますが、合意内容をレジーム参加国が実際に国内法に反映するのかどうか、また個別に輸出管理を実施する際、どの品目の貨物の輸出や技術の提供を許可、もしくは不許可とするのかといった判断については、あくまで参加各国の政府の裁量に任されています。従って、ココムのように、ある参加国の輸出が他の参加国により拒否されるということはありませんし、合意事項の遵守に関する検証制度も存在しません。さらに、これら四つの参加国数はそれぞれ数十カ国と多くはありません。NSGが46カ国、AGが40カ国、MTCRが34カ国、WAが40カ国です。そのため、レジームに参加しない国を経由する迂回輸出などが問題となっています。

3.関連リンク
①NSGについて
http://www.nuclearsuppliersgroup.org/Leng/default.htm(英語)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/nsg/index.html(外務省のサイト。日本語)
②AGについて
http://www.australiagroup.net/en/index.html(英語)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/ag/(外務省のサイト。日本語)
③MTCRについて
http://www.mtcr.info/english/index.html(英語)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html(外務省のサイト。日本語)
④WAについて
http://www.wassenaar.org/(英語)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html(外務省のサイト。日本語)

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

安全保障輸出管理 概論③

安全保障輸出管理 概論③

5.リスト規制とキャッチオール規制
大量破壊兵器等の拡散の防止と通常兵器の過剰蓄積の防止という目的に合意する諸国は、安全保障輸出管理についての紳士的な申し合わせに基づく多国間の枠組みを組織しています。こうした枠組みとしては、①核兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制する「原子力供給国グループ(NSG)」、②生物・化学兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制する「オーストラリア・グループ(AG)」、③大量破壊兵器の運搬手段に関連する貨物の輸出や技術の提供を規制するMTCR、④通常兵器関連の貨物の輸出や技術の提供を規制するWA、の四つがあります。
これら四つの枠組みは、条約に基づくものではないので法的拘束力を有していませんし、参加国数もそれぞれ数十カ国と決して多くはないため、普遍的でもありません。しかし、これら四つの枠組みでは、輸出や提供が規制されるべき貨物や技術の種類やその詳細な仕様などについて検討され、参加国の合意を踏まえたリストが作成されています。四つの枠組みのそれぞれで作成されたリストに基づき、参加国は国内法を整備し、輸出管理を実施するということになっており、リストに掲載されている貨物を輸出したり技術を提供したりする際には、政府当局(日本の場合は経産省)の許可を受けることが必要となります。これが安全保障輸出管理における「リスト規制」と呼ばれているものです。リスト規制を実施する上での具体的な運用の基盤となっているという意味では、これら四つの枠組みは安全保障輸出管理において不可欠なレジームであると評価できます。なお、これら四つの枠組みについては後で引き続き詳しく説明します。
一方、1991年の湾岸戦争終結後、国連の査察団がイラクに査察に入った際、リスト規制の対象外となっていた貨物や技術を活用し、イラクが生物・化学兵器や核兵器を開発しようとしていたことが判明したため、リスト規制対象外の貨物や技術も含めた輸出規制が、欧米諸国を中心に導入されるようになりました。これにより食料や木材などを除いたほぼすべての品目が輸出規制の対象となるため、新たに導入された輸出規制は「キャッチオール規制」と呼ばれています。「キャッチオール規制」においては、貨物や技術を入手する需要者が兵器の拡散に関与している者であるのかどうか、また、需要者が貨物や技術を入手する目的が兵器の開発であるのかどうかを確認することが重要となります。つまり「キャッチオール規制」は、貨物の輸出や技術の提供をする際の「需要者」と「用途」のチェックに基づいた輸出規制であると言えます。安全保障輸出管理は、大きく「リスト規制」と「キャッチオール規制」の二本柱で成り立っています。

<メモ8>
日本は四つの枠組みすべてに参加しています。四つの枠組みで作成されたリストを国内法制に反映し、貨物については「輸出貿易管理令別表第1」で、技術については「外国為替令別表」で輸出許可を要する貨物と技術の種類を定めています。また、輸出許可を要する貨物と技術の具体的な仕様については「輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づく貨物又は技術を定める省令」で規定されています。

<メモ9>
キャッチオール規制では、たとえ需要者が疑わしい者であっても、用途の方は兵器開発とまったく関係がないということが明らかになれば、貨物の輸出や技術の提供が許可されることがあり、需要者が疑わしいということだけを理由に、不許可となるということはありません。

<メモ10>
大量破壊兵器などの拡散への関与が懸念される需要者については、日本の場合、経産省が作成した「外国ユーザーリスト」(PDFファイル)に掲載されています。なお、「外国ユーザーリスト」に掲載されているというだけで、貨物の輸出や技術の提供が不許可になるわけではありません。また、米政府が作成しているリストも、懸念される需要者の確認のため目を通す必要があります。具体的には、①米国商務省発行の「米国輸出管理規則違反禁止顧客リスト(Denied Persons List)」で、同規則の違反により取引が禁止されている企業と個人のリスト、②同じく商務省発行の「大量破壊兵器拡散懸念顧客リスト(Entity List)」(PDFファイル)、③財務省発行の「特別指定国民及び資格停止者リスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons, SDN)」で、国連制裁国、米国禁輸国、テロ支援国の政府関係機関や関連企業などの個人と法人のリスト(PDFファイル)などです。

6.拡散に対する安全保障構想(PSI)の位置付け
日本を含む各国が自国の領域にとどまらず、自国の領域を越えて他国と協力し、大量破壊兵器やミサイルなどの関連貨物を密輸している疑いのある船舶などに対して立ち入り検査などを実施し、密輸を阻止する「拡散に対する安全保障構想(Proliferation Security Initiative, PSI)」と呼ばれる取り組みがあります。PSIの詳細についてはこちらを参照して下さい。PSIは、輸出管理そのものではありませんが、大量破壊兵器等の拡散に関与していると懸念される船舶などを対象に立ち入り検査を行う際、軍と連係して強制的に実施することも想定されていることから、PSIを「強制的輸出管理(coercive export control)」と位置付ける専門家もいます。例えば、米国のシンクタンク、外交問題評議会の研究員であるマイケル・レビ氏とブルッキングス研究所の研究員であるマイケル・オハンロン氏の共著“The Future of Arms Control”のp.70でこのことが指摘されています。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

安全保障輸出管理 概論②

安全保障輸出管理 概論②

3.大量破壊兵器等について
大量破壊兵器(Weapons of Mass Destruction, WMD)とは、核兵器と生物・化学兵器のことであると言われています。また、大量破壊兵器そのものではありませんが、ミサイルをはじめとする大量破壊兵器を運搬する手段も、大量破壊兵器そのものと同様に問題視されています。そのため、安全保障輸出管理では、大量破壊兵器そのものと運搬手段を引っくるめて「大量破壊兵器等」と呼び、大量破壊兵器と運搬手段双方に関連する貨物の輸出と技術の提供を規制し、それらの拡散を防止しようとしています。日本の安全保障輸出管理においては、「大量破壊兵器等」を「核兵器、軍用の化学製剤もしくは細菌製剤、もしくはこれらの散布のための装置もしくはこれらを運搬することができるロケットもしくは無人航空機であってその射程もしくは航続距離が300キロメートル以上のもの」と定義し、これらを「核兵器等」と総称しています。「輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令」の第一を参照して下さい。

<メモ6>
米国防総省の軍事関連用語辞書では、大量破壊兵器について、核兵器と生物・化学兵器に加え、放射性兵器(radiological weapons)も含めています。こちら(英語:PDFファイル)を参照して下さい)。

<メモ7>
核兵器に対してはその拡散を防止するための「核兵器不拡散条約(NPT)」、化学兵器と生物兵器に対してはそれぞれの開発、生産、貯蔵などを禁じる「化学兵器禁止条約(CWC)」と「生物兵器禁止条約(BWC)」が存在していますが、それらの運搬手段を規制する条約はありません。弾道ミサイルについては、2002年11月にオランダのハーグで採択された、弾道ミサイルの拡散防止や開発・実験・配備の自制などについて定める「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)」がありますが、HCOCに法的拘束力はありません。運搬手段についての輸出規制は、「大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制(MTCR)」の下で具体的に運用されています。MTCRについては後ほど詳述します。

4.通常兵器について
現在、通常兵器全般に対して、開発や保有、取引などを禁止、もしくは制限する条約はありません。対人地雷やクラスター弾のように、特定の限られた通常兵器対して、開発や製造、保有、委譲などを禁止する条約が存在しているにとどまっています。むしろ、国連憲章第51条で国連加盟国の自衛権が認められており、自国の安全を確保するための通常兵器の取引は合法であると考えられています。
しかし、何らの制約なく、通常兵器やその関連の貨物の輸出や技術の提供がなされることで、国際や地域の平和と安全が損なわれてしまうことを避けるため、通常兵器関連の貨物の輸出と技術の提供を規制するワッセナー・アレンジメント(WA)という国際輸出管理レジームがあります。ただ、WAの場合、通常兵器取引の合法性という性質を踏まえ、大量破壊兵器に対する輸出管理とは異なり、兵器そのものの移転や拡散を阻止すること自体を目的としてはいません。そのためWAの目的は、「通常兵器とその関連の汎用品・汎用技術の移転の透明性と責任を高め、地域的・国際的な安全を揺るがすような通常兵器の蓄積を防止すること」となっています。WAの目的については、英文になりますがこちらのサイトを参照して下さい。
多発している地域紛争を激化させないためにも、通常兵器の関連貨物・技術の輸出・提供を規制することの必要性が認識されている半面、国内や地域の治安を維持するためには、ある程度の通常兵器の提供が望ましい場合もあります。従って、どのような場合に国際や地域の平和と安全を脅かすような通常兵器の過剰蓄積となり、関連の貨物と技術の輸出や提供を不許可とすべきなのかについて慎重に検証し、判断することが求められていると言えます。WAについても後ほど詳述します。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

安全保障輸出管理 概論①

安全保障輸出管理 概論①

1.安全保障輸出管理とは
安全保障輸出管理とは、国際の平和と安全の維持が妨げられるような事態を防ぐため、大量破壊兵器等の拡散防止と通常兵器の過剰蓄積の防止を目的に、これらの兵器の開発や製造を企図する国や非国家主体(企業や個人、武装勢力やテロリストなど)に対して、必要な貨物の輸出や技術の提供を規制し、入手を困難にさせることを言います。例えば、ある貨物が輸出先で核兵器の開発に使われるおそれがある場合には、輸出申請を許可しないことで、核兵器の開発にその貨物が使われてしまうことを未然に防止しようとするものです。ただ、安全保障輸出管理においては、審査の結果、輸出申請が許可されれば輸出は可能であるため、禁輸措置とは異なるという点にも注意が必要です。なお、日本では公式には安全保障貿易管理と言われていますが、売買取引とは関係のない国外への物の持ち出し行為も規制の対象となっているため、ここでは安全保障輸出管理という言葉を用いて説明することとします。

<メモ1>
日本の経済産業省は「安全保障貿易管理」という言葉を用いています(こちらを参照)。なお、経産省は「安全保障貿易管理」という言葉に該当する英語については、Export Controlという語を用いているようです。

<メモ2>
安全保障輸出管理については、日本では「外国為替及び外国貿易法(外為法)」で規定されていますが、外為法において「輸出」がはっきりと定義されているわけではありません。ただ、外国に物を出すという行為は、その形態や手段がどんなものであれ輸出に当たると解釈されているため、商取引における製品の輸出だけでなく、例えば、①海外で開催される展示会への出品、②外国から輸入した製品に不具合がある場合の修理のための返却、③製品の評価を外国で行うための試作品の送付、④自分が使用し、持ち帰るノートパソコンなどを携行しての出国、なども輸出に該当し、管理の対象となっています。安全保障輸出管理についての外為法の規定の具体的な運用について定めた輸出貿易管理令第4条や、貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条などを参照して下さい。安全保障輸出管理に関する外為法やその他の関係法令の規定については、経産省のこちらのサイトで確認できます。

2.貨物と技術について
安全保障輸出管理における「貨物」とは資機材も含めた物品一般を指しており、完成品か部品かを問わず、およそ物として化体していれば、ほとんどが「貨物」に該当します。また、「技術」とは、貨物の設計や製造、使用に必要な特定の情報のことを指します。そして、こうした情報は「技術データ」もしくは「技術支援」の二つの形態により提供されると考えられており、これら二つの形態による兵器の開発・製造が疑われる者への技術提供が規制されています。「技術データ」とは、文書、ディスク、テープ、ROM、USBメモリなどの媒体もしくは装置に記録されたものであって、写真、設計図、線図、モデル、数式、設計仕様書、マニュアル、指示書などの形態をとるもの、またはコンピュータプログラムのことを言います。「技術支援」とは、技術指導、技術訓練、作業知識の提供、コンサルティング・サービスなどの形態を取るものであり、技術支援においては、技術データの提供が含まれることもあります。技術提供の手段としては、情報を記録したものの提供と、記録を伴わない口頭による提供があります。情報を記録したものの提供としては、技術データの直接の引き渡し、電子メールやFaxによる送信などがあります。情報を記録したものの提供と口頭による技術提供の双方が規制対象となっています。
なお、貨物の輸出については物を外国に出すという行為が問題になりますが、技術提供の場合は、例えば日本に住む居住者が日本にいながら外国人(日本の安全保障輸出管理においては「非居住者」という語を用いています。なお「非居住者」は外国人だけではありません)とやり取りする場合も管理の対象となっています。現在では一般に使われている多くの民生用の貨物と技術を軍事用途にも転用することが可能であり、ほとんどの貨物と技術は民生用・軍事用の双方に利用可能な汎用(dual-use)品・汎用技術であると言っても過言ではありません。その結果、意図的であるかどうかにかかわらず、軍事とは無関係な民間企業や個人が、いつの間にか兵器の開発に結果的に関与してしまう危険性があるという点に、安全保障輸出管理における問題の難しさがあります。

<メモ3>
安全保障輸出管理における「居住者」と「非居住者」の概念については、一般財団法人安全保障貿易情報センターのこちらのサイトのA.1-12を参照のこと。なお、米国の場合、「居住者」と「非居住者」という概念を用いておらず、安全保障輸出管理上の規制は国籍によります。英文になりますが、米国輸出管理規則(PDFファイル)の§734.2の(b)の(5)を参照のこと。同じく英文ですが、米国輸出管理規則の全文については、米国商務省・産業安全保障局のこちらのサイトで確認できます。

<メモ4>
大学や研究機関が外国から留学生を受け入れたり、外国の大学や研究機関と共同研究を実施したりする場合に技術提供がなされる場合も、原子力のような特定の分野に限らず、広く工学系や医学・薬学系、理学系などの分野であっても兵器の開発に利用されるおそれがあるため、安全保障輸出管理のルールを遵守することが重要であるとの認識が強まっています。例えばこちらの経産省のサイトを参照のこと。

<メモ5>
違法な核兵器関連貨物・技術の調達ネットワークである「カーンネットワーク」(パキスタンの核兵器開発に従事したアブドゥル・カディール・カーン博士が中心人物であったためその名に因んでいる)を通じて、リビアに核兵器開発に必要な遠心分離器の部品が提供される際、原子力産業とは何の関係もなく、大量破壊兵器の拡散につながる行為とも無関係な合法な取引を行っていると考えられていたマレーシアの自動車部品や精密機械を扱う企業が巻き込まれていました。英文ですが2004年2月に出されたマレーシア警察の捜査報告書(PDFファイル)を参照。

(作成者:森山隆 国際基督教大学大学院博士課程中退。専門は軍縮、軍備管理、不拡散に関する国際法規制。2007年、英国国際戦略研究所(IISS)勤務。現在、雑誌編集者。安全保障輸出管理実務能力認定証取得者。)

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