「武器と市民社会」研究会

2007年5月に設立された「武器と市民社会」研究会の公式ブログです

2016年8月22-26日 ATT第2回締約国会議 基本情報

2016年8月22日(月)から8月26日(金)まで、スイスのジュネーブにおいて、武器貿易条約(ATT)の第2回締約国会議が開催されます。以下、会議に関する基本情報を掲載いたします。

【ATT第2回締約国会議 基本リンク集】
1. 当研究会関連

1-A. 今回の会議に先立ち、『国際武器移転史』第2号(2016年7月刊行)に、「2016年8月の武器貿易条約(ATT)第2回締約国会議に向けて―第1回締約国会議およびその後の論点―」を掲載いただきました。リンク先から無料でダウンロードいただけます(PDF、日本語)。
1-B. ATTの概要については、『国際武器移転史』第1号(2016年1月刊行)に掲載いただいた「武器移転規制と秩序構想―武器貿易条約(ATT)の実施における課題から―」の前半(pp.53-60)に、解説があります。リンク先から無料でダウンロードいただけます(PDF、日本語)。
1-C. 2012-2013年のATT条約交渉会議およびその前に開催された準備委員会に関する情報や、会議中に作成・配布された公式・非公式の様々な文書の分析は、このブログの「武器貿易条約」カテゴリーの過去記事でご覧いただけます。
1-D. ATT条約交渉会議中に作成・配布された公式・非公式の文書のほどんとは、研究会のScribdアカウントから無料でダウンロードいただけます。

2.会議公式サイト・文書
2-A. ATT第2回締約国会議 公式サイトトップページ (英語)
2-B. ATT第2回締約国会議に向けて作成された合意文書案などの最新版(英語)
2-C. 第2回締約国会議 会議スケジュール(PDF、英語)
2-D. 会議中のサイドイベントのリスト(英語)
2-E. 各国が提出した国内法整備に関する報告書および年次武器輸出入報告書(日本政府が提出した報告書も。英語他)

3. 会議に参加するNGO関連
3-A. テラ・ルネッサンス(「コントロール・アームズ」日本キャンペーン推進団体)プレスリリース(日本語)
3-B. 「コントロール・アームズ」国際キャンペーンサイト(英語)
3-C. リーチング・クリティカル・ウィル(Reaching Critical Will)の第2回締約国会議まとめページ(会議の進行に伴いコンテンツが増える見込、英語)

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。ATT第2回締約国会議に参加予定)

ATT第1回締約国会議の争点③報告書-3

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンで、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されています。

この会議では、今後の締約国会議における手続規則や、条約事務局の機能のありかた、事務局の運営や締約国会議開催などのための資金など、条約の実効性を左右する重要事項について検討されています。また、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細や、報告書が一般公開されるか否かについても検討されています。

これらの事項について、いくつかの記事に分けて解説しています。
記事1(手続規則)記事2(条約事務局の機能と今後の資金)は、リンク先をご覧ください。

この記事では、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細に関する争点を説明しています。
報告書についての論点は非常に多いため、3つほどの記事に分けて解説しています。報告書に関する基本的な問題や、2013年に採択されたATTにおける報告書に関する記載、および争点①から③については、報告書に関する1つめの記事2つめの記事をご覧ください。

5-2. 第一回締約国会議に向けた争点

④ 輸出と輸入:許可された輸出入か、実際の輸出入か?

- ATTの第13条第3項において、各締約国は、毎年5月31日までに、条約第2条(1)の通常兵器について、前の暦年(1月1日から12月31日まで)において許可されたあるいは実際の(authorized or actual)輸出と輸入について、報告書を提出することになっています(以下では「年次報告書」と記す)。そして、この報告書は締約国が国連軍備登録制度などの関連の国連フレームワークに提出した情報と同じ情報を含めたものでよい(may contain)ことになっており、また、商業的に機微なあるいは国家安全保障上の情報は報告書から除外できる(Reports may exclude commercially sensitive or national security information)ことになっています。

- 第1回締約国会議に向けては、輸出と輸入について、「許可された」ものと「実際の」もののどちらかを「年次報告書」に記入すればよく、それは各国の裁量に委ねるべきだとの議論がありました。両方を記入することを促すべきだとの意見もありましたが、各国の輸出入規制の制度の違いに鑑み、各国の裁量でどちらかを記入すればよいとの意見が優勢でした。

- 2015年8月12日に作成された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4)においては、各国の裁量でどちらかを(あるいは両方を)記入できるようになっています。

【追記:会議中の2015年8月26日に配布された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.1)においても、同様に選択できるようになっています。】

⑤ 輸出と輸入:数か価格か?

- 「年次報告書」については、輸出と輸入について、数(number of items)を報告すべきか価格(value)を報告すべきか、という論点もあります。このなかで、とりわけ価格だけを報告することについては、会議に向けた議論においてNGOや研究者らから批判がありました。武器の価格というのは武器の質や取引によって違うため、年次報告書に各カテゴリーの兵器輸出入の価格だけが記入された場合、何がどのくらい輸出入されたのかが明確になりません。また、武器の取引契約においては、全体の契約額のなかに武器そのものの値段以外の費用(使用のための訓練代、その他の備品代など)も含まれることがあるため、テンプレートに記入する額をどのように決めるのかという疑問も提示されていました。

- 2015年8月12日に作成された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4)においては、各国の裁量で数と価格のどちらかを(あるいは両方を)記入できるようになっています。

【追記:会議中の2015年8月26日に配布された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.1)においても、同様に選択できるようになっています。】

ここまでの3つの記事で紹介してきたように、報告書のテンプレートについては、非常に多くの論争点があります。報告書に関する2つめの記事で説明したように、小型武器・軽兵器に関する部分などについては、条約上の義務を十分に反映しているのか疑問が残ります。

2015年8月25日の本会議では、スウェーデン、コスタリカ、アメリカが、テンプレート案は不十分であるため、今回の会議で確定させるというよりも、第2回締約国会議までにより良いものを作るべきであり、そのためのサブ・グループを作るべきだと主張し、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンもこれを支持しました。
【再追記:会議最終日の8月27日に、さらに修正案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.2)が提示されましたが、最終的に、テンプレート案については今後のプロセスのなかでさらなる検討が加えられることになりました。】

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。2003年9月から2015年8月まで、(特活)オックスファム・ジャパンにて軍備管理・軍縮を担当。オックスファム勤務時は団体内部の規則に則り仕事名(夏木碧)を使用。オックスファムの立場を離れ、一研究者としてATT第1回締約国会議に参加中。)

ATT第1回締約国会議の争点③報告書-2

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンで、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されています。

この会議では、今後の締約国会議における手続規則や、条約事務局の機能のありかた、事務局の運営や締約国会議開催などのための資金など、条約の実効性を左右する重要事項について検討されています。また、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細や、報告書が一般公開されるか否かについても検討されています。

これらの事項について、いくつかの記事に分けて解説しています。
記事1(手続規則)記事2(条約事務局の機能と今後の資金)は、リンク先をご覧ください。

この記事では、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細に関する争点を説明しています。

報告書についての論点は非常に多いため、3つほどの記事に分けて解説しています。報告書に関する基本的な問題や、2013年に採択されたATTにおける報告書に関する記載、および争点①については、報告書に関する1つめの記事をご覧ください。

5-2. 第一回締約国会議に向けた争点

② 条約上の義務である措置と推奨されている措置

- ATTの第13条第1項において、各締約国は、自国にとってATTの効力が発生してから1年後までに、ATTの実施のために行った措置(国内法、規制リスト、その他の行政的措置などを含む)に関する最初の報告書(initial report)を提出することになっています(以下では「最初の報告書」と記す)。

- この報告書については、ATTにおいて義務ではない措置についても、ATTに関連する措置については報告すべきだと主張する国があった一方で、ATTにおいて義務である措置とそうでない措置を明確に分けて、前者だけを報告することを可能にすべきだと主張する国もありました。

-  2015年8月12日に作成された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4)には、この「最初の報告書」の草案も含まれています。そして、この草案は、条約において締約国の義務である措置に関するテンプレートと、条約において締約国に対して奨励されている措置に関するテンプレートが明確に分けられています。このことは、締約国は、条約において義務ではない措置に関しては報告しなくてもよい(報告するかどうかを各国が選ぶことができる)ことを意味します。

③ 報告する武器の範囲

- ATTの第13条第3項において、各締約国は、毎年5月31日までに、条約第2条(1)の通常兵器について、前の暦年(1月1日から12月31日まで)において許可されたあるいは実際の(authorized or actual)輸出と輸入について、報告書を提出することになっています(以下では「年次報告書」と記す)。そして、この報告書は締約国が国連軍備登録制度などの関連の国連フレームワークに提出した情報と同じ情報を含めたものでよい(may contain)ことになっており、また、商業的に機微なあるいは国家安全保障上の情報は報告書から除外できる(Reports may exclude commercially sensitive or national security information)ことになっています。

- 国連軍備登録制度の兵器カテゴリーは冷戦終結の頃に作成されたものであり、カテゴリーから抜け落ちる武器が多いことや、アップデートが必要であることが指摘されており、報告書のテンプレートも大雑把なものです。今回の締約国会議に向けては、「年次報告書」のテンプレートは国連軍備登録制度の報告書と同様のものにすべきという国もありました。しかし、ATT第5条第3項においては、締約国は、重兵器を中心とした7カテゴリーに関して「条約発効時に国連軍備登録制度において記述されている兵器よりも狭い範囲の通常兵器を対象とするものであってはならない」とされており、これは国連軍備登録制度の兵器だけを規制して報告すれば良いという意味では必ずしもありません。したがって、第一回締約国会議に向けて、NGOや研究者などのなかには、国連軍備登録制度の兵器カテゴリーから抜け落ちるような武器についても報告を促すようなテンプレートにすべきだと主張していました。

- また、ATTの第 5 条第 3 項には、各締約国による小型武器・軽兵器の定義についても、「この条約の効力発生時における国連の関連文書(relevant United Nations instruments)において用いられるものよりも狭い範囲の通常兵器を対象とするものであってはならない」と記されています。しかし、ここでの「国連の関連文書」としては、まずは2001 年の「銃器並びにその部品及び構成品並びに弾薬の非合法な製造及び取引の防止に関する議定書」(銃器議定書)や、2005 年の「非合法小型武器・軽兵器の特定と追跡に関する国際文書」(ITI)が考えられるものの、実際にどの文書を指すのかに関する解釈は各締約国に委ねられます。そして,この 2 つの文書が対象とする兵器の範囲は同一ではありません。さらに、国連軍備登録制度で使用されている小型武器・軽兵器の範囲はあるものの、これは軍用の小型武器・軽兵器に限定しているなど、上記2つよりも極端に狭くなっています。

- 今回の締約国会議に向けた議論においては、国連軍備登録制度の定義を援用してショットガンなどの「民間用」の小型武器・軽兵器の報告義務をなくそうとする国がみられました。しかし、銃器議定書やITIでは「民間用」の小型武器・軽兵器が除外されているわけではありません。しかも、民間人が所有することを許可される「民間用」小型武器・軽兵器の定義は国によって異なり、例えばアメリカなどでは軍が使用する小型武器・軽兵器に限りなく近い銃を民間人が所持できます。加えて、銃器議定書やITIで使用されている定義よりも狭い範囲の通常兵器について報告するようなテンプレートは、ATT第 5 条第 3 項の小型武器・軽兵器の定義に関する義務――「この条約の効力発生時における国連の関連文書(relevant United Nations instruments)において用いられるものよりも狭い範囲の通常兵器を対象とするものであってはならない」――との整合性がないとの指摘があります。

- 2015年8月12日に作成された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4)では、年次報告書の武器輸出入情報のテンプレートは、国連軍備登録制度の報告書を大枠で踏襲したものです。他のカテゴリーの武器についても報告書に含むことができるようにはなっていますが、それは各国がボランタリー(任意)で記入するものであることが明確に示されています。そして、小型武器・軽兵器の定義も国連軍備登録制度の定義を踏襲しており、これについてNGOや研究者などから強い反発がみられています。

【追記:会議中の2015年8月26日に配布された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.1)においても、上記の問題が同様に残っています。】
【再追記:会議最終日の8月27日に、さらに修正案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.2)が提示されましたが、最終的に、テンプレート案については今後のプロセスのなかでさらなる検討が加えられることになりました。】

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。2003年9月から2015年8月まで、(特活)オックスファム・ジャパンにて軍備管理・軍縮を担当。オックスファム勤務時は団体内部の規則に則り仕事名(夏木碧)を使用。オックスファムの立場を離れ、一研究者としてATT第1回締約国会議に参加中。)

ATT第1回締約国会議の争点③報告書-1

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンで、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されています。

この会議では、今後の締約国会議における手続規則や、条約事務局の機能のありかた、事務局の運営や締約国会議開催などのための資金など、条約の実効性を左右する重要事項について検討されています。また、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細や、報告書が一般公開されるか否かについても検討されています。

これらの事項について、いくつかの記事に分けて解説しています。
記事1(手続規則)記事2(条約事務局の機能と今後の資金)は、リンク先をご覧ください。

この記事およびこの後の記事では、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートに関する争点を説明します。報告書についての論点は非常に多いため、3つほどの記事に分けて解説します。

5. 報告書のテンプレート

- 各国政府が自国の武器移転規制や様々な種類の武器の輸出入について報告する際に、どのような用紙に記入するのかは、具体的に何についてどの程度の情報が報告されるのかを左右します。そして、そうした報告書が公開されるか否かは、条約の第1条で示されている目標の一つである、武器移転の透明性向上にもかかわると考えられます。

- 以下では、2013年4月に採択されたATTにおける報告書に関する記載を見直した後で、今回の会議に向けた論争点を紹介しながら、この会議に向けて作成された報告書テンプレートについての草案の内容を紹介します。

5-1. 2013年4月に採択されたATT上の報告義務

- ATTの第13条第1項において、各締約国は、自国にとってATTの効力が発生してから1年後までに、ATTの実施のために行った措置(国内法、規制リスト、その他の行政的措置などを含む)に関する最初の報告書(initial report)を提出することになっています(以下では「最初の報告書」と記す)。

- また、ATTの第13条第2項において、締約国は、条約第2条(1)の通常兵器が移転される際の流出(diversion)の問題に対処するために実施した措置のなかで有効であることが分かった措置に関する情報を、第2条事務局を通じて他の締約国に報告することが奨励されています(以下では「流出関連報告書」と記す)。

- そして、ATTの第13条第3項において、各締約国は、毎年5月31日までに、条約第2条(1)の通常兵器について、前の暦年(1月1日から12月31日まで)において許可されたあるいは実際の(authorized or actual)輸出と輸入について、報告書を提出することになっています(以下では「年次報告書」と記す)。そして、この報告書は締約国が国連軍備登録制度などの関連の国連フレームワークに提出した情報と同じ情報を含めたものでよい(may contain)ことになっており、また、商業的に機微なあるいは国家安全保障上の情報は報告書から除外できる(Reports may exclude commercially sensitive or national security information)ことになっています。

- 以上のうち、「最初の報告書」と「年次報告書」については、「報告は閲覧ができるものとし、事務局が締約国に配布する」(次の文言の外務省訳:Report shall be made available, and distributed to States Parties by the Secretariat)と記されています(第13条第1項および第13条第3項)。2013年3月のATT最終交渉会議中に、この表現に関しては、最後の段階(最終草案の段階)で、”Reports shall be made available”の後にカンマ(,)が入りました。そして、このカンマの意味については、交渉会議場にいた多くのATT推進国関係者のなかで、報告書が締約国だけでなく一般に閲覧可能(公開)にすることを意味するとの解釈が共有されていましたが、曖昧さが残る表現でした。

5-2. 第一回締約国会議に向けた争点

- この会議に向けた準備会合等においては、上記の「最初の報告書」、「流出関連報告書」、「年次報告書」の草案が何回も作成され、議論が行われてきました。

争点① 報告書を一般公開するかどうか

- まず、上述のように、「最初の報告書」と「年次報告書」については、条約交渉中には、締約国間で共有されるだけなく一般にも公開されるという意味であるとの解釈が広く共有されていたものの、第一回締約国会議に向けては、一般公開する必要はないと主張する国もありました。

- しかし、例えば、ATTで規制される武器の多くを取り扱っている国連軍備登録制度においては、各国が輸出入について提出する報告書は公開されています。ATTにおいて報告書を一般公開しない場合は、ATTの第1条において透明性向上が目的として掲げられているにもかかわらず、20年以上前に設置された国連軍備登録制度よりもATTの報告制度のほうが透明性が低いことになります。したがって、今回の会議においても、エルサルバドル(8月24日)、オランダ(8月24日)、コスタリカ(8月24日)は、報告書を公開すべきだと強く主張しました。

- これについて、この会議に向けては、「最初の報告書」と「年次報告書」を公開するかどうかについて、各締約国が決められるようにすることを支持する国もありました。これについて、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンは、2013年4月に採択された条約の第13条の文言は、これらの報告書を公開することを意味していると解釈すべきであり、条約第1条で目的として掲げられている透明性向上に資するような報告制度にする必要があると主張しました。

- 2015年8月12日に作成された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4)においては、「最初の報告書」と、「輸出に関する年次報告書」と「輸入に関する年次報告書」のそれぞれにチェック・ボックス(tick box)が設けられており、それぞれについて、各国が一般公開するかどうかを選択できる仕様になっています。

【追記:会議中の2015年8月26日に配布された報告書テンプレート草案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.1)においても、同様のチェック・ボックスが設けられています。】
【再追記:会議最終日の8月27日に、さらに修正案(ATT/CSP1/2015/WP.4/Rev.2)が提示されましたが、最終的に、テンプレート案については今後のプロセスのなかでさらなる検討が加えられることになりました。】

報告書に関する他の論点は、次の記事以降で説明します。

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。2003年9月から2015年8月まで、(特活)オックスファム・ジャパンにて軍備管理・軍縮を担当。オックスファム勤務時は団体内部の規則に則り仕事名(夏木碧)を使用。オックスファムの立場を離れ、一研究者としてATT第1回締約国会議に参加中。)

ATT第1回締約国会議の論点②条約事務局の機能、今後の資金

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンで、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されています。

この会議では、今後の締約国会議における手続規則や、条約事務局の機能のありかた、事務局の運営や締約国会議開催などのための資金など、条約の実効性を左右する重要事項について検討・決定される予定です。また、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細や、報告書が一般公開されるか否かについても検討される予定です。

これらの事項について、いくつかの記事に分けて解説しようと思います。
記事1はこちらをご覧ください。

2.条約事務局の機能や場所

- 条約事務局に、未批准国の批准を促したり、各国が提出する報告書の内容を精査・検討したりといった機能を持たせた場合には、条約の普遍性(批准国の増加)や「実効性」を確保することに貢献する可能性があるため、こうした機能を持たせるべきだと主張する国々もあります。しかし、日本など、条約事務局は条約に関する手続きや締約国会議のロジスティクスなどの最低限の役割を果たすものにすべきだと主張する国々もあります。

- 2015年8月12日に作成された、条約事務局の機能に関する合意文書の草案(ATT/CSP1/2015/WP.2)においては、条約事務局の役割について、締約国会議などのATT関連会議をスムーズに運営することや、締約国間などの連絡を容易にすること、ATT関連会議の記録や文書を保管すること、ATTおよび条約事務局に関するウェブサイトを作成することなど、最低限の役割が記されているのみです

【追記:2015年8月25日(火)に配布され、8月26日(水)に採択された修正案(ATT/CSP1/2015/WP.2/Rev.1およびATT/CSP1/2015/WP.2/Rev.2:Rev.2が採択されたバージョン)においても、最低限の役割が記されているのみです】

- 条約事務局の場所としては、ジュネーブ(スイス)、ウィーン(オーストリア)、ポートオブスペイン(トリニダード・トバゴ)が立候補していますが、会議参加国の意見は分かれています。カリブ共同体(CARICOM)、アルゼンチン、オランダ、ベリーズ、アンティグア・バーブーダ、ニュージーランド、スペイン、ペルー、チリは、ポートオブスペインに事務局を置くことを支持しています(全て8月24日本会議の声明)。これに対して、ヨーロッパ諸国は、明確な都市名を主張しない傾向にありますが、「多国間交渉の場として確立された場が良い」、「全ての国の軍縮関係の担当者にとってアクセスが容易な場所が良い」など、暗にジュネーブを支持するような主張をしています。

【追記:2015年8月26日(水)の本会議において、2度の投票の結果、条約事務局はジュネーブに置かれることになりました。】

3. 条約事務局や締約国会議等の会議開催のための資金

- 条約事務局の運営や締約国会議等の会議開催のための資金をどの国がどの程度負担するのかについては、まず、締約国は基本的に何らかの形で負担するとして、署名はしたが批准していない国(以下では「署名国」と記す)や、署名も批准もしていない国はどこまで負担するのか、といった論点があります。

- 次に、例えば締約国が条約事務局の運営のための資金を負担するとして、各締約国の負担割合をどのように算出するかという論点もあります。多くの国は、基本的に国連加盟国が支払う国連分担金の比率(分担率)の算出方法に倣う形で、加盟国が支払い能力に応じて負担することを支持しています。しかし、日本は、支払能力が低い国々も一定以上の額を負担すべきと主張しています。また、支払能力が高い国々については、日本などの国々は、負担額に上限(cap)を設けるべきだと主張しています。そして、この上限を設けることを求めている国々のなかでは、多くの国が22パーセント(国連分担金の上限と同じ)という数字を支持しているのに対して、日本は12パーセントにすべきだと主張しています。

- 2015年8月12日に作成された、資金に関する規則の草案(ATT/CSP1/2015/WP.3)において、まず、締約国は、締約国会議等の会議開催のための資金を負担し、各国の負担額は国連分担金の算出方法に倣う形で算出することになっています(規則5)。ただし、支払能力が低い国の負担に関する各国の見解の相違を反映して、「締約国は最低限でも100米ドルを支払う」といった表現が括弧で囲まれており、さらなる検討を要することが示されています(規則5)。支払能力が高い国の負担に関しては、上限を設けるものとされていますが、「22パーセント」と「12パーセント」という数字が両方とも括弧付きで併記されており、こちらもさらなる検討を要することが示されています(規則5)。

- 次に、8月12日の草案において、署名国や、署名も批准もしていない国は、締約国会議等の会議に参加する場合にのみ、その会議のための資金を負担し、各国の負担額は国連分担金の算出方法に倣う形で算出することになっています(規則5)。ただし、上記の締約国に関する記述と同様に、「最低限でも100米ドルを支払う」という表現が括弧で囲まれ、支払能力が高い国の負担上限に関する「22パーセント」と「12パーセント」という数字も括弧付きで併記されており、さらなる検討を要することが示されています(規則5)。

- また、8月12日の草案において、条約事務局の運営に関わる資金は締約国が負担する(署名国や、署名も批准もしていない国は負担しない)ことになっており、各国の負担額は国連分担金の算出方法に倣うことになっています(規則6)。ただし、ここでも、「最低限でも100米ドルを支払う」という表現が括弧で囲まれ、支払能力が高い国の負担上限に関する「22パーセント」と「12パーセント」という数字も括弧付きで併記されており、さらなる検討を要することが示されています(規則6)。

- 以上のように、日本などの国々が、各国の分担金に最低負担額と上限を設けることを主張しているのに対して、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンは、そのような最低負担金や上限は設けるべきではないと主張しています。

【追記:2015年8月25日(火)に配布され、8月26日(水)に採択された修正案(ATT/CSP1/2015/WP.3/Rev.1)では、上記の全ての項目について、最低限100米ドルを支払うものとされ、負担上限は22パーセントになっています】

4. 資金に関するその他の論点

- 締約国会議開催のための資金については、各国が分担金を支払わなかった場合の対応についても議論されています。2015年8月12日に作成された、資金に関する規則の草案(ATT/CSP1/2015/WP.3)においては、予定されている締約国会議の初日より2か月前になっても、開催資金の80パーセントが集まっていない場合は、会議議長は締約国に会議開催の延期を助言することができる(may advice)と記されています(規則5)。これについて、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンは、このような文言は挿入されるべきではなく、各国の分担金支払いを促して開催資金を集める方法を検討すべきであると主張しています。

【追記:2015年8月25日(火)に配布され、8月26日(水)に採択された修正案(ATT/CSP1/2015/WP.3/Rev.1)の規則5からは、この延期措置は削除されています。】

- この会議に向けた議論においては、アメリカが、NGOからも締約国会議の参加費(1団体につき500米ドル)を徴収すべきだと主張し、イギリス、フィンランド、フランスなどの国々が支持していましたが、航空券料金や宿泊費・食費等に加えて500米ドルの参加費も支払わなければいけなくなると、NGOの参加が実質的に制限されることになります。8月12日の草案には、NGOから参加費を徴収する旨は盛り込まれていませんが、8月23日の段階では、アメリカがNGOからも徴収すべきだという主張を続けているとの情報があります。

【追記:NGOから参加費を徴収する旨は、合意されませんでした】

- 8月12日の草案には、資金的な影響がある決定については、手続規則の規則35に従って合意すると記されています。そして、8月5日の手続規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)の規則35には、資金的な影響のある事項についてはコンセンサスでの意思決定を目指し、そのための最後の手段として、会議議長は意思決定を最長24時間延期することを検討する(shall consider)が、それは会議閉幕までに決定できる場合に限る旨が記されています。そして、 どうしてもコンセンサスで決定できない時は、出席し表決に参加する締約国の3分の2の多数の賛成により決定することが記されています(規則35)。

【追記:2015年8月25日(火)、手続規則(ATT/CSP1/2015/WP.1/Rev.1)が採択されました。2015年8月5日に作成された手続規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)からほぼ変更ありません】

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。2003年9月から2015年8月まで、(特活)オックスファム・ジャパンにて軍備管理・軍縮を担当。オックスファム勤務時は団体内部の規則に則り仕事名(夏木碧)を使用。オックスファムの立場を離れ、一研究者としてATT第1回締約国会議に参加中。)

ATT第1回締約国会議の論点①手続規則

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンで、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されています。

この会議では、今後の締約国会議における手続規則や、条約事務局の機能のありかた、事務局の運営や締約国会議開催などのための資金など、条約の実効性を左右する重要事項について検討・決定される予定です。また、各国が自国の武器輸出入や自国の武器移転規制などについてATT条約事務局に提出する報告書のテンプレートの詳細や、報告書が一般公開されるか否かについても検討される予定です。

これらの事項について、これからいくつかの記事に分けて解説しようと思います。

1. 手続規則

今後の締約国会議の手続規則は、これから長く続く締約国会議プロセスにおける議論や合意の内容、会議の透明性を大きく左右し、条約の「実効性」に影響を及ぼすことが考えられます。主な論争点は、以下の2つです。

1-A. 会議における意思決定方法

- 今後の締約国会議において意思決定をする際には、実質的事項であっても手続的事項であっても(あるいは手続的事項については)「コンセンサス」で行うべきと主張する国もありますが、これは1か国でも反対したら決定できないことを意味します。これに対して、実質的事項であっても手続的事項であっても(あるいは手続的事項については)「コンセンサス」で合意できない場合は過半数ないし3分の2の多数により表決で決定できるようにすべきだと主張する国もあります。

- また、「コンセンサス」で決定できない場合には意思決定を24時間(ないしそれ以上)延期すべきと主張する国もあり、日本はこの立場をとっています。しかし、会議の最終日に24時間(ないしそれ以上)も意思決定を延期することは、次の年の締約国会議まで何も決められないことを意味しかねないという問題があります。また、決定の延期が手続き規則に盛り込まれた会議では、意思決定を次の会議まで延期するような事態を避けるという名のもとに、「コンセンサス」で決定できるような内容の合意が採択されがちです。そのため、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンは、この延期措置を盛り込むことに反対する立場をとっています。

- 会議前の2015年8月5日に作成された手続き規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)には、実質的な事項についてはコンセンサスでの意思決定を目指し、そのための最後の手段として、会議議長は意思決定を最長24時間延期することを検討する(shall consider)が、それは会議閉幕までに決定できる場合に限る、という旨が記されています(規則33)。そして、 どうしてもコンセンサスで決定できない時は、出席し表決に参加する締約国の3分の2の多数の賛成により決定することになっています(規則33)。

- また、8月5日の草案においては、手続き的な事項についてもコンセンサスでの意思決定を目指し、それができない場合は主席し表決に参加する締約国の過半数の賛成により決定することになっています(規則34)

【追記:2015年8月25日(火)、手続規則(ATT/CSP1/2015/WP.1/Rev.1)が採択されました。2015年8月5日に作成された手続規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)からほぼ変更ありません】

1-B. 締約国会議の透明性、各国やNGOなどの参加レベル・発言権

- 今後の締約国会議の公開性の程度は、条約第1条で目的として示された透明性の向上にかかわります。これについては、ウルグアイやニュージーランド、南アフリカをはじめ、締約国会議における全ての会合を公開すべきと主張する国もあれば、アメリカや日本、フランスのように、締約国会議のなかで非公式会合(基本的には政府関係者しか参加できず、そこで議論された内容や共有された情報は公開されない)を設けることを支持する国もあります。

- また、締約国だけでなく、アメリカのように条約に署名したが批准していない国(以下では「署名国」と記す)や、中国やロシアなどのように署名も批准もしていない国、あるいは国連機関やNGOなどが、締約国会議にどこまで参加してどの程度の発言機会を得るのかという点も、会議の流れや議論の内容を大きく左右するため、論争が続いてきました。

- さらに、第1回締約国会議に向けた議論においては、ATTを支持する(ATTの目的や趣旨に合致する活動をしている)NGOだけが会議に参加できることにすべきか、あるいはATTを批判している全米ライフル協会(NRA)などの人々も会議に参加できることにすべきか、といった議論もあります。アメリカはNRAなども参加できることにすべきと主張しており、「コントロール・アームズ」国際キャンペーンは、ATTの目的や趣旨に合致する活動をしているNGOに限定すべきだと主張しています。

- 会議前の2015年8月5日に作成された手続き規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)においては、締約国は全ての会合に出席して意思決定に参加する権利を持つことになっており(規則1)、署名国は意思決定に参加する権利はないが全ての会合に出席できることになっています(規則2)。中国やロシアのような署名も批准もしていない国はオブザーバーとして締約国会議に出席して本会議で発言できることになっており(規則3)、国連や国際機関の関係者もオブザーバーとして締約国会議に出席して本会議で発言できることになっています(規則4)。NGOについては、「NGOの国際コアリションや産業界を代表するアソシエーション」および「NGOを含む市民社会の代表や産業界の代表」(規則5)もオブザーバーとして締約国会議に出席して本会議で発言できることになっています。

- ただし、8月5日の手続き規則草案においては、基本的に締約国会議の本会議は公開され、オブザーバーも出席できることになっているものの(規則13)、「臨時会合」(extraordinary meetings)を開催することが可能になっており(規則14)、これにオブザーバーの国々や団体が参加できるか否かについては明確に記されていません。また、本会議においても、締約国や署名国の発言が全て終わった後にオブザーバーが発言できることになっています(規則20)。

【追記:2015年8月25日(火)、手続規則(ATT/CSP1/2015/WP.1/Rev.1)が採択されました。2015年8月5日に作成された手続規則草案(ATT/CSP1/2015/WP.1)からほぼ変更ありません】

条約事務局の機能、事務局の運営や締約国会議開催の資金、報告書のテンプレートに関しての争点は、次回以降の記事で説明いたします。

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。2003年9月から2015年8月まで、(特活)オックスファム・ジャパンにて軍備管理・軍縮を担当。オックスファム勤務時は団体内部の規則に則り仕事名(夏木碧)を使用。オックスファムの立場を離れ、一研究者としてATT第1回締約国会議に参加中。)

2015年8月24-27日 ATT第1回締約国会議 基本情報

2015年8月24日(月)から8月27日(木)まで、メキシコのカンクンにおいて、武器貿易条約(ATT)の第1回締約国会議が開催されます。
以下、会議に関する基本情報を掲載いたします。

【ATT第1回締約国会議 基本リンク集】
1. 当研究会関連
1-A. ATTの解説・分析は、このブログで3ページ(その1その2その3)に分けて掲載しています。
1-B. 今回の第1回締約国会議に先立ち、『世界』2015年9月号(8月8日発売)に、「武器貿易をどう規制するか──第1回武器貿易条約 (ATT) 締約国会議に向けて」を掲載いただきました。ATT締結までの経緯や、武器移転規制の歴史、ATTの課題や日本の「防衛装備移転三原則」との関係、第1回締約国会議に向けた課題や問題を解説しています。
1-C. 研究会共同代表の榎本のツイッター・アカウント
では、各国の発言や会議の状況などを、随時つぶやく予定です。
1-D. 2012年以前の国連準備委員会や、2012年7月のATT条約交渉会議に関する情報や、会議中に作成・配布された公式・非公式の様々な文書の分析は、このブログの「武器貿易条約」カテゴリーの過去記事でご覧いただけます。
1-E. ATT条約交渉会議中に作成・配布された公式・非公式の文書のほどんとは、研究会のScribdアカウントからダウンロードいただけます。

2.会議公式サイト・文書
2-A. ATT第1回締約国会議 公式サイト(英語)
2-B. ATT第1回締約国会議に向けて作成された合意文書案などの最新版(英語)

3. 会議に参加するNGO関連
3-A. 「コントロール・アームズ」日本キャンペーン ATT締約国会議に向けたプレスリリース(日本語:PDF)
3-B. 「コントロール・アームズ」国際キャンペーンサイト(英語)
3-C. この会議に向けた「コントロール・アームズ」国際キャンペーンの見解(英語:PDF)
3-D. リーチング・クリティカル・ウィル(Reaching Critical Will)の第1回締約国会議まとめページ(英語:会議の進行に伴いコンテンツが増える見込)

(作成者:榎本珠良 「武器と市民社会」研究会共同代表。ATT第1回締約国会議に参加するため、メキシコに滞在中)

武器貿易条約(ATT)批准国、9月25日に50か国を達成する見込

2014年9月24日(水)現在、武器貿易条約(ATT)の批准国は45か国ですが、9月25日(NY時間)に少なくとも7か国が批准する見込みです。ATTの第22条第1項により、この条約は50か国による批准の90日後に発効することになっていますので、2014年12月24日に発効となります。
[※9月25日NY時間午前の追記:前評判では少なくとも7か国(アルゼンチン、バハマ、チェコ共和国、セントルシア、ポルトガル、セネガル、ウルグアイ)でしたが、実際にはボスニア・ヘルツェゴビナも批准して、8か国が批准した模様です]

9月25日午前(NY時間)、武器貿易条約(ATT)を批准する7か国がNYの国連ビル内に集まり、一緒に批准書を寄託するとのことです。条約発効要件の50か国をクリアした直後に、国連ビル内でアルゼンチン、ポルトガル、セネガルなどの国々と「コントロール・アームズ」主催のイベントがあります。

ATTの第17条第1項により、発効後1年以内に第1回締約国会議が開催されることになっており、2014年12月24日に発効すれば、そこから1年以内に開催されることになります。現在のところ、開催国はメキシコになりそうです。開催時期は、2015年6月よりも後なのではと言われています。

条約のなかで明確に決まっていない事項のうち、第1回締約国会議で決めることになるものも沢山ありますので、会議に向けた準備は既に進められています。2014年9月初旬にはメキシコでインフォーマルな準備会議が開催されており、今後も準備会議が開催される見込みです。次の準備会議は、2014年11月にドイツで開催される予定です。

条約事務局を設置する場所については、現在はオーストリア、スイス、トリニダード・トバゴが名乗りをあげていますが、まだ未確定です。

【INFORMATION】
■ ATTの条文や、署名国や批准国のリストなどは、国連のサイトでご覧いただけます。
■ 採択された武器貿易条約の内容については、条約交渉中の最終草案に関する分析記事(その1その2その3)で、内容を分析しています。交渉会議の最終盤に、配布された草案を読み込んで会議場で書いた記事ですので、乱文ですがおゆるしください。
■ 2014年の『軍縮研究』第5号(日本軍縮学会)にも、ATTに関する論文が掲載されています。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」共同代表。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月交渉会議決裂と4月2日国連総会採択

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されました。
このブログ記事作成者は、交渉会議に参加し、ツイッターで会議の状況などを随時つぶやいておりました。

ツイッターでは先に報告をしておりましたが、3月交渉会議は決裂いたしました。
決裂にあたっては、イラン北朝鮮シリアが正式に反対しましたが、その他にも、正式な反対はしないものの、イラン等と同様の不満を声明で述べる国々が多くみられました。

 今回の交渉会議開始の直前に、4/2(火)の国連総会開催がアナウンスされていました。会議結果を議長が報告するだけとも考えられましたが、コンセンサス採択がブロックされた場合に、国連総会での表決に持ち込む可能性も噂されていました。

 以前の分析記事(その1その2その3)で解説した3月27日草案については、3月28日朝の時点でも、「防衛協力」条項についてインドが不満なのではないかという不安や、イランシリア等がコンセンサスをブロックする可能性についての不安が、会場周辺で聞かれていました。

 インドか、あるいはイランシリア等がブロックした場合を想定して、オーストラリアメキシコ等は、3月27日から28日午前中までには、3月27日草案を採択する旨の国連総会決議案を作成しており、NGOもドラフトを目にしていました。決議案は、こちらでご覧いただけます

 推進国側の動きは、インドイランシリア等にも知られており、これらの国々がブロックしたところで、数日後には国連総会で採択されることは明白でした。ですので、わざわざ3月28日の採択をブロックして悪者になる意味もないのでは、とも言われていました。言い換えれば、議長および「妥協派」の国々は、メキシコなどの「積極推進派」を取り込み、4月2日の道筋をつけることで、インドイランシリア等を追い込もうとした、とも言えます。

 3月28日午後の会議場は、採択を期待し「その瞬間」に立ち会おうとした政府、メディア、NGOの関係者で溢れかえり、入場制限が行われたほどでした。しかし、その頃、東南アジアの某国の政府関係者は、アジアのNGOに「少なくとも2か国は確実に反対する」という情報を伝えていました。そして、イランの大使は顔に笑みを浮かべながら会場入りしました。

 なぜ東南アジアの政府関係者が、反対する国々について知っていたのか?このような決裂に至るまでの細かい背景は、4月11日(木)の報告会でお伝えします。もしご都合にあいましたら、ぜひご参加ください。

 3月交渉会議における交渉決裂が明確になった後、既に用意されていた上記決議案について、ケニアが声明のなかで言及し、配布しました。多くのATT推進国が、国連総会での採択を支持する発言をしました。

 そして、翌週の4月2日(火)、国連総会でこの決議が表決により採択されることで、武器貿易条約の採択に至りました。表決の結果は、賛成156か国、反対3か国、棄権22か国でした。最初は賛成154か国と発表されましたが、しばらくして、アンゴラは棄権ではなく賛成であったことが分かり、155か国に訂正されました。さらに後日、カーボベルデが不参加ではなく賛成に訂正され、賛成国数は156か国になりました。

以下は、賛成、反対、棄権、不参加を示した地図です。
20130402 Vote Record Map

より大きい&クリアな地図は、以下の画像をクリックするとご覧いただけます。
20130402 Vote Record Map_2

反対国(赤)3か国: イラン、北朝鮮、シリア
棄権国(黄色)22か国: バーレーン、ベラルーシ、ボリビア、中国、キューバ、エクアドル、エジプト、フィジー、インド、インドネシア、クウェート、ラオス、ミャンマー、ニカラグア、オマーン、カタール、ロシア、サウジアラビア、スリランカ、スーダン、スワジランド、イエメン
表決不参加国(黒)12か国: アルメニア、ドミニカ共和国、赤道ギニア、キリバツ、サントメ・プリンシペ、シェラレオネ、タジキスタン、ウズベキスタン、バヌアツ、ベネズエラ、ベトナム、ジンバブエ
【表決不参加国のなかには、会場に来ていながら不参加という形で立場・意思を示すことを選択したと思われる国々もありますが、人員等の都合で会場に来られなかった小さな国々も含まれています。】

 ついに採択にいたった条約について、この研究会メンバーの談話も通信社から配信されました

 3月交渉会議の最終版の2日間は、ここには書ききれないほどの動きがありました。そしてそれは、現在日本で報道されているような、単純な状況ではありませんでした。これから4月11日(木)の報告会までに、会議中の様々なノート等を見なおし、3月交渉会議での交渉やその決裂、そして4月2日国連総会に至るまでの、表に出ることのなかった様々な動きについて説明できるようにいたします。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月27日条約草案の分析:その3

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

3月27日(水)正午前、ほぼ最終版となる予定の条約草案(以下、3月27日草案)が配布されました。この後から最終日の3月28日(木)までは、形式や文言を整えるなど、規制内容に影響を与えない程度の修正しか行われない予定です。この草案も、Scribdからご覧いただけます。

 以下、3月27日草案の主要部分に関する分析を、3つの記事に分けて掲載いたします。以下の第3弾は、輸入許可以降から最後までを扱います。とりあえずの分析ですので、また後で加筆できましたらと思っております。

【第8条:輸入規制】

 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、輸入として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも3月27日草案でも同様である

 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第7条(輸入)第2項では、各締約国が任意で行う輸入規制について、「輸入国の管轄下の輸入(imports under its jurisdiction)」という表現が挿入されていた。こうした表現は日本などが主張していた。日本にある米軍基地向けの輸入といったケースについて、明確に規制対象外にするためなのかもしれない。3月22日草案第8条2にも、3月27日草案第8条2にも、この表現が残っている

 3月27日草案分析その1で記したように、第2条では、締約国が海外に駐留するその国の軍などに向けて、通常兵器を国境を越えて移動させる場合(international movement)を規制対象外としている。第8条における上記の表現の挿入によって、例えば日本にある米国基地向けの兵器について、たとえ米国がATTの締約国にならなくとも、その兵器を日本国内に移動させる際に、日本が輸入規制を適用する必要がなくなることが考えられる。

【第9条:通過・積替規制】

 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、通過・積替として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも3月27日草案でも同様である

 7月26日草案第9条において、・通過・積替については、締約国はその規制のために、「必要でありかつ実施可能な場合に(where necessary and feasible)」、「適切な(appropriate)」法的・行政的・その他の措置をとる、とされていた。何をもって「適切な措置」とみなすのか、そもそもの規制を「必要であり実施可能」とみなすのかは、各国の裁量で判断することになる。3月22日草案第9条においても、3月27日草案第9条においても、同様の表現が残っており、通過・積替について、具体的な規制義務を課すものとは言い難い

 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第8条(通過・積替え)第1項には、「管轄下の(under its jurisdiction)」「国際法に則って(in accordance with international law)」といった文言が挿入されていた。とりわけ後者の文言は日本が主張していた。国際海洋法上の無害通航権(外国船舶が、沿岸国の平和・秩序・安全を害さないかぎり、その沿岸国の領海を自由に通航できる権利)を想定していると思われた。3月22日草案第9条1にも、3月27日草案第9条1にも、同様の表現がある。

【第10条:仲介規制】

 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、通過・積替として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも3月27日草案でも、同様である。

 7月26日草案の第8条は、仲介について、締約国はその規制のために「各国の国内法の範囲内で(within its national laws)」、「適切な措置をとる(shall take the appropriate measures)」とされていたが、その措置の内容は各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難かった3月22日草案第10条も、3月27日草案第10条も、若干の違いはあっても同様の意味の表現が使用されている。したがって、ブローカリングについて、具体的な規制義務を課す条項にはなっていない。

 2012年7月ATT交渉会議の議論においては、仲介の定義を、2011年文書に書かれていた、他国に居住する自国民による仲介行為も規制する(域外管轄権を認める)という意味合いの文言(「brokering activities taking place within its territories or by its nationals」)にすることについて、ベルギーなどが支持し、日本を含めた国々が反対していた。7月26日草案では、「brokering taking place under its jurisdiction」という文言になっており、他国に居住する自国民による仲介行為を規制するか否かは各国の裁量に任されると解釈しうるものになった3月22日草案第10条でも、3月27日草案第10条でも、同じ文言になっている。

 2011年文書に書かれていた、締約国は全てのブローカーが仲介行為を行う前に国に登録するようにする、という旨の記述は、7月3日文書にも7月24日草案にもみられなかった。7月26日草案では、この事前登録について、各国の裁量で行う(may)という表現で復活している。しかし、これは義務であることを意味しないため、ブローカーの事前登録制度を設けなくても構わないことになった。3月22日草案第10条でも、3月27日草案第10条でも、裁量を示す表現(may)が使用されている。さらに、以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第9条(ブローカリング)では、「ブローカー取引に携わる前に(before engaging in brokering transactions)」という表現が「ブローカリングに携わる前に(before engaging in brokering)」という表現に代わっていた。いずれにしても締約国の任意で(義務ではない)にせよ、登録あるいは書面による許可を要請するといった措置をとる時点が、1つ1つのブローカー取引の前ではなく、ブローカーとしての活動を始める前になる表現であった。そもそもこの措置自体が義務ではないが、規制内容に関する文言がさらに弱まったと言えた。3月22日草案第10条にも、3月27日草案にも、この表現が残っている

【第11条:流出/迂回(Diversion)】

 3月22日草案には、以前の全ての文書や草案には見られなかった、流出/迂回(Diversion)に関する第14条が、第11条(記録保持)、第12条(報告)等の後に、新たに設けられた。この条項は、今回の会議での非公式協議を通じて作成された。以前の草案の全体に散在していた流出/迂回(diversion)関連の部分をまとめて1つにまとめたという側面が強い。また、義務のレベルが弱い表現(「shall seek to prevent the diversion」、「where feasible」、「to the extent permitted by their national laws」、「are encouraged to」など)が多く挿入されていることもあり、実質的な規制への影響はあまりない条項かもしれない。この14条は、3月27日草案では少し前に移動されて、第12条(記録保持)や第13条(報告)の前の第11条になった。

 3月22日草案第14条(流出/迂回)は、第2条の規制対象のみに適用されることになっており、弾薬、部品・構成部分には適用されなかった。3月27日草案第11条も同様に、弾薬、部品・構成部分には適用されない。

 分析第2弾で解説したように3月27日草案では、流出/迂回のリスク、ジェンダーに基づく暴力、汚職、社会・経済的開発への影響に関する3月22日草案第7条8にあたる項が、まるごと削除されていた。そのうえで、流出/迂回については、3月27日草案第11条2は、第2条に含まれる兵器を輸出する際には、その輸出による流出/迂回のリスクを評価し、そのリスクを低減する措置を設けることを検討する、としている。そして、検討する措置としていくつか例を提示し、そのなかの一つとして、問題となった輸出を許可しないことを挙げている。輸出を許可しないことは義務ではなく、あくまで輸出国である締約国が適切であると判断した時に、輸出を許可しないという措置を検討するというだけのことである。ただし、流出/迂回に関して第11条2で書かれている内容は、3月22日草案の第7条(輸出許可)8で書かれていた内容よりも若干文言が強めであると言える。

【第12条:記録保持】

 7月26日草案では、記録保持と報告が第10条にまとめられていた。3月20日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案でも、記録保持と報告が別々の条項に分けられている。

 2011年文書や7月3日文書と同様に、2012年7月24日草案も26日草案も、移転した武器について何を記録するのか(数、モデル・タイプ、輸入国、最終使用者等)を各国が適当に決められる表現になっていた。これは、3月22日草案でも、3月27日草案でも同様である。また、2011年文書は、記録内容の候補として、移転を拒否したケース("denials")も記録することが挙げられていた(8頁B-1)が、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案では、この文言は削除されていた。3月22日草案にも3月27日草案にも、この文言は見られない。
また、7月26日草案では、輸出の記録は義務となっていたが、輸入や通過・積替えの記録に関しては「where feasible」という文言が入っており、義務とは言い難かった。3月22日草案と3月27日でも、輸入や通過・積替えの記録に関して、各締約国は「is encouraged to」(奨励される)という表現であるため、義務ではない

 記録を保持する年数は、2011年文書は最低10年になっており、7月3日文書では最低20年になっていたが、7月24日草案と7月26日草案では最低10年に戻っていた。「コントロール・アームズ」キャンペーンは、武器のライフサイクルを考えれば10年は短すぎるため、最低20年にすべきと主張していた。しかし、日本などは10年とすることを主張し、3月22日草案でも3月27日草案でも最低10年となった

【第13条:報告】

 7月26日草案では、記録保持と報告が第10条にまとめられていた。3月20日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案でも、記録保持と報告が別々の条項に分けられている。

 7月26日草案では、弾薬や部品・構成部分の移転について記録し報告する義務はなかった3月22日草案でも3月27日草案でも、そうした義務は一切無い

各国が事務局に提出する報告書について、7月26日草案では「実際の移転(actual transfer)」とされていたが、3月20日草案第11条(報告)第3項では「実際の輸出と輸入(actual export and import)」となっていた。したがって、通過・積替えやブローカリングについては、報告義務は一切なくなった。3月22日草案でも3月27日草案でも、この問題は同様である

 2011年文書は、各国が記録した内容を報告する旨が書かれていたが、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案は、「各国が報告書のなかに何を具体的に記入するのか」(数?モデル・タイプ?輸入国?価格?など)は全く書かれていなかった。よって、具体的にどのようなものを移転したのか曖昧な書き方の報告書にすることも可能であった。3月22日草案でも3月27日草案でも、この問題は同様である

 7月26日草案において、ATTの事務局に報告する報告書に含める情報の種類は、「国連軍備登録制度を含めた、関連の国連の枠組みに提出する情報と同じにしてもよい(may)とされていた(第10条5)。したがって、締約国は、ATTの事務局に報告する内容を、国連軍備登録制度に提出する報告書と同じものにすることも想定しえた。しかし、国連軍備登録制度の報告書に含める情報は非常に大雑把であるため、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しい3月22日草案でも3月27日草案でも、この問題は同様である

また、7月24日草案では、報告書は公開されることになっていたが、7月26日文書ではその文言が削除されていた。3月22日草案でも3月27日草案でも、この問題は同様である。ただし、上記の国連軍備登録制度では、提出された報告内容が公開されている。したがって、ATTにおいて「公開する」という文言がなくとも、国連軍備登録制度でいずれにせよ公開される、という捉え方もできる。また、ATTの枠組みで各締約国が提出する報告書が、国連軍備登録制度のものと同様の大雑把なものでも良いとされている限りは、条文に「報告書を公開する」旨の文言が入ったとしても、現状と比べて武器移転に関する透明性が向上することは、あまり期待できないかもしれない。加えて、例えば国連軍備登録制度設立時の合意文書には、報告書を公開するとは書かれていないが、実際の運用においては公開されている。したがって、ATTに「報告書を公開する」旨の文言が入らなくとも、後の段階で報告書が公開されることも想定できる。

※ただし、3月22日草案は、「Reports shall be made available and distributed to States Parties by the Secretariat.」であるのに対して、3月27日草案は、「Reports shall be made available, and distributed to States Parties by the Secretariat.」と、availableの後にカンマが入っている。これを根拠にして、「made available」の部分と、「and distributed to States Parties by…」の部分は別であると主張し、公開されることを意味しているのだと議論することは、もしかしたら可能かもしれない。ただし、公開されるという意味であれば、made public やmade publicly availableとするであろうと考えられるため、このカンマを根拠に「公開という意味だ」と主張をすることは難しいのかもしれない。ただし、どちらにせよ、上述のように、国連軍備登録制度をはじめとする近年の制度においては、合意文書に報告書を公開する旨が入っていなくても実際の運用においては公開されているため、ATTでも報告書が公開される可能性は十分に考えられる。

さらに、7月26日草案は、締約国が提出する報告書から、商業的な機密(commercially sensitive)や国家安全保障に関わる情報を除外することができる、としていた(第11条5)。何が機密であるか等は各国の裁量に委ねられるため、どのような情報であれ、「機密である」「安全保障に関わる」ということにして報告しないことも可能になる。3月22日草案でも3月27日草案でも、この問題は同様である

 情報の公開は、過去の移転規制においても大きな問題であった。移転を規制し、移転情報を公開することについては、しばしば透明性確保や信頼醸成といった目的が掲げられる。しかし、武器の調達を輸入に頼る国々の軍備情報のみが公開され、自国内で武器を一定程度以上製造・調達できる国々の軍備情報はあまり公開されないという、不平等な性質を持つことは否定しがたい。また、移転情報の公開は、必ずしも信頼醸成にはつながらず、不信感や軍拡競争につながる(例:隣国が武器を大量に輸入した情報が公開された場合など)といった指摘もある。

【第15条:国際支援】
 7月24日草案と同様に、7月26日草案にも、犠牲者支援の項目はなかった。また、7月24日草案には、ATTの実施のための国内措置の違反に関する捜査や訴追に関する支援が含まれていたが、これは7月26日草案では削除されていたこの問題は、3月22日草案でも3月27日草案でも同様である

 分析第2弾で解説したように3月27日草案では、流出/迂回、ジェンダーに基づく暴力、汚職、社会・経済的開発への影響に関する3月22日草案第7条8にあたる項が、まるごと削除されていた。そのうえで、汚職に関しては、第15条(国際協力)6において、締約国は、第2条に含まれる通常兵器の移転が汚職行為の対象になるのを防ぐべく、各国での措置等をとることを奨励される(are encouraged to)という文言が入っている。あくまで奨励されるのみであり、義務ではない

【第17条:締約国会議】

 7月26日草案は、締約国会議の役割の一つとして、この条約の履行等に関する勧告(recommendations)を検討し採択することを挙げていた。ただし、締約国会議には、条約の履行状況を検討するといった役割は与えられていないため、そうした検討なしに、どのように勧告の作成に至るのかは明らかではなかった。これについて、3月22日草案第17条4(c)には、履行状況を検討する旨が新たに加えられていた。3月27日草案第17条4(a)では、締約国会議の役割として、通常兵器分野での進展(開発)を含めて、この条約の実施を再検討する、という表現になっており、さらに(c)に、第20条に則ってこの条約の改正を検討することが追加されている。

【第18条:事務局】

 7月24日草案およびそれまでの一連の文書では「実施支援ユニット(Implementation Support Unit: ISU)であったが、7月26日文書では「事務局(Secretariat)」という言葉に変えられていた。3月22日草案でも3月27日草案でも、「事務局」とされている。また、この事務局をどこに置くかについては明記されていない。

 7月24日草案およびそれまでの一連の文書や、7月26日草案と同様に、3月22日草案でも3月27日草案でも、事務局には各国の報告書を検証する権限はない
※ ただし、元来ATTは検証制度等になじまない性質があるとも言える。

 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第16条(事務局)第3項(事務局の任務)の(e)では、「締約国会議で決定された(as decided by the Conferences of States Parties)」他の義務を果たすとされている。7月26日草案では、この箇所は「この条約によって委任された(as mandated by this Treaty)」他の義務を果たす旨が書かれていた。3月20日草案の文言は、締約国が合意すれば、事務局の役割を拡大することができることを意味する。3月22日草案でも3月27日草案でも、同じ表現が残っている

【第19条:紛争解決】

以前の記事で指摘したように、締約国の任意で解決する紛争について、7月26日草案の「この条約の実施に関する(concerning the implementation of this Treaty)」紛争という表現が、3月22日草案の前の3月20日草案第17条(紛争解決)第3項において、「この条約の解釈と適用に関する紛争(concerning the interpretation or application of this Treaty)」という表現に置き換えられていた。他の条約の類似条項における表現との一貫性等に鑑みた変更かもしれない。3月22日草案でも3月27日草案でも、この表現は置き換えられたままになっている

【第20条:改正】

 7月24日草案では、コンセンサスが無理な場合は出席かつ投票する締約国の3分の2による条約改正が可能となっていた。7月26日草案では、コンセンサス(by consensus)でのみ改正が可能となった。3月22日草案も7月26日草案と同じであった。3月27日草案第20条1では、条約発効から6年後以降にはじめて改正が可能で、その後の改正は締約国会議において3年毎にのみ可能、となっている。そして、第20条4では、改正にはコンセンサスを得ることを目指すが、それが無理な場合は、締約国会議に出席し且つ表決に参加する国々の4分の3の賛成で改正されることになっている。ただし、第20条4に書かれているように、改正をしても、締約国のなかでその改正を受け入れない国には適用されない。

【第21条:署名、批准、受諾、承認又は加入】
 7月24日文書では、国家だけでなく地域統合組織も署名、批准、受諾、承認又は加入が可能になっていたが、7月26日文書からは削除された。2012年7月交渉会議において、EU諸国などは、地域統合組織も署名等が可能にすべきと主張したが、中国は、条約交渉最終日の7月27日(金)までにEUによる対中武器禁輸が解除されないのならば、地域統合組織の署名等には賛成できないと主張した。3月22日草案でも3月27日草案でも、地域統合組織の署名等の文言は削除されたままである。

【第22条:発効条件】
 2011年文書で具体的な批准国数等が書かれていなかった発効条件は、7月3日文書では、65か国による批准等の30日後あるいは30か国による批准等の3年後とされ、7月24日草案では、65か国による批准等の30日後とされ、7月26日草案では、65か国による批准等の90日後になっていた。3月22日草案も、7月26日草案と同じであった。3月27日草案では、50か国と少し数が下がっていた。

【第26条:他の条約との関係】
 7月26日草案第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としていた。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されており、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能と解釈することもできた。7月26日草案の第24条は、締約国は、本条約の義務と矛盾がなく、本条約の目的を損なわない限り、通常兵器の国際貿易に関する合意を結ぶ権利がある、としているが、第5条2との関係は曖昧であった。3月22日草案でも、この問題は残っていた

「防衛協力合意」問題は、3月24日の時点で、アメリカとインドを中心にした国々で、この問題に関する妥協案を検討しているという噂があり、3月27日(水)草案でどうなるかが注目された。

3月27日草案では、この第5条2は削除され、草案後半の第26条に防衛協力に関する文言が見られる。これは、3月22日草案第5条2と第26条(他の国際合意との関係)をまとめたものと言える。そして、3月27日草案第26条(他の国際合意との関係)は、以下のような文言になっている。

Article 26
Relationship with other international agreements
1. The implementation of this Treaty shall not prejudice obligations undertaken by States Parties with regard to existing or future international agreements, to which they are parties, where those obligations are consistent with this Treaty.
2. This Treaty shall not be cited as grounds for voiding defense cooperation agreements concluded between States Parties to this Treaty.

上記の3月27日草案第26条1では、ATTは締約国による既存および将来の国際合意に関する締約国の義務に影響を及ぼすものではない、とされているが、その後に、「そうした義務がこの条約と一貫性がある限り」という文言が入っている。
上記の3月27日草案第26条2は、ATTは、締約国間で(between States Parties to this Treaty)合意された防衛協力合意(defense cooperation agreements)を無効にするものではない、とされている。ここでは、まず、防衛協力合意は締約国間(between)に限定されている。また、防衛協力合意「に基づく契約義務(contractual obligations)」という文言が削除されている。これについては、3月28日現在の会議場周辺では、ATTによって無効にされなくなるのは、締約国間(between)で合意された大枠の防衛協力合意自体であり、そのもとで行われる個別兵器の移転に関する合意についてはATTが優先される、という解釈をする者が多い。この解釈をする場合、若干の解釈の余地が残るかもしれないとはいえ、7月26日草案や3月22日草案に比べて、抜け穴が縮小することになる。

●【その他】
 7月26日草案の第23条では、「締約国は、非締約国に向けた、本条約の規制対象の通常兵器の全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」としていた。これは、「本条約の規制対象(第2条)」に含まれない弾薬、部品・構成部について、非締約国向けの輸出であれば、第3条と第4条は適用されないと解釈できた。しかしながら、第6条4では、「弾薬のどのような輸出も、その許可の前に、第3条と第4条1から5を適用する」とされており、矛盾すると考えられた。部品・構成部分(第6条5)についても、同じ矛盾が指摘できた。さらに、「・・・・全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」とされていたため、非締約国向けの移転であれば、この条約の輸入規制、ブローカリング(仲介)規制、通過・積替え規制は適用されないという解釈もありえた。以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、この条項は削除されていた。3月22日草案にも3月27日草案にも、こうした条項は見られない

以上。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月27日条約草案の分析:その2

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。

このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

3月27日(水)正午前、ほぼ最終版となる予定の条約草案(以下、3月27日草案)が配布されました。この後から最終日の3月28日(木)までは、形式や文言を整えるなど、規制内容に影響を与えない程度の修正しか行われない予定です。この草案も、Scribdからご覧いただけます。

 以下、3月27日草案の主要部分に関する分析を、3つの記事に分けて掲載いたします。以下の第2弾は、移転禁止や輸出許可に関連する条項を扱います。とりあえずの分析ですので、また後で加筆できましたらと思っております。


【第5条:実施】

 以前の記事で指摘したように、7月26日草案では第3条(移転禁止)・第4条(輸出評価)の直後にあった第5条(実施)は、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、第4条(移転禁止)の直前の第3条に移されていた。3月22日草案でも3月27日草案でも、第6条(移転禁止)の直前の第5条として置かれている。

 7月26日草案の第5条2の第1センテンスは、この条約の実施は、他の文書(other instruments)によって負う義務に影響を及ぼすものではない旨を述べていた。これは曖昧な表現ではあるが、ATTよりも他の合意のほうが優先されると解釈される可能性があった。さらに、7月26日草案の第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としていた。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されていた。
この文言が削除されたことにより、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能になってしまう可能性が指摘できた。また、ここでの「防衛協力合意」は特に定義されていないため、武器の移転の際に「防衛協力に基づく契約義務である」として合意した形にすれば、条約の規制をのがれることができる可能性も指摘された。
この問題は、3月22日草案第5条2でも同様であった。ただし、3月24日の時点で、アメリカとインドを中心にした国々で、この問題に関する妥協案を検討しているという噂があり、3月27日(水)草案でどうなるかが注目された。

3月27日草案では、この第5条2は削除され、草案後半の第26条に防衛協力に関する文言が見られる。これは、3月22日草案第5条2と第26条(他の国際合意との関係)をまとめたものと言える。そして、3月27日草案第26条(他の国際合意との関係)は、以下のような文言になっている。

Article 26
Relationship with other international agreements
1. The implementation of this Treaty shall not prejudice obligations undertaken by States Parties with regard to existing or future international agreements, to which they are parties, where those obligations are consistent with this Treaty.
2. This Treaty shall not be cited as grounds for voiding defense cooperation agreements concluded between States Parties to this Treaty.

上記の3月27日草案第26条1では、ATTは締約国による既存および将来の国際合意に関する締約国の義務に影響を及ぼすものではない、とされているが、その後に、「そうした義務がこの条約と一貫性がある限り」という文言が入っている。
上記の3月27日草案第26条2は、ATTは、締約国間で(between States Parties to this Treaty)合意された防衛協力合意(defense cooperation agreements)を無効にするものではない、とされている。ここでは、まず、防衛協力合意は締約国間(between)に限定されている。また、防衛協力合意「に基づく契約義務(contractual obligations)」という文言が削除されている。これについては、3月28日現在の会議場周辺では、ATTによって無効にされなくなるのは、締約国間(between)で合意された大枠の防衛協力合意自体であり、そのもとで行われる個別兵器の移転に関する合意についてはATTが優先される、という解釈をする者が多い。この解釈をする場合、若干の解釈の余地が残るかもしれないとはいえ、7月26日草案や3月22日草案に比べて、抜け穴が縮小することになる。

 7月26日草案の第5条にも、草案の他の部分にも、この条約を実施するための国内法への違反について処罰する義務は明記されていなかった。この問題は、3月22日草案でも3月27日草案でも同様である。

【第6条:移転の禁止】
7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条1から3も3月27日草案第6条1から3も、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読むことができる。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾を指摘することもできる。ただし、ただし、締約国が第3条、第4条、および第6条の全てについて実施をすると考えれば、第6条の「移転」禁止全体が適用されると言えるのかもしれない。

 7月26日草案の第3条2では、武器の国際移転について、各締約国が加盟している条約上の義務に反するような移転をしない(shall not)と書かれていたが、国際慣習法に反する移転については禁止されていなかった。この点については、2013年2月半ばにノルウェーが各国に配布した非公式見解書で、「国際慣習法に反する移転は禁止されないことを含意しうる」と指摘されていた。この問題は、3月22日草案第6条2でも3月27日草案第6条2でも同様である。

 7月24日草案と同様に、7月26日草案の第3条3においても、ジェノサイド、人道に対する罪や戦争犯罪についての文言は、これらの行為の遂行を助長する意図で(for the purpose of facilitating the comission of...)この条約の規制対象の兵器を移転を許可してはならない(shall not)、としていた。つまり、これらの行為の遂行を助長する明確な意図をもって行うことはしない、という限定的な文言であり、「大きなリスクがあることを認識している」という程度の場合はあてはまらないものであった。
【この問題については、7月26日草案に関する分析記事をご覧ください。】
3月22日草案第6条3も3月27日草案第6条3も、移転の許可の時点で、上記の行為の遂行に使用されることが分かっていれば(if it has knowledge at the time of authorization that the arms or items would be used....)という文言になっており、「意図」の問題は解決されたと言える。ただし、3月22日草案も3月27日草案も、「移転の許可の時点で」とされているという点では限定的である。

 7月26日草案の第3条3は、戦争犯罪(war crimes)に関して、「war crimes constituting grave breaches of the Geneva Conventions of 1949, or serious violations of Common Article 3 of the Geneva Conventions of 1949.(1949年のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為や、1949年のジュネーヴ諸条約の共通第三条の著しい違反を構成する戦争犯罪)」と限定する文言になっていた。この書き方では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書や、国際刑事裁判所規定、国際慣習法にみられる、その他の戦争犯罪――例えば、文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃することなど――は、含まれないことになる。これについては、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「戦争犯罪」とのみ記載すること(限定的な文言を削除すること)を求めていた。

3月22日草案第6条3では、この部分は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party, including grave breaches of the Geneva Conventions of 1949」という文言に置き換えられていた。このように、3月22日草案において、「including.....Geneva Conventions of 1949」になったことで、ジュネーブ諸条約に限らないと解釈できる。ただし、「internaitonal agreements to which it is a Party」という文言により、ATTの各締約国が加盟している国際合意上のものに限られ、加盟していない条約や国際慣習法に含まれるものは、除外されることになる。また、今回の表現は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party」となっているが、「as defined by...」という限定的な文言が、戦争犯罪だけにかかるのではなく、ジェノサイドと人道に対する罪にもかかってくるという解釈もありえた。どこまでかかるのか不明確という問題であれば、各締約国による解釈の余地があるのに加えて、他言語に翻訳する場合の問題も発生するのではと思われた。

3月27日草案第6条3では、「genocide, crimes against humanity, grave breaches of the Geneva Conventions of 1949, attacks directed against civilian objects or civilians protected as such, or other war crimes as defined by international agreements to which it is a Party.」という文言になっている。これについては、まず、「as defined by...」という限定的な文言は、戦争犯罪だけにかかると解釈できる。そして、除外されることが懸念されていた文民への攻撃について、「attacks directed against civilian objects or civilians protected as such」と明示している。ただし、この表現については、国際刑事裁判所規定とジュネーヴ諸条約第一追加議定書については含まれるが、ジュネーヴ諸条約第二追加議定書とジュネーヴ諸条約の共通第三条が除外されることが、ICRCによって指摘された。

【第7条:輸出の評価】
 7月26日草案では、国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる行為は、「輸出(export)」に限定されており、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などについては、そうした評価をする義務は一切無かった。これについては、3月22日草案第7条でも3月27日草案第7条でも同様である。
 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日の草案の段階で、3月20日草案第4条(移転の禁止)の後の第5条(輸出の評価)の冒頭に、「その輸出が第4条で禁止されない場合(If the export is not prohibited under Article 4)」という表現が入ったため、禁止と輸出評価との関係がより明確になっていた。3月22日草案第7条3にも、3月27日草案第7条1にも、この表現が挿入されている。

 7月26日草案の第4条1は、この条約の規制対象の通常兵器の輸出許可の審査にあたって、各締約国は、その輸出が平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価する旨が書かれていた(In considering whether to authorize an export of conventional arms within the scope of this Treaty, each State Party shall assess whether the proposed export would contribute to or undermine peace and security.)。しかし、平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価した後、どうするのかは書かれていなかった。これについては3月22日草案第7条3でも同様であった。3月27日草案第7条1では、後述のとおり、国際人道法や国際人権法に関する輸出許可基準と並んで「平和と安定(peace and security)に貢献するか妨げとなるか」という輸出許可基準が並んだうえで、その後の第7条3において「第7条1のネガティブな帰結(negative consequences)」という文言が入っているため、「評価後にどうするか」という点が記述されていることになる。

 7月26日草案の第4条2には、「国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」、「国際人道法の重大な(著しい)違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」といった基準が設けられており、これらに照らし合わせて輸出申請について評価することになっていた。しかし、同草案の第4条5は、第4条1と2の評価などの後に、第4条2に挙げられた帰結をもたらす「overriding risk(圧倒的/決定的/優越的なリスク)」がある場合は、武器輸出を許可してはならない、としている。この表現は、これ以前の非公式文書や草案にはない、初めて使用された表現であったが、このoverriding risk」の意味が曖昧であった。
この表現は、アメリカの主張で盛り込まれたものであった。会議中の7月26日に、アメリカ政府関係者は、この表現は「この兵器を輸出することによる、国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される可能性が、この兵器の輸出によって平和と安定に貢献するレベルを凌駕するほど圧倒的なリスクと言えるかどうか」といった、「兵器の輸出による平和と安定への貢献」とリスクを天秤にかけることを意味すると解釈している、とNGOに伝えていた。そして、この「(平和と安定)peace and security」とは何の平和と安定なのかについては、明記されていなかった
したがって、7月26日草案は、例えば、「この兵器を輸出した場合、第4条2に挙げられたような帰結をもたらす(輸出先で国際人権法の重大な違反の遂行に使用される等)リスクが高い。しかし、この兵器の輸出は、輸入国のsecurityへの貢献度も非常に高い。第4条2に挙げられたような帰結をもたらすリスクは、輸入国のsecurityへの貢献度を凌駕するほど圧倒的な(overriding)リスクとは言えないため、輸出しても良い。」といった判断の仕方を正当化するものになる可能性があった。3月22日草案第7条7でも同様であった。

3月27日草案3でも、この圧倒的な(overriding)リスクという表現が残っている。そして、上述のように、第7条1には、国際人道法や国際人権法に関する輸出許可基準と並んで「平和と安定(peace and security)に貢献するか妨げとなるか」という輸出許可基準が並んだうえで、その後の第7条3において「第7条1のネガティブな帰結(negative consequences)」のいずれかの圧倒的な(overriding)リスク、という表現になっている。したがって、第7条1の全体に関して評価したうえで、それらのネガティブな帰結について、「兵器の輸出による何らかの平和と安定への貢献」と天秤にかけて、圧倒的な(overriding)リスクがある場合に限る、という解釈は、いまだに可能である。ただし、7月27日草案や3月22日草案と比較した時には、3月27日草案では「平和と安定」に関する項目が国際人道法等に関する項目と並ぶことで、解釈の幅が僅かに狭まったととらえることもできよう。

 7月26日草案の第4条6には、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、といった文言があった。しかし、7月24日草案と同様に、7月26日草案においても、これらの文言の上には、締約国は、輸出を許可する際にこうした状況を「回避するために・・・・適切な措置をとることを検討する」旨の文言が書かれていた。この場合、武器の輸出が非合法市場へ流出/迂回する可能性等があったり、武器の輸出によって組織犯罪に使用される大きなリスクがあったりしたとしても、そうした状況を回避するための「何らかの適切な措置をとることを検討」すれば良いだけ(武器を輸出しても構わない)ということになる。

この点について、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、7月26日草案の第4条6に含まれる項目のうち、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、という3つの項目を、第4条2に移動させるべきと論じていた。これに対して、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、非合法市場へ流出/迂回する、という項目のみを、第4条2に移動させるべきと論じた。

3月22日草案第7条8では、この項から組織犯罪に関する(c)が削除され、その代わりに第7条4(d)として、国境を越えた組織犯罪に関する国際条約のうちで輸出国が加盟している条約に反する行為の遂行や助長に使用される可能性がある場合、という項目が挿入され、国際人権法や国際人道法の重大な違反に関する項目と並んでいた。そのうえで、その他の項目は移動していなかった

3月27日草案第7条1でも、上記の組織犯罪に関する項目が残っている。そして、流出/迂回、ジェンダーに基づく暴力、汚職、社会・経済的開発への影響に関する3月22日草案第7条8にあたる項が、3月27日草案では、まるごと削除されている。そのうえで、後述のように、3月27日草案は、第7条4にジェンダーに基づく暴力に関する項目が設けたうえで表現を微妙に強めていたり、流出/迂回に関する文言を草案後半の第11条(流出/迂回)に移動したうえで表現を微妙に強めていたり、汚職に関しては第15条(国際協力)で言及していたりしている。ただし、3月27日草案は、社会・経済的開発への影響に関しては草案の他の部分に移していない。したがって、この草案の段階で、輸出許可の際の基準ないし検討事項から社会・経済的開発に関する項目は削除されたことになる。

 7月26日草案の第6条3で、締約国は、武器の輸出を許可をした後に、新しい情報に基づいて、第4条の1から5の圧倒的リスク(overriding risk)があると評価した際には、その許可を取り消したりできることになっていた。ただし、ここで使われているのは”the State Party may suspend or revoke the authorization”という表現であり、取り消す等の行為は義務ではなかった。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合に、許可を取り消しても取り消さなくても良いことになる
これについて、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「may」ではなく「shall」(義務を意味する)に変えるべきと述べた。また、ノルウェーは、許可をした後の再評価の際に、第4条1から5しか適用されず、第4条6(流出/迂回、汚職等)が適用されないことも問題視した。

3月22日草案第7条10でも、再評価の際には第7条4(国際人権法の重大な違反など)しか適用されず、第7条8(流出/迂回、汚職等)が適用されなかった。また、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、上記の「may」は削除されたが、その代わりに挿入されたのは「is encouraged to」(許可を取り消すこと等が奨励される)という表現であり、義務ではなく任意であることには変わらなかった。加えて、7月26日草案の第6条3が、この条約の規制対象(第2条)に含まれない弾薬、部品・構成部分にも適用されるのかについては、明記されていなかった。3月22日草案の第7条10でも、これは明記されていない

3月27日草案第7条7は、以下のようになっている。
If, after an authorization has been granted, an exporting State Party becomes aware of new relevant information, it is encouraged to reassess the authorization after consultations, if appropriate, with the importing State.

ここでも、「is encouraged to」(奨励される)という表現になっており、義務ではない。また、奨励される行動は、許可について再評価すること(reassess the authorization)だけであり、3月22日草案までのように、再評価した後に許可を取り消すこと等は奨励されない。つまり、再評価するにしても、その後にどうするかについては全く書かれていない。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合、締約国は輸出許可について再評価をしなくても構わないことになり、さらに再評価したとしても、その後に許可を取り消すか取り消さないかは締約国に任されることになる

以上。
分析の第3弾では、第8条の輸入規制以降の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月27日条約草案の分析:その1

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

3月27日(水)正午前、ほぼ最終版となる予定の条約草案(以下、3月27日草案)が配布されました。この後から最終日の3月28日(木)までは、形式や文言を整えるなど、規制内容に影響を与えない程度の修正しか行われない予定です。この草案も、Scribdからご覧いただけます。

以下、3月27日草案の主要部分に関する分析を、3つの記事に分けて掲載いたします。以下の第1弾は、規制対象に関連する条項を扱います。とりあえずの分析ですので、また後で加筆できましたらと思っております。

【第2条:規制対象】

 7月26日草案は、基本的に、重兵器は国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方であり、それに小型武器・軽兵器が加わったのみであった。これは、3月22日草案第2条1でも、3月27日草案第2条1でも同様である

 7月26日草案は、重兵器(国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方)と小型武器・軽兵器を羅列した部分の上に、「本条約は、最低限でも、以下のカテゴリーの範囲内の全ての通常兵器に適用する(This Treaty shall apply to all conventional arms within the following categories at a minimum)」とされていた。3月22日草案第2条1および3月27日草案第2条1では、「最低限でも(at a minimum)という文言が削除されており、より限定的な表現になったと言える7月26日草案の分析記事でも解説した通り、国連軍備登録制度の7カテゴリーは、全ての重兵器が規制対象になるわけではない。軍用の輸送や偵察用の航空機・ヘリコプターなど、規制対象外になる兵器も多い。

  7月26日草案の兵器の規制対象は、重兵器については、国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方になっていたが、「国連軍備登録制度の7カテゴリー」と明確に書かれているわけではなかった。また、7月26日草案では、各締約国は重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に当てはまる(fall within)品目を含む規制リストを適切に(as approptiate)作成・維持するとして、その規制リストは各国で定義する(as defined on a national basis)ものとしていた。したがって、各締約国の裁量によって、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら、規制対象外にすることも可能であった。3月22日草案の第5条(実施)の第4項では、各締約国はこの条約の規制を幅広い通常兵器に適用することを奨励される(is encouraged to)としたうえで、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義は、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としていた。これで、各締約国の裁量で、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら規制対象外にする、といったことはできない表現となった
しかしながら、3月22日草案は、「この条約の発効時において」国連軍備登録制度でカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、という表現になっていた。国連軍備登録制度の兵器カテゴリーは冷戦終結の頃に作成されたものであり、その後の新兵器開発に追いついていないことや、アップデートが必要であることが指摘されている。「この条約の発効時において」という文言を挿入すると、ATTで規制される兵器の範囲を発効時で凍結してしまうことになる。したがって、ATTの発効後に、もし国連軍備登録制度の枠組みで、新兵器をカバーすべく対象兵器をアップデートしたとしても、そうした新兵器はATTで規制できなくなる。重兵器の7カテゴリーに関して、このような3月22日草案の問題は、3月27日草案においても同様である

 3月22日草案は、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義について、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としていたが、3月27日草案は、小型武器は、「この条約の発効時において、関連する国連の合意(relevant United Nations instruments)で使用されている記述よりも狭くしてはならない」とされている。

【第3条:弾薬/第4条:部品・構成部分】

 7月26日草案では、弾薬(ammunition)や部品・構成部分(parts and components)については、第2条(規制対象)に含まれておらず、第6条において輸出規制の一部が適用されるのみであり、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替を規制する義務は一切無く、弾薬、部品・構成部分の移転について、各国が記録したり報告書に記載したりする義務も一切無かった。3月22日草案では、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」が設けられているが、それらに書かれている規制は7月26日草案のものと大きな変化はなかった。しかし、7月26日草案第4条(輸出規制)や2月22日草案第7条(輸出規制)のなかで弾薬や部品・構成部分に適用されなかった規制の多くは、3月27日草案第7条(輸出規制)から削除されている。これを受けて、3月27日草案第3条「弾薬」と第4条「部品・構成部分」は、第6条(移転禁止)が適用され、また第7条のなかで残った部分の全てが適用される形になっている。

 7月26日草案では、重兵器や小型武器について、何を規制対象にするかが各国の裁量に任されていたため、例えば、各国の判断で、特定の大口径火砲や小型武器を規制対象から外すことによって、同時にそれらに使用する弾薬や、それらの部品を輸出規制から外す、といった規制回避も可能であった(この点については、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書においても指摘されていた)。3月22日草案および3月27日草案では、最低限でも「この条約の発効時点での」国連軍備登録制度の兵器は規制対象にしなければいけないが、上述のような、ATTの発効時点に国連軍備登録制度の兵器カテゴリーに含まれない兵器の問題が発生する。

7月26日草案では、部品・構成部分の輸出規制には、「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言が挿入されており、その「必要であるか」の判断は各締約国の裁量に任されることになるため、義務のレベルが低いものになっていた。3月22日草案と3月27日草案では、部品・構成部分に関する「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言は削除されている。ただし、3月22日草案と3月27日草案では、部品・構成部分について、第2条(規制対象の重兵器と小型武器・軽兵器)の兵器を組み立てることができるようにするような形態の( in a form which provides the capability to assemble…)、といった限定的な表現になっているため、既にある通常兵器を維持したりアップグレードしたりするための部品・構成部分は含まれないという解釈が可能である。また、あくまで第2条(規制対象の重兵器と小型武器・軽兵器)の兵器を組み立てることができるようにするような形態の部品・構成部分が規制対象となるため、第3条の弾薬の部品・構成部分は規制対象外となる。

7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条においては、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読めた。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾が指摘できた。これと同じ文言の違いは3月27日草案にもみられる。ただし、締約国が第3条、第4条、および第6条の全てについて実施をすると考えれば、第6条の「移転」禁止全体が適用されると言えるのかもしれない。

 7月26日草案や3月22日草案と同様に、3月27日草案でも、この条約の目的等と矛盾しない限りにおいて、留保が認められている。何をもって「この条約の目的と矛盾しない」と捉えるかは判断が難しいが、弾薬や部品・構成部分が、第2条の「規制対象」に含まれていないために、これらについて留保をしても構わないと論じて、弾薬や部品・構成部分の規制を行わない国もでてくる可能性を否定することはできない。弾薬や部品・構成部分の規制は条約の目的等のために非常に重要であり、留保は認められないという議論も可能であろうが、全ての締約国がそのように解釈するとは限らない。

 7月26日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案でも、手榴弾などの爆発物(explosives)は規制対象外である。

 7月26日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案でも、武器の開発・製造・維持のための技術や設備等は規制対象外である。

 7月26日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案でも、軍用に転用可能な汎用品も規制対象外である。

 7月26日草案では、第2条の規制対象(重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器)の兵器に関する各締約国の規制リストについて、各締約国は「国内法で認められた程度(限り)において(to the extent permitted by national law)公開する、としていた(第2条A4)。したがって、この条約にもとづいて各国が何を規制するのかについてすら、公開されるという保証はなかった。これについて、ニュージーランドは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「WTOのGATT第10条第1項(貿易規則の公表)に反するものである」と論じていた。3月22日草案では、第7条(輸出評価)第1項および第2項で各国の規制リストについて扱っており、第7条第2項で、各締約国は、第2条の規制対象だけでなく、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」の規制リストを作成して条約事務局に提出し、事務局はそれを他の締約国に知らせることになっていた。ただし、その規制リストを公開するか否かについては、公開することが奨励される(States Parties are encouraged to)という表現であり、この条約にもとづいて各国が何を規制するかについては、公開される保証はなかった。この3月22日草案第7条第2項は、3月27日草案では第5条第4項に移動されている。この第5条第4項では、各締約国は自国の規制リストを事務局に提出し、事務局はそれを他の締約国に提示することになっているが、その規制リストを公開するか否かについては、公開することが奨励される(States Parties are encouraged to)という表現であり、各国がこの条約に基づいて何を規制されるのかについては、公開される保証はない。

 行為の規制対象については、7月26日草案、3月22日草案と同様に、3月27日草案においても、「貿易(trade)」という文言が使用されており、贈与(譲渡)やリースなどは規制対象ではないという解釈も可能である。例えば、締約国が他国に武器を売却する場合はATTの規制の対象になるが、同じ兵器を贈与(譲渡)する場合は規制対象にならない可能性や、軍事支援プログラムなどの際は規制対象にならない可能性もある。

 2011年文書の行為の規制対象含まれていたもののうち、ライセンス生産(manufacture under foreign license)と技術移転(technology transfer)は、7月26日草案、3月22日草案に続いて、3月27日草案にも見られない。これらの行為は規制されないことになる。

 締約国が、海外に駐留する自国軍などに向けて、通常兵器を国境を超えて移動させる行為を含めるかどうかについては、2011年文書では明確に記述されていなかったが、7月3日文書では明確に規制対象から外され、7月24日草案、7月26日草案、3月20日草案、3月22日草案、そして3月27日草案でも規制対象外になっている。ただし、自国軍がPKO等で他国の領土に行った後に、その国に兵器を譲渡する場合など、海外に駐留する自国軍が所持する通常兵器について、国境を超えて移動しないが管轄又は管理下にある国が変わる場合に条約の規制対象となるのかについては、何も書かれていない。この問題は、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書でも指摘されていた。しかし、この点については、3月20日草案、3月22日草案に続き、3月27日草案においても明記されていない。

 7月26日草案、3月22日草案と同様に、3月27日草案においても、輸出、輸入、ブロ―カリング(仲介)、通過・積替の定義は書かれていない。これについては、7月19日の当ブログ記事のとおり、7月会議中、日本などが行為の定義の削除を求めていた。したがって、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替について、各国の裁量で非常に狭く解釈することも可能である。例えば、仲介の定義を非常に狭く解釈して、口利きを除外したり、輸送業者を除外したりすることも可能である。

 7月26日草案、3月22日草案と同様に、3月27日草案第7条においても、国際人権法等に関する許可基準に基づいて判断するのは輸出だけになっており、輸入、通過、積替、ブローカリング(仲介)については、国際人権法等の移転許可基準に照らし合わせた規制をする義務は全く課されない

以上。
分析の第2弾では、移転の禁止や輸出評価等の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)交渉会議:3月22日(金)から27日(水)草案まで

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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 3月22日(金)の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案も、Scribdにアップロードしました。

 その後、週末にかけて、NGOの国際法・政策チームを中心に、3月22日草案を細かく分析いたしました。その結果は、このブログに分析記事(その1その2その3)として掲載いたしました。

 3月22日草案の配布後、週末も翌週3月25日(月)以降も様々な交渉が行われました。3月25日(月)の本会議では、ATT推進国103か国(当初は102か国と言われたが、後に103か国に修正された)の声明が、ガーナによって読み上げられました。この声明は、ノルウェーメキシコニュージーランドトリニダード・トバゴナイジェリアなどの積極推進派が中心になって、週末のうちに起草されたものでした。そして、これらの積極推進派は、イギリスオーストラリア日本等を含む「ATT原共同提案国」や国連安保理常任理事国に入っているような妥協派にも、合意を求めて声をかけました。積極推進派が起草した文章には、3月22日草案に関して「一歩後退した部分がある」という指摘が含まれていました。原共同提案国側はその文言を「正しい方向に向けて前進している」といった文言に変えよと要求しましたが、積極推進派はこれを拒否しました。最終的には、原共同提案国7か国のうち、アルゼンチンイギリスオーストラリアケニアフィンランドの6か国はこの声明に合意しましたが、日本だけは合意しませんでしたこの声明はScribdからご覧いただけます。

 3月25日(月)以降の午前・午後の本会議では、ATTを推進してきた国々は、積極推進派だけでなく、日本を含めた妥協派の国々も、強い規制を求める発言を続けました。ただし、3月22日草案以降の交渉は、公開の(メディアに報道され記録に残る)本会議ではなく、非公式協議の場や、それ以外の非公式な会合の場で行われた側面が強いと言えます。本来は、3月25日(月)と26日(火)は、午前・午後の本会議に加えて、夜間の本会議が設定されていましたが、これらの夜間の本会議はキャンセルされ、非公式な交渉の時間にあてられました。例えば、アメリカインド等の間で3月22日草案第5条2の防衛協力に関する項目に関して議論があったり、メキシコ等の積極推進派とイギリス等の原共同提案国側が協議したりといったことは、非公式に行われていたようでした。

 3月27日(水)正午前、ほぼ最終版となる予定の条約草案(以下、3月27日草案)が配布されました。この後から最終日の3月28日(木)までは、形式や文言を整えるなど、規制内容に影響を与えない程度の修正しか行われないことになっています。この草案も、Scribdからご覧いただけます。

 配布後すぐに、会議場の上階のNGO部屋(Conference Room B)では、「コントロール・アームズ」の国際法・政策チームが集まり、個々人で3月27日草案に目を通しました。その後、この草案を4分割して小チームに分かれて分析をしてから(私は移転禁止・輸出許可等のチーム)、小チームの分析を国際法・政策チーム全体で共有しました。分析が終わると、「コントロール・アームズ」の意思決定チームによる議論を経て、午後2時10分から午後3時頃まで、階下の大会議場(使用されていない部屋)で「コントロール・アームズ」全体会議が開催されました。

 現在、3月27日(水)午後3時過ぎです。今日の会議場での仕事が一通り終わったら、なるべく早くにこのブログに分析を掲載できましたらと思っております。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月22日条約草案の分析:その3

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案は、Scribdにアップロードしました。

基本的に、3月22日草案は、7月26日草案や3月20日草案と比べて、構成は変わったものの、規制内容が大幅に変わったとは言えません。ただし、構成が変わったことで、前の草案と比較をしようとしたところ、かなりの作業が必要でした。今後の備忘録を兼ねて、3月22日草案の分析を、3つの記事に分けて掲載しております。以下の第3弾は、第8条の輸入規制以降から最後までを扱います。

【第8条:輸入規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、輸入として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも同様である
 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第7条(輸入)第2項では、各締約国が任意で行う輸入規制について、「輸入国の管轄下の輸入(imports under its jurisdiction)」という表現が挿入されていた。こうした表現は日本などが主張していた。日本にある米軍基地向けの輸入といったケースについて、明確に規制対象外にするためなのかもしれない。3月22日草案第8条2にも、この表現が残っている

【第9条:通過・積替規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、通過・積替として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも同様である
 7月26日草案第9条において、・通過・積替については、締約国はその規制のために、「必要でありかつ実施可能な場合に(where necessary and feasible)」、「適切な(appropriate)」法的・行政的・その他の措置をとる、とされていた。何をもって「適切な措置」とみなすのか、そもそもの規制を「必要であり実施可能」とみなすのかは、各国の裁量で判断することになる。3月22日草案第9条においても同様の表現が残っており、通過・積替について、具体的な規制義務を課すものとは言い難い

 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第8条(通過・積替え)第1項には、「管轄下の(under its jurisdiction)」「国際法に則って(in accordance with international law)」といった文言が挿入されていた。とりわけ後者の文言は日本が主張していた。国際海洋法上の無害通航権(外国船舶が、沿岸国の平和・秩序・安全を害さないかぎり、その沿岸国の領海を自由に通航できる権利)を想定していると思われた。3月22日草案第9条1にも同様の表現がある。

【第10条:仲介規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などが定義されていないため、通過・積替として規制する行為を狭く解釈することも可能であった。この問題は、3月22日草案でも同様である。
 7月26日草案の第8条は、仲介について、締約国はその規制のために「各国の国内法の範囲内で(within its national laws)」、「適切な措置をとる(shall take the appropriate measures)」とされていたが、その措置の内容は各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難かった3月22日草案第10条も、若干の違いはあっても同様の意味の表現が使用されている。したがって、ブローカリングについて、具体的な規制義務を課す条項にはなっていない。

 2012年7月ATT交渉会議の議論においては、仲介の定義を、2011年文書に書かれていた、他国に居住する自国民による仲介行為も規制する(域外管轄権を認める)という意味合いの文言(「brokering activities taking place within its territories or by its nationals」)にすることについて、ベルギーなどが支持し、日本を含めた国々が反対していた。7月26日草案では、「brokering taking place under its jurisdiction」という文言になっており、他国に居住する自国民による仲介行為を規制するか否かは各国の裁量に任されると解釈しうるものになった3月22日草案第10条でも同じ文言になっている。

 2011年文書に書かれていた、締約国は全てのブローカーが仲介行為を行う前に国に登録するようにする、という旨の記述は、7月3日文書にも7月24日草案にもみられなかった。7月26日草案では、この事前登録について、各国の裁量で行う(may)という表現で復活している。しかし、これは義務であることを意味しないため、ブローカーの事前登録制度を設けなくても構わないことになった。3月22日草案第10条でも、裁量を示す表現(may)が使用されている。さらに、以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第9条(ブローカリング)では、「ブローカー取引に携わる前に(before engaging in brokering transactions)」という表現が「ブローカリングに携わる前に(before engaging in brokering)」という表現に代わっていた。いずれにしても締約国の任意で(義務ではない)にせよ、登録あるいは書面による許可を要請するといった措置をとる時点が、1つ1つのブローカー取引の前ではなく、ブローカーとしての活動を始める前になる表現であった。そもそもこの措置自体が義務ではないが、規制内容に関する文言がさらに弱まったと言えた。3月22日草案第10条にも、この表現が残っている

【第11条:記録保持】
 7月26日草案では、記録保持と報告が第10条にまとめられていた。3月20日草案と3月22日草案では、記録保持と報告が別々の条項に分けられている。
 2011年文書や7月3日文書と同様に、2012年7月24日草案も26日草案も、移転した武器について何を記録するのか(数、モデル・タイプ、輸入国、最終使用者等)を各国が適当に決められる表現になっていた。これは、3月22日草案でも同様である。また、2011年文書は、記録内容の候補として、移転を拒否したケース("denials")も記録することが挙げられていた(8頁B-1)が、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案では、この文言は削除されていた。3月22日草案にも、この文言は見られない。
また、7月26日草案では、輸出の記録は義務となっていたが、輸入や通過・積替えの記録に関しては「where feasible」という文言が入っており、義務とは言い難かった。3月22日草案でも、輸入や通過・積替えの記録に関して、各締約国は「is encouraged to」(奨励される)という表現であるため、義務ではない

 記録を保持する年数は、2011年文書は最低10年になっており、7月3日文書では最低20年になっていたが、7月24日草案と7月26日草案では最低10年に戻っていた。「コントロール・アームズ」キャンペーンは、武器のライフサイクルを考えれば10年は短すぎるため、最低20年にすべきと主張していた。しかし、3月22日草案でも最低10年となっている

【第12条:報告】
 7月26日草案では、記録保持と報告が第10条にまとめられていた。3月20日草案と3月22日草案では、記録保持と報告が別々の条項に分けられている。
 7月26日草案では、弾薬や部品・構成部分の移転について記録し報告する義務はなかった3月22日草案でも、そうした義務は一切無い

各国が事務局に提出する報告書について、7月26日草案では「実際の移転(actual transfer)」とされていたが、3月20日草案第11条(報告)第3項では「実際の輸出と輸入(actual export and import)」となっていた。したがって、通過・積替えやブローカリングについては、報告義務は一切なくなった。3月22日草案でも、この問題は同様である

 2011年文書は、各国が記録した内容を報告する旨が書かれていたが、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案は、「各国が報告書のなかに何を具体的に記入するのか」(数?モデル・タイプ?輸入国?価格?など)は全く書かれていなかった。よって、具体的にどのようなものを移転したのか曖昧な書き方の報告書にすることも可能であった。3月22日草案でも、この問題は同様である

 7月26日草案において、ATTの事務局に報告する報告書に含める情報の種類は、「国連軍備登録制度を含めた、関連の国連の枠組みに提出する情報と同じにしてもよい(may)とされていた(第10条5)。したがって、締約国は、ATTの事務局に報告する内容を、国連軍備登録制度に提出する報告書と同じものにすることも想定しえた。しかし、国連軍備登録制度の報告書に含める情報は非常に大雑把であるため、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しい3月22日草案でも、この問題は同様である

また、7月24日草案では、報告書は公開されることになっていたが、7月26日文書ではその文言が削除されていた。3月22日草案でも、この問題は同様である。ただし、上記の国連軍備登録制度では、提出された報告内容が公開されている。したがって、ATTにおいて「公開する」という文言がなくとも、国連軍備登録制度でいずれにせよ公開される、という捉え方もできる。また、ATTの枠組みで各締約国が提出する報告書が、国連軍備登録制度のものと同様の大雑把なものでも良いとされている限りは、条文に「報告書を公開する」旨の文言が入ったとしても、現状と比べて武器移転に関する透明性が向上することは、あまり期待できないかもしれない。
加えて、国連軍備登録制度設立時の合意文書には、報告書を公開するとは書かれていないが、実際の運用においては公開されている。したがって、ATTに「報告書を公開する」旨の文言が入らなくとも、後の段階で報告書が公開されることも想定できる。
さらに、7月26日草案は、締約国が提出する報告書から、商業的な機密(commercially sensitive)や国家安全保障に関わる情報を除外することができる、としていた(第11条5)。何が機密であるか等は各国の裁量に委ねられるため、どのような情報であれ、「機密である」「安全保障に関わる」ということにして報告しないことも可能になる。3月22日草案でも、この問題は同様である

 情報の公開は、過去の移転規制においても大きな問題であった。移転を規制し、移転情報を公開することについては、「透明性確保」、「信頼醸成」といった目的が掲げられる。しかし、武器の調達を輸入に頼る国々の軍備情報のみが公開され、自国内で武器を一定程度以上製造・調達できる国々の軍備情報はあまり公開されないという、不平等な性質を持つことは否定しがたい。また、移転情報の公開は、必ずしも信頼醸成にはつながらず、不信感や軍拡競争につながる(例:隣国が武器を大量に輸入した情報が公開された場合など)といった指摘もある。

【第14条:流出/迂回(Diversion)】
 3月22日草案には、以前の全ての文書や草案には見られなかった、流出/迂回(Diversion)に関する第14条が新たに設けられた。この条項は、今回の会議での非公式協議を通じて作成された。以前の草案の全体に散在していた流出/迂回(diversion)関連の部分をまとめて1つにまとめたという側面が強い。また、義務のレベルが弱い表現(「shall seek to prevent the diversion」、「where feasible」、「to the extent permitted by their national laws」、「are encouraged to」など)が多く挿入されていることもあり、実質的な規制への影響はあまりない条項かもしれない。
 この第14条は、第2条の規制対象のみに適用されることになっており、弾薬、部品・構成部分には適用されない

【第15条:国際支援】
 7月24日草案と同様に、7月26日草案にも、犠牲者支援の項目はなかった。また、7月24日草案には、ATTの実施のための国内措置の違反に関する捜査や訴追に関する支援が含まれていたが、これは7月26日草案では削除されていたこの問題は、3月22日草案でも同様である

【第17条:締約国会議】
 7月26日草案は、締約国会議の役割の一つとして、この条約の履行等に関する勧告(recommendations)を検討し採択することを挙げていた。ただし、締約国会議には、条約の履行状況を検討するといった役割は与えられていないため、そうした検討なしに、どのように勧告の作成に至るのかは明らかではなかった。これについて、3月22日草案第17条4(c)には、履行状況を検討する旨が新たに加えられている

【第18条:事務局】
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書では「実施支援ユニット(Implementation Support Unit: ISU)であったが、7月26日文書では「事務局(Secretariat)」という言葉に変えられていた。3月22日草案でも「事務局」とされている。
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書や、7月26日草案と同様に、3月22日草案でも、事務局には各国の報告書を検証する権限はない
※ ただし、元来ATTは検証制度等になじまない性質があるとも言える。

 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案第16条(事務局)第3項(事務局の任務)の(e)では、「締約国会議で決定された(as decided by the Conferences of States Parties)」他の義務を果たすとされている。7月26日草案では、この箇所は「この条約によって委任された(as mandated by this Treaty)」他の義務を果たす旨が書かれていた。3月20日草案の文言は、締約国が合意すれば、事務局の役割を拡大することができることを意味する。3月22日草案でも、同じ表現が残っている

【第19条:紛争解決】
以前の記事で指摘したように、締約国の任意で解決する紛争について、7月26日草案の「この条約の実施に関する(concerning the implementation of this Treaty)」紛争という表現が、3月22日草案の前の3月20日草案第17条(紛争解決)第3項において、「この条約の解釈と適用に関する紛争(concerning the interpretation or application of this Treaty)」という表現に置き換えられていた。他の条約の類似条項における表現との一貫性等に鑑みた変更かもしれない。3月22日草案でも、この表現は置き換えられたままになっている

【第20条:改正】
 7月24日草案では、コンセンサスが無理な場合は出席かつ投票する締約国の3分の2による条約改正が可能となっていた。7月26日草案では、コンセンサス(by consensus)でのみ改正が可能となった。3月22日草案も7月26日草案と同じである

【第21条:署名、批准、受諾、承認又は加入】
 7月24日文書では、国家だけでなく地域統合組織も署名、批准、受諾、承認又は加入が可能になっていたが、7月26日文書からは削除された。2012年7月交渉会議において、EU諸国などは、地域統合組織も署名等が可能にすべきと主張したが、中国は、条約交渉最終日の7月27日(金)までにEUによる対中武器禁輸が解除されないのならば、地域統合組織の署名等には賛成できないと主張した。3月22日草案でも、地域統合組織の署名等の文言は削除されたままである。

【第22条:発効条件】
 2011年文書で具体的な批准国数等が書かれていなかった発効条件は、7月3日文書では、65か国による批准等の30日後あるいは30か国による批准等の3年後とされ、7月24日草案では、65か国による批准等の30日後とされ、7月26日草案では、65か国による批准等の90日後になっていた。3月22日草案も、7月26日草案と同じである

【第26条:他の条約との関係】
 7月26日草案第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としていた。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されており、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能と解釈することもできた。7月26日草案の第24条は、締約国は、本条約の義務と矛盾がなく、本条約の目的を損なわない限り、通常兵器の国際貿易に関する合意を結ぶ権利がある、としているが、第6条2との関係は曖昧であった。3月22日草案でも、この問題は残っている

●【その他】
 7月26日草案の第23条では、「締約国は、非締約国に向けた、本条約の規制対象の通常兵器の全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」としていた。これは、「本条約の規制対象(第2条)」に含まれない弾薬、部品・構成部について、非締約国向けの輸出であれば、第3条と第4条は適用されないと解釈できた。しかしながら、第6条4では、「弾薬のどのような輸出も、その許可の前に、第3条と第4条1から5を適用する」とされており、矛盾すると考えられた。部品・構成部分(第6条5)についても、同じ矛盾が指摘できた。さらに、「・・・・全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」とされていたため、非締約国向けの移転であれば、この条約の輸入規制、ブローカリング(仲介)規制、通過・積替え規制は適用されないという解釈もありえた。以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、この条項は削除されていた。3月22日草案にも、こうした条項は見られない

以上。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月22日条約草案の分析:その2

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案は、Scribdにアップロードしました。

基本的に、3月22日草案は、7月26日草案や3月20日草案と比べて、構成は変わったものの、規制内容が大幅に変わったとは言えません。ただし、構成が変わったことで、前の草案と比較をしようとしたところ、かなりの作業が必要でした。今後の備忘録を兼ねて、3月22日草案の分析を、3つの記事に分けて掲載しております。以下の第2弾は、実施、移転の禁止、輸出の評価に関する条項を扱います。

【第5条:実施】
 以前の記事で指摘したように、7月26日草案では第3条(移転禁止)・第4条(輸出評価)の直後にあった第5条(実施)は、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、第4条(移転禁止)の直前の第3条に移されていた。3月22日草案でも、第6条(移転禁止)の直前の第5条として置かれている。

 7月26日草案の第5条2の第1センテンスは、この条約の実施は、他の文書(other instruments)によって負う義務に影響を及ぼすものではない旨を述べていた。これは曖昧な表現ではあるが、ATTよりも他の合意のほうが優先されると解釈される可能性があった。さらに、7月26日草案の第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としていた。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されていた。
この文言が削除されたことにより、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能になってしまう可能性が指摘できた。また、ここでの「防衛協力合意」は特に定義されていないため、武器の移転の際に「防衛協力合意に基づく契約義務である」として、条約の規制をのがれることができる可能性も指摘できた。※2012年7月の交渉会議中、最近のロシアからシリアへの移転(参考資料1参考資料2)も、これにあたると解釈される可能性が指摘されていた。また、インドは、アメリカからインドへの移転(参考資料3)などへの影響を懸念したと言われていた。
この問題は、3月22日草案第5条2でも同様である。ただし、3月24日の時点で、アメリカとインドを中心にした国々で、この問題に関する妥協案を検討しているという噂があった。今後の3月27日(水)草案でどうなるかが注目される。
 7月26日草案の第5条にも、草案の他の部分にも、この条約を実施するための国内法への違反について処罰する義務は明記されていなかった。この問題は、3月22日草案でも同様である。

【第6条:移転の禁止】
7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条1から3においては、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読むこともできる。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾が指摘できる。

 7月26日草案の第3条2では、武器の国際移転について、各締約国が加盟している条約上の義務に反するような移転をしない(shall not)と書かれていたが、国際慣習法に反する移転については禁止されていなかった。この点については、2013年2月半ばにノルウェーが各国に配布した非公式見解書で、「国際慣習法に反する移転は禁止されないことを含意しうる」と指摘されていた。この問題は、3月22日草案第6条2でも同様である。

 7月24日草案と同様に、7月26日草案の第3条3においても、ジェノサイド、人道に対する罪や戦争犯罪についての文言は、これらの行為の遂行を助長する意図で(for the purpose of facilitating the comission of...)この条約の規制対象の兵器を移転を許可してはならない(shall not)、としていた。つまり、これらの行為の遂行を助長する明確な意図をもって行うことはしない、という限定的な文言であり、「大きなリスクがあることを認識している」という程度の場合はあてはまらないものであった。
【この問題については、7月26日草案に関する分析記事をご覧ください。】
3月22日草案第6条3では、移転の許可の時点で、上記の行為の遂行に使用されることが分かっていれば(if it has knowledge at the time of authorization that the arms or items would be used....)という文言になっており、「意図」の問題は解決されたと言える。ただし、3月22日草案第6条3では、「移転の許可の時点で」とされているという点では限定的である。

 7月26日草案の第3条3は、戦争犯罪(war crimes)に関して、「war crimes constituting grave breaches of the Geneva Conventions of 1949, or serious violations of Common Article 3 of the Geneva Conventions of 1949.(1949年のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為や1949年のジュネーヴ諸条約の共通第三条の著しい違反を構成する戦争犯罪)」と限定する文言になっていた。この書き方では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書や、国際刑事裁判所規定、国際慣習法にみられる、その他の戦争犯罪――例えば、文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃することなど――は、含まれないことになる。これについては、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「戦争犯罪」とのみ記載すること(限定的な文言を削除すること)を求めていた。3月22日草案第6条3では、この部分は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party, including grave breaches of the Geneva Conventions of 1949」という文言に置き換えられている。このように、3月22日草案において、「including.....Geneva Conventions of 1949」になったことで、ジュネーブ諸条約に限らないと解釈できる。ただし、「internaitonal agreements to which it is a Party」という文言により、ATTの各締約国が加盟している国際合意上のものに限られ、加盟していない条約や国際慣習法に含まれるものは、除外されることになる。また、今回の表現は、「genocide, crimes against humanity, or war crimes as defined by international agreements to which it is a Party」となっているが、「as defined by...」という限定的な文言が、戦争犯罪だけにかかるのではなく、ジェノサイドと人道に対する罪にもかかってくるという解釈もありうる。どこまでかかるのか不明確という問題であれば、各締約国による解釈の余地があるのに加えて、他言語に翻訳する場合の問題も発生するのではと思われる。

【第7条:輸出の評価】
 7月26日草案では、国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる行為は、「輸出(export)」に限定されており、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などについては、そうした評価をする義務は一切無かった。3月22日草案第7条でも同様である。
 以前の記事で指摘したように、3月22日草案の前の3月20日の草案の段階で、3月20日草案第4条(移転の禁止)の後の第5条(輸出の評価)の冒頭に、「その輸出が第4条で禁止されない場合(If the export is not prohibited under Article 4)」という表現が入ったため、禁止と輸出評価との関係がより明確になっていた。3月22日草案第7条3にも、この表現が挿入されている。

 7月26日草案の第4条1は、この条約の規制対象の通常兵器の輸出許可の審査にあたって、各締約国は、その輸出が平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価する旨が書かれていた(In considering whether to authorize an export of conventional arms within the scope of this Treaty, each State Party shall assess whether the proposed export would contribute to or undermine peace and security.)。しかし、平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価した後、どうするのかは書かれていなかった。3月22日草案第7条3でも同様である。

 7月26日草案の第4条2には、「国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」、「国際人道法の重大な(著しい)違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」といった基準が設けられており、これらに照らし合わせて輸出申請について評価することになっていた。しかし、同草案の第4条5は、第4条1と2の評価などの後に、第4条2に挙げられた帰結をもたらす「overriding risk(圧倒的/決定的/優越的なリスク)」がある場合は、武器輸出を許可してはならない、としている。この表現は、これ以前の非公式文書や草案にはない、初めて使用された表現であったが、このoverriding risk」の意味が曖昧であった。
この表現は、アメリカの主張で盛り込まれたものであった。会議中の7月26日に、アメリカ政府関係者は、この表現は「この兵器を輸出することによる、国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される可能性が、この兵器の輸出によって平和と安定に貢献するレベルを凌駕するほど圧倒的なリスクと言えるかどうか」といった、「兵器の輸出による平和と安定への貢献」とリスクを天秤にかけることを意味すると解釈している、とNGOに伝えていた。そして、この「(平和と安定)peace and security」とは何の平和と安定なのかについては、明記されていなかった
したがって、7月26日草案は、例えば、「この兵器を輸出した場合、第4条2に挙げられたような帰結をもたらす(輸出先で国際人権法の重大な違反の遂行に使用される等)リスクが高い。しかし、この兵器の輸出は、輸入国のsecurityへの貢献度も非常に高い。第4条2に挙げられたような帰結をもたらすリスクは、輸入国のsecurityへの貢献度を凌駕するほど圧倒的な(overriding)リスクとは言えないため、輸出しても良い。」といった判断の仕方を正当化するものになる可能性があった。3月22日草案第7条7でも同様である。

 7月26日草案の第4条6には、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、といった文言があった。しかし、7月24日草案と同様に、7月26日草案においても、これらの文言の上には、締約国は、輸出を許可する際にこうした状況を「回避するために・・・・適切な措置をとることを検討する」旨の文言が書かれていた。この場合、武器の輸出が非合法市場へ流出/迂回する可能性等があったり、武器の輸出によって組織犯罪に使用される大きなリスクがあったりしたとしても、そうした状況を回避するための「何らかの適切な措置をとることを検討」すれば良いだけ(武器を輸出しても構わない)ということになる。

この点について、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、7月26日草案の第4条6に含まれる項目のうち、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、という3つの項目を、第4条2に移動させるべきと論じていた。これに対して、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、非合法市場へ流出/迂回する、という項目のみを、第4条2に移動させるべきと論じた。

3月22日草案第7条8では、この項から組織犯罪に関する(c)が削除され、その代わりに第7条4(d)として、国境を越えた組織犯罪に関する国際条約のうちで輸出国が加盟している条約に反する行為の遂行や助長に使用される可能性がある場合、という項目が挿入され、国際人権法や国際人道法の重大な違反に関する項目と並んでいる。ただし、その他の項目は移動していない

 7月26日草案の第6条3で、締約国は、武器の輸出を許可をした後に、新しい情報に基づいて、第4条の1から5の圧倒的リスク(overriding risk)があると評価した際には、その許可を取り消したりできることになっていた。ただし、ここで使われているのは”the State Party may suspend or revoke the authorization”という表現であり、取り消す等の行為は義務ではなかった。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合に、許可を取り消しても取り消さなくても良いことになる
これについて、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「may」ではなく「shall」(義務を意味する)に変えるべきと述べた。また、ノルウェーは、許可をした後の再評価の際に、第4条1から5しか適用されず、第4条6(流出/迂回、汚職等)が適用されないことも問題視した。
3月22日草案第7条10でも、再評価の際には第7条4(国際人権法の重大な違反など)しか適用されず、第7条8(流出/迂回、汚職等)が適用されない。また、3月22日草案の前の3月20日草案の段階で、上記の「may」は削除されたが、その代わりに挿入されたのは「is encouraged to」(許可を取り消すこと等が奨励される)という表現であり、義務ではなく任意であることには変わらない
加えて、7月26日草案の第6条3が、この条約の規制対象(第2条)に含まれない弾薬、部品・構成部分にも適用されるのかについては、明記されていなかった。3月22日草案の第7条10でも、これは明記されていない

以上。
分析の第3弾では、第8条の輸入規制以降の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)3月22日条約草案の分析:その1

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
このブログ記事作成者のツイッター・アカウントでは、会議の状況などを随時つぶやいております。

 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案は、Scribdにアップロードしました。

基本的に、3月22日草案は、7月26日草案や3月20日草案と比べて、構成は変わったものの、規制内容が大幅に変わったとは言えません。ただし、構成が変わったことで、前の草案と比較をしようとしたところ、かなりの作業が必要でした。今後の備忘録を兼ねて、3月22日草案の分析を、3つの記事に分けて掲載いたします。以下の第1弾は、前文・原則、規制対象、弾薬や部品・構成部分に関する条項を扱います。

【前文(Preamble)・原則(Principles)】
 前文(Preamble)という見出しが消えている。また、3月20日草案では、前文と原則が分かれていたが、3月22日草案では統合されている。
 2頁目の最後から2つめのパラグラフ(原則5 )では、国際人道法を尊重する旨がかかれている部分に「1949年ジュネーブ条約に則って(in accordance with the Geneva Conventions of 1949)」とされており、国際人権法を尊重する旨がかかれている部分に「国連憲章と世界人権宣言に則って(in accordance with the Charter of the United Nations, the Universal Declaration on Human Rights and the Geneva Conventions)」とされている。これは、3月20日草案で同様の表現が追加されたものを、挿入箇所を変えただけである。他の国際人道法や国際人権法には言及していないため、限定的な意味を持つことになる。
 その他の項目については、7月26日草案から大きな変化はないため、7月26日草案の分析をご覧ください。

【第1条:趣旨及び目的(Object and Purpose)】
 7月26日草案から大きな変化はないため、7月26日草案の分析をご覧ください。

【第2条:規制対象】
 7月26日草案は、基本的に、重兵器は国連軍備登録制度の7カテゴリー(以前の記事で解説したように、重兵器のなかでも狭い範囲の兵器しか対象にしていない)を想起させる書き方であり、それに小型武器・軽兵器が加わったのみであった。これは、3月22日草案でも同様である。
 7月26日草案は、重兵器(国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方)と小型武器・軽兵器を羅列した部分の上に、「本条約は、最低限でも、以下のカテゴリーの範囲内の全ての通常兵器に適用する(This Treaty shall apply to all conventional arms within the following categories at a minimum)」とされていた。3月22日草案では、「最低限でも(at a minimum)という文言が削除されており、より限定的な表現になったと言える7月26日草案の分析記事でも解説した通り、国連軍備登録制度の7カテゴリーは、全ての重兵器が規制対象になるわけではない。軍用の輸送用や偵察用の航空機・ヘリコプターをはじめ、規制対象外になる兵器も多い。

  7月26日草案の兵器の規制対象は、重兵器については、国連軍備登録制度の7カテゴリーを想起させる書き方になっていたが、「国連軍備登録制度の7カテゴリー」と明確に書かれているわけではなかった。また、7月26日草案では、各締約国は重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に当てはまる(fall within)品目を含む規制リストを適切に(as approptiate)作成・維持するとして、その規制リストは各国で定義する(as defined on a national basis)ものとしていた。したがって、各締約国の裁量によって、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら、規制対象外にすることも可能であった。3月22日草案の第5条(実施)の第4項では、各締約国はこの条約の規制を幅広い通常兵器に適用することを奨励される(is encouraged to)としたうえで、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義は、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としている。これは、各締約国の裁量で、国連軍備登録制度の7カテゴリーに含まれる兵器すら規制対象外にする、といったことはできない表現である。しかしながら、3月22日草案は、「この条約の発効時において」国連軍備登録制度でカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、という文言になっている。国連軍備登録制度の兵器カテゴリーは冷戦終結の頃に作成されたものであり、その後の新兵器開発に追いついていないことや、アップデートが必要であることが指摘されている。「この条約の発効時において」という文言を挿入すると、ATTで規制される兵器の範囲を発効時で凍結してしまうことになる。したがって、ATTの発効後に、国連軍備登録制度の枠組みで、新兵器をカバーすべく対象兵器をアップデートしたとしても、そうした新兵器はATTで規制できなくなる。さらに、3月22日草案は、重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器に関する各国の定義について、国連軍備登録制度においてカバーされている兵器よりも狭くしてはならない、としているが、国連軍備登録制度には小型武器・軽兵器の定義は一切無い

【第3条:部品・構成部分/第4条:弾薬】
 7月26日草案では、弾薬(ammunition)や部品・構成部分(parts and components)については、第2条(規制対象)に含まれておらず、第6条において輸出規制の一部が適用されるのみであり、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替を規制する義務は一切無く、弾薬、部品・構成部分の移転について、各国が記録したり報告書に記載したりする義務も一切無かった。3月22日草案では、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」が設けられているが、それらに書かれている規制は7月26日草案のものと大きな変化はない

 7月26日草案では、重兵器や小型武器について、何を規制対象にするかが各国の裁量に任されていたため、例えば、各国の判断で、特定の大口径火砲や小型武器を規制対象から外すことによって、同時にそれらに使用する弾薬や、それらの部品を輸出規制から外す、といった規制回避も可能であった(この点については、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書においても指摘されていた)。加えて、部品・構成部分の輸出規制には、「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言が挿入されており、その「必要であるか」の判断は各締約国の裁量に任されることになるため、義務のレベルが低いものになっていた。3月22日草案では、最低限でも「この条約の発効時点での」国連軍備登録制度の兵器は規制対象にしなければいけないが、上記のような、ATTの発効時点に国連軍備登録制度の兵器カテゴリーに含まれない兵器や、小型武器・軽兵器の定義の問題が発生する。また、3月22日草案では、部品・構成部分に関する「必要な範囲で」(to the extent necessary)という文言は削除されている。ただし、第2条(規制対象の重兵器と小型武器・軽兵器)の通常兵器を組み立てることができるようにするような形態の(that are in a form which provides the capability to assemble…)部品・構成部分に限定する表現になっているため、既にある通常兵器を維持したりアップグレードしたりするための部品・構成部分は含まれないという解釈も可能である。

7月26日草案では、国連安保理の禁輸などによって「移転」が禁止される場合(第4条)について、「移転」全体ではなく「輸出」禁止に限って弾薬と部品・構成部分に適用されていた。3月22日草案第6条においては、輸出以外を含む「移転」禁止全体を部品・構成部分と弾薬に適用することになったように読める。しかし、同じ草案の第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」では、第6条の「禁止」を、部品・構成部分と弾薬の「輸出」の許可の前に適用することになっており、第6条との矛盾が指摘できる。

 7月26日草案でも3月22日草案でも、この条約の目的と矛盾しない限りにおいて、留保が認められている。何をもって「この条約の目的と矛盾しない」と捉えるかは判断が難しいが、弾薬や部品・構成部分が、第2条の「規制対象」に含まれていないために、これらについて留保をしても構わないと論じて、弾薬や部品・構成部分の規制を行わない国もでてくる可能性も否定できない。

 7月26日草案でも3月22日草案でも、手榴弾などの爆発物(explosives)は規制対象外である。
 7月26日草案でも3月22日草案でも、武器の開発・製造・維持のための技術や設備等は規制対象外である。
 7月26日草案でも3月22日草案でも、軍用に転用可能な汎用品も規制対象外である。

 7月26日草案では、第2条の規制対象(重兵器7カテゴリーと小型武器・軽兵器)の兵器に関する各締約国の規制リストについて、各締約国は「国内法で認められた程度(限り)において(to the extent permitted by national law)公開する、としていた(第2条A4)。したがって、この条約にもとづいて各国が何を規制するのかについてすら、公開されるという保証はなかった。これについて、ニュージーランドは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、「WTOのGATT第10条第1項(貿易規則の公表)に反するものである」と論じていた。3月22日草案では、第7条(輸出評価)の部分の冒頭で各国の規制リストについて扱っており、各締約国は、第2条の規制対象だけでなく、第3条「部品・構成部分」と第4条「弾薬」の規制リストを作成して条約事務局に提出し、事務局はそれを他の締約国に知らせることになっている。ただし、その規制リストを公開するか否かについては、公開することが奨励される(States Parties are encouraged to)という表現であり、この条約にもとづいて各国が何を規制するかについては、公開される保証はない

 行為の規制対象については、7月26日草案でも3月22日草案でも「貿易(trade)」という文言が使用されており、贈与(譲渡)やリースなどは規制対象ではないという解釈も可能である。例えば、締約国が他国に武器を売却する場合はATTの規制の対象になるが、同じ兵器を贈与(譲渡)する場合は規制対象にならない可能性や、軍事支援プログラムなどの際は規制対象にならない可能性もある。

 2011年文書の行為の規制対象含まれていたもののうち、ライセンス生産(manufacture under foreign license)と技術移転(technology transfer)は、7月26日草案でも3月22日草案にも見られない。これらの行為は規制されないことになる。

 締約国が、海外に駐留する自国軍などに向けて、通常兵器を国境を超えて移動させる行為を含めるかどうかについては、2011年文書では明確に記述されていなかったが、7月3日文書では明確に規制対象から外され、7月24日草案、7月26日草案、3月20日草案、そして3月22日草案でも規制対象外になっている。ただし、自国軍がPKO等で他国の領土に行った後に、その国に兵器を譲渡する場合など、海外に駐留する自国軍が所持する通常兵器について、国境を超えて移動しないが管轄又は管理下にある国が変わる場合に条約の規制対象となるのかについては、何も書かれていない。この問題は、ニュージーランドが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書でも指摘されていた。しかし、この点については、3月20日草案でも3月22日草案でも明記されていない。

 7月26日草案にも3月22日草案にも、輸出、輸入、ブロ―カリング(仲介)、通過・積替の定義は書かれていない。これについては、7月19日の当ブログ記事のとおり、7月会議中、日本などが行為の定義の削除を求めていた。したがって、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替について、各国の裁量で非常に狭く解釈することも可能である。例えば、仲介の定義を非常に狭く解釈して、口利きを除外したり、輸送業者を除外したりすることも可能である。

 7月26日草案でも、3月22日草案でも、国際人権法等に関する許可基準に基づいて判断するのは輸出だけになっており、輸入、通過、積替、ブローカリング(仲介)については、国際人権法等の移転許可基準に照らし合わせた規制をする義務は全く課されない

以上。
分析の第2弾では、移転の禁止や輸出評価等の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)交渉会議:3日目から5日目の状況

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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 前回の記事掲載後、会議3日目の3月20日(水)夕方には、議長の非公式な草案文書が配布されました。その夜は11時前後まで、NGOの国際法・政策チーム関係者で集まり、新しい文書を一文づつ検証しました。ただし、新しい文書の規制内容自体は、7月26日草案からほとんど変わらず、条約としての体裁を整えるような細かい修正が加わったのみでした。したがって、7月26日草案に関する分析記事(その1その2その3)に述べた指摘のほとんど全ては、3月20日の文書についてもあてはまることになります。

今回も詳細な分析記事を書こうかと思っておりましたが、規制内容自体はほぼ変わりないですので、当面はScribdにアップロードするだけにいたしました。

【3月24日追記】3月20日の草案文書(以下、3月20日草案)について、あえて変化を指摘するとすれば、以下のようなものを挙げることができます。
1)「原則」で国際人道法と国際人権法を尊重する旨がかかれている部分に、「国連憲章、世界人権宣言、ジュネーブ条約に則って(in accordance with the Charter of the United Nations, the Universal Declaration on Human Rights and the Geneva Conventions)」という文言が入っている。他の国際人道法や国際人権法には言及していないため、限定的な意味を持つことになる。ただし、「原則」の部分であるため、実質的な影響はないかもしれない。
2) 7月26日草案の第5条(実施)を前に移動させて、第3条にしている。
3)第4条(移転の禁止)の後の第5条(輸出の評価)の冒頭に、「その輸出が第4条で禁止されない場合(If the export is not prohibited under Article 4)」という表現が入っており、第4条と第5条の関係を明確にしている。
4)第6条(輸出)第5項の弾薬輸出規制において、「ammunition」という言葉が「ammunition/munitions」に置き換えられている。
5)第7条(輸入)第2項の、各締約国が任意で行う輸入規制について、「輸入国の管轄下の輸入(imports under its jurisdiction)」という表現が挿入されている。こうした表現は日本などが主張していた。日本にある米軍基地向けの輸入といったケースについて、明確に規制対象外にするためかもしれない。
6)第8条(通過・積替え)第1項に、「管轄下の(under its jurisdiction)」「国際法に則って(in accordance with international law)」といった文言が挿入されている。とりわけ後者の文言は日本が主張していた。国際海洋法上の無害通航権(外国船舶が、沿岸国の平和・秩序・安全を害さないかぎり、その沿岸国の領海を自由に通航できる権利)を想定していると思われる。
7)第9条(ブローカリング)の「ブローカー取引に携わる前に(before engaging in brokering transactions)」という表現が「ブローカリングに携わる前に(before engaging in brokering)」という表現に代わっている。締約国の任意で(義務ではない)、登録あるいは書面による許可を要請するといった措置をとる時点が、1つ1つのブローカー取引の前ではなく、ブローカーとしての活動を始める前になる表現である。そもそもこの規制自体が義務ではないにせよ、規制内容に関する文言が弱まったと言える。
8)第11条(報告)第3項では、各国が事務局に提出する報告書について、7月26日草案では「実際の移転(actual transfer」とされていたが、3月20日草案では「実際の輸出と輸入(actual export and import)」となっている。したがって、通過・積替えやブローカリングについては、報告義務は一切なくなった。
9)第16条(事務局)第3項(事務局の任務)の(e)では、「締約国会議で決定された(as decided by the Conferences of States Parties)」他の義務を果たすとされている。7月26日草案では、この箇所は「この条約によって委任された(as mandated by this Treaty)」他の義務を果たす旨が書かれていた。3月20日草案では、締約国が合意すれば、事務局の役割を拡大することができることになる。
10)第17条(紛争解決)第3項において、締約国の任意で解決する紛争について、「この条約の実施に関する(concerning the implementation of this Treaty)」紛争という表現(7月26日草案)が、「この条約の解釈と適用に関する紛争(concerning the interpretation or application of this Treaty)」という表現に置き換えられている。他の条約の類似条項における表現との一貫性等に鑑みた変更かもしれない。
11)7月26日草案の第23条(非締約国との関係)が削除されている。これについては、他の条項との矛盾や抜け穴を生むものであった(詳しくは、7月26日草案の分析記事その3を参照ください)。3月20日草案でこの問題が解決されたと言える。

 翌3月21日(木)と22日(金)の本会議や非公式協議では、この3月20日草案をもとに議論が行われました。3月20日草案における規制内容は、7月26日草案の規制内容と実質的にはほとんど変わらないため、7月26日草案に関する意見と同様の意見がみられました。

 3月22日(金)の午後の本会議はなく、非公式の様々な協議が行われた後の午後7時半すぎに、議長の非公式な条約草案文書の第2弾(以下、3月22日草案)が配布されました。この3月22日草案も、Scribdにアップロードしました。

 これから週末にかけて、NGOの国際法・政策チームを中心に、3月22日草案を細かく分析することになります。前回の3月20日草案に比べれば変化があるように思いますので、分析後にブログに記事を掲載しようと思っております。

武器貿易条約(ATT)交渉会議:初日・2日目の状況

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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 2012年7月ATT交渉会議の開始を2日間近く遅らせたパレスチナ等の参加問題(詳しくはこちら)が、今回は短時間で合意に至ることで、会議初日の3月18日(月)の本会議はスムーズに進み、午後5時前後には各国の一般発言が終わりました。その後、本会議では、2012年7月のATT交渉会議終盤の7月26日に提示された条約草案(以下、7月26日草案)の前文(preamble)、原則(principles)、目標・目的(goals and objectives)に関しての議論が行われました。なお、7月26日草案のこれらセクションに関しての解説はこちらでご覧いただけます

 2日目の3月19日(火)の午前の本会議では、前日に続いて7月26日草案の前文、原則、目標・目的について議論された後、条約の規制対象(Scope)、移転禁止(Prohibitions)と許可基準(Criteria)についての議論が続きました。多くの国が発言を希望したため、午後の本会議でも、規制対象、移転禁止、許可基準に関する議論が続きました。したがって、本来は午後に予定されていた、実施に関する議論は、この日は行われませんでした。なお、7月26日草案の規制対象に関しての解説はこちら、移転禁止や許可基準に関する解説はこちら、実施に関する解説はこちらでご覧いただけます。

 交渉会議においては、上記の本会議の他に、様々な非公式協議の場が設けられています。最初の2日間の本会議において、ATT推進諸国からは強い規制を求める発言がみられました。しかし、非公式協議の場では、推進派の国々はおとなしくなってしまい、逆に、ATT消極派・反対派の勢いが強まっているようです。

また、ATT推進派の国々も一枚岩ではなく、2012年7月交渉会議の際と同様に(詳しくはこちらをご覧ください)、大きく分けて2つに分かれています。

1)積極推進派
メキシコノルウェーニュージーランドトリニダード・トバゴを中心とするカリブ地域の国々、ナイジェリアを中心とする西アフリカおよびその他のアフリカの国々。このグループは、7月26日草案の抜け穴を塞いだ厳格な内容のATTを求めています。

2)妥協派
イギリスフランスフィンランド日本アルゼンチンなど。このグループは、厳格な内容のATTが望ましいとしつつも、アメリカ中国インド等に妥協し、これらの国々の要求を盛り込んだ妥協案に合意することを支持する傾向にあります。もちろん、会議の最初から「妥協すべき」「このくらいで良い」等と声高に主張することはしませんが、会議終盤でこれらの国々がどのように行動するかが注目されます。

日本の一部メディアでは、ATTにアメリカ中国ロシアが反対しているという報道が見られますが、これらの国々はATTの形成自体には反対していません。また、2012年7月ATT交渉会議の最終日に、中国アメリカ等に同調して交渉が決裂したという報道も見られますが、中国は同調せず、むしろ譲歩するような発言をしていました(7月交渉会議最終日の様子はこちらをご覧ください)。2012年の国連総会におけるATT決議(今回の会議の開催を決定した決議)にも、中国は賛成しています。アメリカ中国インドなどは、ATTの形成自体に強く反対してはいないものの、条約を弱める方向に向かわせるような要求が比較的多い国々、と言えます。

上記2)の妥協派の国々は、このようなアメリカ中国インドなどを取り込むことで、イランエジプトキューバシリア朝鮮民主主義人民共和国などの強硬反対派の国々を抑え、なんとかコンセンサスでの条約採択を狙っていると言うことができます。ただし、国連での会議における条約の「コンセンサス採択」とは、全ての国連加盟国がその条約に拘束されることを意味しません。コンセンサスでの採択とは、どの国も採択時に反対をしない(条約採択を黙認する)ということであり、実際に条約に拘束されるためには、各国が署名し批准する必要があります。
ですので、もしアメリカ中国インドなどの国々の要求をのんだ条約が採択されたとしても、これらの国々が条約に署名・批准するかどうかという問題は残ります。


現在、会議3日目の3月20日(水)夕方です。今日の本会議でも7月26日草案に関する議論が続いていましたが、あと少しで議長の新文書が提示される見込みです。今日の文書は、7月26日草案から内容的にそんなに大きくは変わらず、国際法的な細かい修正が加わるのみではないかという噂もあります。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)7月26日条約草案の分析:その3

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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2012年7月に開催された武器貿易条約(ATT)交渉会議終盤にの7月26日に作成された条約草案(以下、7月26日草案)については、7月交渉会議後に、このブログに当面の分析を掲載いたしましたが、この草案は、今回の3月交渉会議の冒頭数日の議論のベースになる予定ですので、あらためて、より詳細な分析を掲載いたします。なお、分析は作成者(夏木碧)の個人的なものであり、所属団体の公式なものではありません。

★昨日までの第1弾第2弾に続いて、今日は第3弾として、7月26日草案のなかの第3条(移転禁止)、第4条(国家による評価)についての分析を記載します。★

分析のなかで言及されている「7月24日草案」とは、7月24日に配布された条約草案(7月26日草案とは異なる)を意味します。その他、7月交渉会議中には、様々な非公式文書が作成されました。以下の分析は、そうした文書との比較を交えています。「7月24日草案」文書とその分析は、こちらのページからご覧いただけます(草案もダウンロードいただけます)。会議中の非公式文書については、このブログの武器貿易条約コーナーのなかで、2012年7月会議中に作成されたブログ記事から、各文書とそれらの分析をご覧いただけます。7月26日草案の入手方法は、先日のブログ記事に掲載しています。

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【第5条:実施】
 7月26日草案の第5条2の第1センテンスは、この条約の実施は、他の文書(other instruments)によって負う義務に影響を及ぼすものではない旨を述べている。これは曖昧な表現ではあるが、ATTよりも他の合意のほうが優先されると解釈される可能性がある。さらに、7月26日草案の第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としている。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されている。
この文言が削除されたことにより、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能になってしまう可能性も指摘できる。また、ここでの「防衛協力合意」は特に定義されていないため、武器の移転の際に「防衛協力合意に基づく契約義務である」という形にすれば、条約の規制をのがれることができる可能性が指摘できる。
※ 交渉会議中、最近のロシアからシリアへの移転(参考資料1参考資料2)も、これにあたると解釈される可能性が指摘されていた。また、インドは、アメリカからインドへの移転(参考資料3)などへの影響を懸念したと言われていた。
ただし、下で述べるとおり、第24条との関係を検討する必要がある。
 7月26日草案の第5条にも、草案の他の部分にも、この条約を実施するための国内法への違反について処罰する義務は明記されていない。

【第6条:輸出規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などの用語が定義されていない。
 7月26日草案の第6条3で、締約国は、武器の輸出を許可をした後に、新しい情報に基づいて、第4条の1から5の圧倒的リスク(overriding risk)があると評価した際には、その許可を取り消したりできることになっている。ただし、ここで使われているのは”the State Party may suspend or revoke the authorization”という表現であり、取り消す等の行為は義務ではない。したがって、武器の輸出を許可した後に、国際人道法の重大な違反に使用されるリスクがあることに気付いた場合に、許可を取り消しても取り消さなくても良いことになる
これについて、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「may」ではなく「shall」(義務を意味する)に変えるべきと述べた。また、ノルウェーは、許可をした後の評価の際に、第4条6(国際組織犯罪に使用される等)が適用されないことも問題視した。
加えて、第6条3が、この条約の規制対象(第2条)に含まれない弾薬、部品・構成部分にも適用されるのかについては、明記されていない。

 7月26日草案の第6条4と5で、締約国は、弾薬と部品・構成部分の輸出規制のためのシステムを設置・維持し、輸出の許可の前に第3条と第4条の1から5を適用することになっている。ただし、部品・構成部分に関する第6条5には、「必要な限り(to the extent necessary)」という言葉が挿入されており、弾薬より義務のレベルが低くなっている
これにより、弾薬と部品・構成部分は、規制対象には含まれないものの、7月24日草案に比べて、締約国に実質的に課される規制義務は若干強いものとなったと言える。ただし、第4条の6(非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、等の帰結の回避のための措置を検討する)は弾薬や部品・構成部分には適用しなくても良いことになる
また、第7条以降では、弾薬と部品・構成部分の輸入、仲介、通過・積替については規制する義務が一切無く、各国が記録をする義務もなく、報告書に記載する義務もない
弾薬について規制対象にはせずに、この輸出の条項において取扱い、輸出規制以外の義務を課さず、輸出規制にあたっても第4条6は適用しない、というのは、2012年7月交渉会議におけるアメリカの主張であった。例えばアメリカは、弾薬は性質上、流出/迂回(diversion)のリスクが高いものであると主張して、弾薬について非合法市場への流出/迂回のリスクを評価しないような文言にしようとした。この主張に基づき、上述のように、7月26日草案においては、非合法市場の流出/迂回のリスクに関する移転許可基準は第4条6の「回避のための措置を検討する」という項目に入れられ、その上で、弾薬については第4条6全体を適用しない書き方になった。

【第8条:仲介規制】
 7月26日草案においては、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替など、全く定義されていないため、仲介として規制する行為を狭く解釈することも可能である。
 7月26日草案の第8条は、仲介について、締約国はその規制のために「各国の国内法の範囲内で(within its national laws)」、「適切な措置をとる(shall take the appropriate measures)」とされているが、その「適切な措置」の内容は各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難い
 2012年7月ATT交渉会議の議論においては、仲介の定義を、2011年文書に書かれていた、他国に居住する自国民による仲介行為も規制する(域外管轄権を認める)という意味合いの文言(「brokering activities taking place within its territories or by its nationals」)にすることについて、ベルギーなどが支持し、日本を含めた国々が反対していた。7月26日草案では、「brokering taking place under its jurisdiction」という文言になっており、他国に居住する自国民による仲介行為を規制するか否かは各国の裁量に任されると解釈しうる
 2011年文書に書かれていた、締約国は全てのブローカーが仲介行為を行う前に国に登録するようにする、という旨の記述は、7月3日文書にも7月24日草案にもみられなかった。7月26日草案では、この事前登録について、各国の裁量で行う(may)という表現で復活している。しかし、これは義務であることを意味しないため、ブローカーの事前登録制度を設けなくても構わないことになる

【第9条:通過・積替規制】
 上述のように、輸出、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替など、全く定義されていない。よって、通過・積替の行為の対象を狭く解釈することも可能である。
 通過・積替については、締約国はその規制のために、「必要でありかつ実施可能な場合に(where necessary and feasible)」、「適切な(appropriate)」法的・行政的・その他の措置をとる、とされている。何をもって「適切な措置」とみなすのか、そもそもの規制を「必要であり実施可能」とみなすのかは、各国の裁量で判断することになる。具体的な規制の義務を課すものとは言い難い

【第10条:報告・記録】
 2011年文書や7月3日文書と同様に、7月24日草案も26日草案も、移転した武器について何を記録するのか(数、モデル・タイプ、輸入国、最終使用者等)を各国が適当に決められる表現になっている。また、2011年文書は、記録内容の候補として、移転を拒否したケース("denials")も記録することが挙げられていた(8頁B-1)が、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案では、この文言は削除されている。また、輸出の記録は義務となっているが、輸入や通過・積替えの記録に関しては「where feasible」という文言が入っており、義務とは言い難い。
 記録を保持する年数は、2011年文書は最低10年としており、7月3日文書では最低20年になっていたが、7月24日草案でも7月26日草案でも最低10年に戻っている(第10条2)。「コントロール・アームズ」キャンペーンは、武器のライフサイクルを考えれば10年は短すぎるため、最低20年にすべきと主張している。
 7月26日草案では、弾薬や部品・構成部分の移転について記録し報告する義務はない
 2011年文書は、各国が記録した内容を報告する旨が書かれていたが、7月3日文書、7月24日草案、7月26日草案は、「各国が報告書のなかに何を具体的に記入するのか」(数?モデル・タイプ?輸入国?価格?など)は全く書かれていない。よって、具体的にどのようなものを移転したのか曖昧な書き方の報告書にすることも可能になる。

 7月26日草案において、ATTの事務局に報告する報告書に含める情報の種類は、「国連軍備登録制度を含めた、関連の国連の枠組みに提出する情報と同じにしてもよい(may)とされている(第10条5)。したがって、締約国は、ATTの事務局に報告する内容を、国連軍備登録制度に提出する報告書と同じものにすることも想定しうる。しかし、国連軍備登録制度の報告書に含める情報は非常に大雑把であるため、実際にどのような兵器が移転されたのか把握が難しい
また、7月24日草案では、報告書は公開されることになっていたが、7月26日文書ではその文言が削除されている。ただし、上記の国連軍備登録制度では、提出された報告内容が公開されている。したがって、ATTにおいて「公開する」という文言がなくとも、国連軍備登録制度でいずれにせよ公開される、という捉え方もできる。また、ATTの枠組みで各締約国が提出する報告書が、国連軍備登録制度のものと同様の大雑把なものでも良いとされている限りは、条文に「報告書を公開する」旨の文言が入ったとしても、現状と比べて武器移転に関する透明性が向上することは、あまり期待できないかもしれない。
加えて、国連軍備登録制度設立時の合意文書には、報告書を公開するとは書かれていないが、実際の運用においては公開されている。したがって、ATTに「報告書を公開する」旨の文言が入らなくとも、後の段階で報告書が公開されることも想定できる。
さらに、7月26日草案は、締約国が提出する報告書から、商業的な機密(commercially sensitive)や国家安全保障に関わる情報を除外することができる、としている(第11条5)。何が機密であるか等は各国の裁量に委ねられるため、どのような情報であれ、「機密である」「安全保障に関わる」ということにして報告しないことも可能である。

 情報の公開は、過去の移転規制においても大きな問題であった。移転を規制し、移転情報を公開することについては、「透明性確保」、「信頼醸成」といった目的が掲げられる。しかし、武器の調達を輸入に頼る国々の軍備情報のみが公開され、自国内で武器を一定程度以上製造・調達できる国々の軍備情報はあまり公開されないという、不平等な性質を持つことは否定しがたい。また、移転情報の公開は、必ずしも信頼醸成にはつながらず、不信感や軍拡競争につながる(例:隣国が武器を大量に輸入した情報が公開された場合など)といった指摘もある。

【第12条:事務局】
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書では「実施支援ユニット(Implementation Support Unit: ISU)であったが、7月26日文書では「事務局(Secretariat)」という言葉に変えられている。この事務局の資金源に関する記述はない。
 7月24日草案およびそれまでの一連の文書と同様に、7月26日草案でも、事務局には各国の報告書を検証する権限はない
※ ただし、元来ATTは検証制度等になじまない性質があるとも言える。

【第14条:国際支援】
 7月24日草案と同様に、7月26日草案にも、犠牲者支援の項目はない。また、7月24日草案には、ATTの実施のための国内措置の違反に関する捜査や訴追に関する支援が含まれていたが、これは7月26日草案では削除されている

【第15条:署名、批准、受諾、承認又は加入】
 7月24日文書では、国家だけでなく地域統合組織も署名、批准、受諾、承認又は加入が可能になっていたが、7月26日文書からは削除された。
※ 2012年7月交渉会議において、EU諸国などは、地域統合組織も署名等が可能にすべきと主張したが、中国は、条約交渉最終日の7月27日(金)までにEUによる対中武器禁輸が解除されないのならば、地域統合組織の署名等には賛成できないと主張した。

【第16条:発効条件】
 2011年文書で具体的な批准国数等が書かれていなかった発効条件は、7月3日文書では、65か国による批准等の30日後あるいは30か国による批准等の3年後とされ、7月24日草案では、65か国による批准等の30日後とされていた。7月26日草案では、65か国による批准等の90日後になっている。

【第20条:改正】
 7月24日草案では、コンセンサスが無理な場合は出席かつ投票する締約国の3分の2による条約改正が可能となっていた。7月26日草案では、コンセンサス(by consensus)でのみ改正が可能である。

【第21条:締約国会議】
 7月26日草案は、締約国会議の役割の一つとして、この条約の履行等に関する勧告(recommendations)を検討し採択することを挙げている。ただし、締約国会議には、条約の履行状況を検討するといった役割は与えられていないため、そうした検討なしに、どのように勧告の作成に至るのかは明らかではない。

【第23条:非締約国との関係】
 7月26日草案の第23条では、「締約国は、非締約国に向けた、本条約の規制対象の通常兵器の全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」としている。これは、「本条約の規制対象(第2条)」に含まれない弾薬、部品・構成部について、非締約国向けの輸出であれば、第3条と第4条は適用されないと解釈できる。しかしながら、第6条4では、「弾薬のどのような輸出も、その許可の前に、第3条と第4条1から5を適用する」とされており、矛盾すると考えられる。部品・構成部分(第6条5)についても、同じ矛盾が指摘できる。さらに、「・・・・全ての輸出について、第3条と第4条を適用する」とされているため、非締約国向けの移転であれば、この条約の輸入規制、ブローカリング(仲介)規制、通過・積替え規制は適用されないという解釈もありうる。

【第24条:他の条約との関係】
 上述のように、第5条2の第2センテンスは、締約国の防衛協力合意(defense cooperation agreements)のもとでの契約義務を無効にするものではない、としている。この表現は、7月24日草案の第6条2の第2センテンスにも見られた。7月24日草案では、その前の第6条2の第1センテンスの中に「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」といった文言があり、インドがこの文言の削除を求めていた。7月26日草案では、「本条約の目標や目的と一貫性がある限り」という文言は削除されており、防衛協力合意に基づく契約義務である限りは、ATTの目標や目的と一貫性がなくても移転が可能と解釈することもできる。第24条は、締約国は、本条約の義務と矛盾がなく、本条約の目的を損なわない限り、通常兵器の国際貿易に関する合意を結ぶ権利がある、としているが、第6条2との関係は曖昧である。

以上。まだ指摘するべき細かいポイントはあるのですが、とりあえず7月26日草案の分析はここで終わりにします。現在、会議2日目の3月19日(火)夕方です。明日の午後には、議長より新しい条約草案が提示される見込みです。新しい草案についても、なるべく早く分析記事を掲載できればと思っております。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

武器貿易条約(ATT)7月26日条約草案の分析:その2

3月18日から28日まで、ニューヨークの国連本部で武器貿易条約(ATT)交渉会議が開催されています。
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2012年7月に開催された武器貿易条約(ATT)交渉会議終盤にの7月26日に作成された条約草案(以下、7月26日草案)については、7月交渉会議後に、このブログに当面の分析を掲載いたしましたが、この草案は、今回の3月交渉会議の冒頭数日の議論のベースになる予定ですので、あらためて、より詳細な分析を掲載いたします。なお、分析は作成者(夏木碧)の個人的なものであり、所属団体の公式なものではありません。

昨日の第1弾に続いて、今日は第2弾として、7月26日草案のなかの第3条(移転禁止)、第4条(国家による評価)についての分析を記載します。★

分析のなかで言及されている「7月24日草案」とは、7月24日に配布された条約草案(7月26日草案とは異なる)を意味します。その他、7月交渉会議中には、様々な非公式文書が作成されました。以下の分析は、そうした文書との比較を交えています。「7月24日草案」文書とその分析は、こちらのページからご覧いただけます(草案もダウンロードいただけます)。会議中の非公式文書については、このブログの武器貿易条約コーナーのなかで、2012年7月会議中に作成されたブログ記事から、各文書とそれらの分析をご覧いただけます。7月26日草案の入手方法は、先日のブログ記事に掲載しています。

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【第3条:移転の禁止】
 第3条2: 7月26日草案では、武器の国際移転について、各締約国が加盟している条約上の義務に反するような移転をしない(shall not)と書かれているが、国際慣習法に反する移転については禁止されていない

この点については、2013年2月半ばにノルウェーが各国に配布した非公式見解書で、「国際慣習法に反する移転は禁止されないことを含意しうる」と指摘されていた。

 第3条3:7月24日草案と同様に、7月26日草案においても、ジェノサイド、人道に対する罪や戦争犯罪についての文言は、これらの行為の遂行を助長する意図で(for the purpose of facilitating the comission of...)この条約の規制対象の兵器を移転を許可してはならない(shall not)、としている。つまり、これらの行為の遂行を助長する明確な意図をもって行うことはしない、という限定的な文言であり、「大きなリスクがあることを認識している」という程度の場合はあてはまらない
兵器の移転をしようとする国が、「移転先でのジェノサイド遂行を助長したいからこの兵器を移転する」と明言したり、あるいは「移転先でのジェノサイド遂行を助長しようと思って移転を検討していたが、やっぱりそんな意図をもって移転するのはATT違反だからやめよう」と移転を不許可にしたりといった状況は、ほぼありえないと言って良い。
また、この第3条3は、国家責任条文草案の第16条 を念頭に置かれていると言える。しかし、以下に示す国家責任条文草案第16条は、他国の国際違法行為の事情を認識して(with knowledge of)、支援または援助する(aid or assist)ことについて、国際責任を負うとしている。したがって、7月26日草案は、国家責任に関する既存の議論との矛盾が指摘できる。
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国家責任条文草案第16条(日本語訳はこちらのものを使用) 
第16条 国際違法行為遂行上の支援又は援助
他国による国際違法行為遂行の支援又は援助をする国家は、次の場合、支援又は援助することに対する国際責任を負う。
(a)その国家が、国際違法行為の事情を認識して、その行為を行い、且つ、
(b)その国家によって遂行された行為が、国際法違反である場合。
Article 16: Aid or assistance in the commission of an internationally wrongful act
A State which aids or assists another State in the commission of an internationally wrongful act by the latter is internationally responsible for doing so if:
(a) That State does so with knowledge of the circumstances of the internationally wrongful act; and
(b) The act would be internationally wrongful if committed by that State.
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さらに、7月26日草案の第3条3は、戦争犯罪(war crimes)に関して、「war crimes constituting grave breaches of the Geneva Conventions of 1949, or serious violations of Common Article 3 of the Geneva Conventions of 1949.(1949年のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為や、1949年のジュネーヴ諸条約の共通第三条の著しい違反を構成する戦争犯罪)」と限定する文言になっている。この書き方では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書や、国際刑事裁判所規定、国際慣習法にみられる、その他の戦争犯罪――例えば、文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃することなど――は、含まれないことになる

第3条3については、ノルウェースイスが2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書においても、国家責任に関する既存の議論では意図(intent)ではなく知識(knowledge)があることが要件であるため、<span style="color:#330066">7月26日草案は国家責任に関する既存の議論を覆してしまうと指摘されていた。スイスは、上記非公式見解書において、「for the purpose of」といった文言を変えたうえで、「戦争犯罪」とのみ記載すること(限定的な文言を削除すること)を求めていた。

【第4条:国家による評価】
 7月26日草案では、国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用されるかどうか等の評価の対象になる行為は、「輸出(export)」に限定されており、輸入、ブローカリング(仲介)、通過・積替などについては、そうした評価をする義務は一切無い
 7月26日草案の第4条1は、この条約の規制対象の通常兵器の輸出許可の審査にあたって、各締約国は、その輸出が平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価する旨が書かれている(In considering whether to authorize an export of conventional arms within the scope of this Treaty, each State Party shall assess whether the proposed export would contribute to or undermine peace and security.)。しかし、平和と安定に貢献するか妨げとなるかを評価した後、どうするのかは書かれていない
 7月26日草案の第4条2には、「国際人権法の重大な違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」、「国際人道法の重大な(著しい)違反(serious violations)の遂行や助長に使用される」といった基準が設けられており、これらに照らし合わせて輸出申請について評価することになっている。しかし、同草案の第4条5は、第4条1と2の評価などの後に、第4条2に挙げられた帰結をもたらす「overriding risk(圧倒的/決定的/優越的なリスク)」がある場合は、武器輸出を許可してはならない、としている。この表現は、これ以前の非公式文書や草案にはない、初めて使用された表現と言えるが、このoverriding risk」の意味が曖昧である。
この表現は、アメリカ政府の主張で盛り込まれたものである。会議中の7月26日に、アメリカ政府関係者は、この表現は「この兵器を輸出することによる、国際人権法の重大な違反の遂行や助長に使用される可能性が、この兵器の輸出によって平和と安定に貢献するレベルを凌駕するほど圧倒的なリスクと言えるかどうか」といった、「兵器の輸出による平和と安定への貢献」とリスクを天秤にかけることを意味すると解釈している、とNGOに伝えていた。そして、この「(平和と安定)peace and security」とは何の平和と安定なのかについては、明記されていない
したがって、26日草案は、例えば、「この兵器を輸出した場合、第4条2に挙げられたような帰結をもたらす(輸出先で国際人権法の重大な違反の遂行に使用される等)リスクが高い。しかし、この兵器の輸出は、輸入国のsecurityへの貢献度も非常に高い。第4条2に挙げられたような帰結をもたらすリスクは、輸入国のsecurityへの貢献度を凌駕するほど圧倒的な(overriding)リスクとは言えないため、輸出しても良い。」といった判断の仕方を正当化するものになる可能性がある。

この点について、ノルウェースイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において問題視し、「overriding」という表現を「substantial」に変えるべきと主張していた。

 7月26日草案の第4条6には、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、汚職行為の対象となる、輸入国(recipient State)の開発に悪影響を与える、といった文言がある。しかし、7月24日草案と同様に、7月26日草案においても、これらの文言の上には、締約国は、輸出を許可する際にこうした状況を「回避するために・・・・適切な措置をとることを検討する」旨の文言が書かれている。そして、何が「適切」なのかは、各締約国が判断することになる
したがって、武器の輸出が非合法市場へ流出/迂回する可能性等があったり、武器の輸出によって組織犯罪に使用される大きなリスクがあったりしたとしても、そうした状況を回避するための「何らかの適切な措置をとることを検討」すれば良いだけ(武器を輸出しても構わない)ということになる。

この点について、ノルウェーは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、第4条6に含まれる項目のうち、非合法市場へ流出/迂回する、ジェンダーに基づく暴力や子どもに対する暴力の遂行や助長に使用される、国際的な組織犯罪に使用される、という3つの項目を、上記の第4条2に移動させるべきと論じていた。これに対して、スイスは、2013年2月半ばに各国に配布した非公式見解書において、非合法市場へ流出/迂回する、という項目のみを、第4条2に移動させるべきと論じた。

以上。
分析の第3弾は、7月26日草案の第5条以降の部分を扱う予定です。記事掲載まで、しばらくお待ちください。

(作成者:夏木碧 「武器と市民社会」研究会事務局担当。2003年より、国際NGOオックスファムにて人道/軍備管理・軍縮分野を担当。ATT関連の調査・研究や国内・国際会議の企画・調整等を行う。)

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